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企業研究 就活ラボ

「志望動機が書けない」の正体は、調べ方を知らないこと。

講義24本+問題240問|業界の地図・会社の読み方・8業界の代表企業|一次情報の当たり方から

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業界の地図

業界の正式な物差しは日本標準産業分類

「メーカー」「商社」といった業界の呼び方は就職活動の世界の言い方で、統計の世界には日本標準産業分類という別の物差しがあります。まず、この二つを行き来できるようにします。

「業界」という言葉には法律上の定義がありません。就職活動で使う「メーカー」「商社」「金融」「インフラ」といった区切りは、働き方や取引の相手が似ている会社をまとめた慣用の呼び方です。一方で、国の統計は日本標準産業分類という共通の物差しで産業を区切っています。総務省が定める統計基準で、直近の改定は第14回改定です。二つは一対一では対応しません。慣用の呼び方で当たりをつけ、正式な分類で位置を確かめる、という二段構えにしておくと調べ物で迷いません。

日本標準産業分類の構成は、大分類、中分類、小分類、細分類から成る4段階の階層です。分類項目名以外による記載では、大分類項目をアルファベットで表記し、中分類項目を2桁、小分類項目を3桁、細分類項目を4桁の分類番号で表記します。大分類はAの「農業、林業」からTの「分類不能の産業」までの20項目です。就職活動でよく使う7つのくくりのうち、メーカーはE、商社と小売はI、金融はJ、情報通信はG、インフラはFやHにおおむね対応しますが、サービスはL、M、N、O、P、Q、Rなど複数の大分類にまたがります。

この分類を適用する単位は事業所です。経済センサスなどで企業等を単位として産業別に分類しようとする場合には、本分類を準用することができるという整理になっています。一つの事業所で複数の分類項目に該当する経済活動が行われている場合は、主要な経済活動によって産業を決めます。主要かどうかは付加価値によって判断するのが最良とされ、付加価値の情報が得られないときは産出額、販売額、収入額、従業者数などを代理の指標に使います。格付けは上位分類から順に下位分類へ下ろしていきます。

実務で効いてくるところが三つあります。第一に、製造業は新たな製品の製造加工を行い、その製品を主として卸売する事業所を指します。店舗で個人に売る製造小売業は小売業に分類され、修理だけを専業とする事業所も製造業には入りません。第二に、卸売業と小売業を分けるのは誰に売るかです。小売業や他の卸売業、産業用使用者に大量または多額に売るのが卸売業、個人用または家庭用消費のために売るのが小売業です。第三に、会社としての事業活動を行わず管理機能だけを持ついわゆる純粋持株会社の事業所は、大分類Lの「学術研究、専門・技術サービス業」にある「純粋持株会社(7282)」に分類されます。ホールディングスという社名から製造業だと思い込むと、統計を引くときにずれます。

気になる会社が統計上どの産業に入るかを調べる手順
1. 総務省の「統計基準等」のページで日本標準産業分類を開く
2. 「分類項目表」で大分類AからTまでを一度通して見渡す
3. その会社の主な事業に近い大分類を1つ選ぶ
4. 選んだ大分類の中で、中分類の2桁まで下りる
5. e-Statの「統計分類・用語の検索」で小分類の3桁と細分類の4桁を確かめる
6. 有価証券報告書の「事業の内容」と見比べ、選んだ分類とずれていないか点検する
7. ずれていたら、付加価値の大きい活動はどれかという観点で選び直す
日本標準産業分類の大分類 20項目
記号大分類の名称
A農業、林業
B漁業
C鉱業、採石業、砂利採取業
D建設業
E製造業
F電気・ガス・熱供給・水道業
G情報通信業
H運輸業、郵便業
I卸売業、小売業
J金融業、保険業
K不動産業、物品賃貸業
L学術研究、専門・技術サービス業
M宿泊業、飲食サービス業
N生活関連サービス業、娯楽業
O教育、学習支援業
P医療、福祉
Q複合サービス事業
Rサービス業(他に分類されないもの)
S公務(他に分類されるものを除く)
T分類不能の産業
日本標準産業分類
総務省が定める統計基準。統計調査の対象となる産業の範囲の確定や、統計結果の産業別表章に用いる。直近は第14回改定。
大分類
分類の最上位の階層。Aの「農業、林業」からTの「分類不能の産業」まで20項目あり、アルファベットで表記する。
事業所
経済活動の場所的単位。単一の経営主体により一区画を占めて行われ、その区画に人と設備があって継続的に行われているもの。産業分類を適用する単位。
主要な経済活動
一つの事業所で複数の活動がある場合に産業を決める基準。付加価値によるのが最良とされ、得られないときは産出額や販売額などを代理指標にする。
製造業
大分類E。新たな製品の製造加工を行い、主として卸売する事業所。単なる選別や包装、修理の専業は含まない。
卸売業
大分類Iに含まれる。小売業や他の卸売業、産業用使用者に商品を大量または多額に販売する事業所。売買の代理や仲立ちも含む。
小売業
大分類Iに含まれる。個人用または家庭用消費のために商品を販売する事業所。産業用使用者に少量または少額に販売するものも含む。
純粋持株会社
会社としての事業活動を行わず、経営権を取得した会社に対する管理機能を持つ会社。事業所は大分類Lの「純粋持株会社(7282)」に分類される。

例題 「うちは総合サービス業です」と書いてある会社があります。産業分類ではどう扱いますか。

「総合サービス業」という大分類はありません。事業所ごとに主要な経済活動を見て、L、M、N、O、P、Q、Rなどのどれに当たるかを決めます。有価証券報告書のセグメント情報を見て、付加価値の大きい活動から順に当てはめます。

例題 自社工場で作った家具を、自社の直営店だけで個人客に売っている会社の事業所は、製造業ですか。

店舗で直接個人に販売する製造小売業は小売業に分類されます。製造業は新たな製品を主として卸売する事業所を指すためです。

例題 社名に「ホールディングス」と付いていれば、必ず純粋持株会社ですか。

いいえ。社名は自由に付けられます。会社としての事業活動も行っている事業持株会社なら、主として管理業務を行う本社に準じて産業を決めます。事業の内容を読んで確かめます。

出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定)」

サプライチェーンのどこにいるかで会社は見える

会社の姿は、何を作っているかより「誰に売っているか」でつかめます。素材から小売までの並びのどこにいるかと、相手が事業者か個人かの二つで整理します。

ものが消費者に届くまでには、素材、部品、完成品、卸売、小売という段階があります。原料に近い側を川上、消費者に近い側を川下と呼びます。同じ「自動車の会社」でも、鋼板を作る会社、部品を作る会社、車を組み立てる会社、販売店を運営する会社では、売る相手も、業績が揺れる理由も、必要とされる仕事も違います。会社を調べるときにまずやることは、その会社をこの並びのどこかに置いてみることです。

次に、取引の相手が事業者か個人かを見ます。事業者に売るのがBtoB、個人の消費者に売るのがBtoCです。部品を完成品メーカーに納め、その完成品が消費者に届く形をBtoBtoCと呼ぶこともあります。BtoBの会社は広告を打つ相手が事業者なので、一般の知名度は低くなりがちです。知名度と事業の規模や役割は別物だ、と割り切ることが企業研究の第一歩になります。逆にBtoCの会社は、消費者としての実感がある分、売り方や店舗の話に目が行きすぎて、稼ぎの柱を見落としやすくなります。

この並びを横から支える会社もあります。商社は売り手と買い手をつなぐ仲介に加え、代金の立替えなどの金融、輸出入の手続きや物流の手配、情報の提供、事業への投資といった機能を担います。物流、金融、情報通信、人材のサービスも同じく各段階に機能を提供する側です。つまり業界を「7つのくくり」で覚えるより、「並びのどこか」と「支える側か」で見たほうが、会社の役割は正確につかめます。

確かめ方は決まっています。有価証券報告書の「第1 企業の概況」にある「3 事業の内容」です。ここには、提出会社と関係会社が営む主な事業の内容と、その事業における位置づけを、セグメント情報との関連を含めて系統的に説明し、事業系統図等で示すことになっています。セグメントの区分ごとに、その事業に携わっている主要な関係会社の名称も併せて書かれます。誰から仕入れて誰に売っているかは、この図をたどれば分かります。会社名の響きや求人票の職種一覧から推測するより、はるかに確実です。

ある会社がサプライチェーンのどこにいるかを確かめる手順
1. EDINETでその会社の有価証券報告書を開く
2. 「第1 企業の概況」の「3 事業の内容」まで進む
3. 事業系統図で、誰から仕入れ、誰に売っているかを矢印でたどる
4. セグメントの名前と、その事業に携わる主要な関係会社の名称を書き出す
5. 主な取引の相手が事業者か個人の消費者かで、BtoBかBtoCかを判断する
6. 素材、部品、完成品、卸売、小売、支える側のどこに当たるかを一言で言えるようにする
7. 同じ段階にいる他の会社も同じ手順で見て、比べられる形にそろえる
サプライチェーンの段階と主な取引の相手
段階主な役割主な取引の相手
素材鉱石、原油、木材などから鋼材、化学品、紙などの素材を作る部品メーカー、完成品メーカー
部品素材を加工して機械や電子機器の部品を作る完成品メーカー
完成品部品を組み立てて、最終製品として売れる形にする卸売業、小売業、産業用使用者
卸売商品をまとめて仕入れ、小売業や他の卸売業、産業用使用者に売る小売業、他の卸売業、事業者
小売個人用または家庭用消費のために商品を売る個人の消費者
支える側物流、金融、情報通信、人材などの機能を各段階に提供する各段階の事業者
川上
素材や原料に近い上流の段階。鋼材、化学品、紙などを作る会社が位置する。
川下
消費者に近い下流の段階。卸売や小売が位置し、最終需要の動きが直に効いてくる。
BtoB
事業者どうしの取引。部品、素材、業務用の設備やサービスなどが該当し、一般の知名度と事業規模は一致しないことが多い。
BtoC
事業者から個人の消費者への取引。日本標準産業分類でいえば、個人用または家庭用消費のための販売が小売業にあたる。
BtoBtoC
直接の取引相手は事業者だが、その先に消費者がいる形。直接の顧客と最終の使い手の両方を見る必要がある。
商社
売買の仲介に加え、金融、物流、情報、事業投資などの機能を担う会社。幅広い分野を扱う総合商社と、分野を絞った専門商社がある。
事業系統図
有価証券報告書の「事業の内容」で示される図。提出会社と関係会社の関係や、商流の向きを一枚で表す。
産業用使用者
建設業や製造業など、事業のために商品を使う買い手。ここに大量または多額に販売するものは卸売業に分類される。

例題 名前を聞いたことのない会社の説明会に誘われました。調べる価値はありますか。

あります。BtoBの会社は広告を打つ相手が事業者なので、一般の知名度は低くなります。有価証券報告書の「事業の内容」で、どの工程を担い、誰に売っているかを確かめてから判断します。

例題 「川上に強い」と書いてある記事を見ました。何を意味しますか。

素材や原料に近い上流の段階で位置を占めている、という意味です。川上は最終需要から距離があるぶん、動き方も、必要とされる技術も、川下とは違います。

例題 商社と小売業はどう違いますか。

小売業は個人用または家庭用消費のために売る事業所です。商社は事業者どうしの売買の仲介を軸に、金融、物流、情報、事業投資といった機能を担います。売る相手と担う機能が違います。

※ 公的な定めはありません。広く知られた業界の構造を整理したものです

グループの形と、市場の形を押さえる

親会社、子会社、関連会社、持株会社。似た言葉には、それぞれ別の条文の定義があります。あわせて、市場が何社に集中しているかの見方と、東証の市場区分も押さえます。

グループ会社という言葉は日常語で、法令の定義があるのは個々の呼び方のほうです。会社法 第2条第3号は子会社を「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」と定義し、同条第4号が親会社を定義しています。財務諸表の世界では別の定義が使われます。財務諸表等規則 第8条第5項は関連会社を、会社等およびその子会社が、子会社以外の他の会社等の財務および営業または事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合の、その会社等としています。同条第6項は、原則として議決権の20%以上を所有している場合などをその「重要な影響」に当たる場合として挙げています。そして同条第8項の関係会社は、親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社をまとめた呼び方です。

持株会社にも定義があります。独占禁止法 第9条第4項第1号は、子会社の株式の取得価額の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が100分の50を超える会社を持株会社としています。社名に「ホールディングス」と付いているかどうかは定義とは無関係です。自分でも事業を行う事業持株会社と、管理機能だけを持つ純粋持株会社があり、後者の事業所は日本標準産業分類では大分類Lの「純粋持株会社(7282)」に分類されます。志望先が持株会社なのか事業会社なのかで、採用の主体も配属の考え方も変わることがあるので、応募の前に確かめておく価値があります。

市場の形を表す言葉も整理しておきます。シェアは一定の市場でその会社が占める割合、寡占は少数の会社に集中している状態を指します。集中の度合いを測る道具として、公正取引委員会の企業結合ガイドラインはHHIを使います。HHIはハーフィンダール・ハーシュマン指数のことで、一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和で算出されます。同ガイドラインは、企業結合後のHHIが1,500以下の場合、1,500超2,500以下で増分が250以下の場合、2,500を超え増分が150以下の場合には、通常は競争を実質的に制限することとならないとしています。参入障壁は、新しい会社がその市場に入りにくくしている要因のことで、大規模な設備投資、許認可、流通網や取引先の関係、技術やブランドの蓄積などが代表例です。

最後に上場している場所です。東京証券取引所は2022年4月4日から、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQの4区分を、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3区分に再編しました。プライム市場は多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額を持ち、より高いガバナンス水準を備える企業向け、スタンダード市場は一定の時価総額を持ち上場企業としての基本的なガバナンス水準を備える企業向け、グロース市場は高い成長可能性の実現に向けた事業計画とその進捗の適時適切な開示が行われ、一方で事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けとされています。このほか、投資できる者を特定投資家等に限ったTOKYO PRO Marketも東京証券取引所が運営しています。市販の業界地図は関係を一望するのに便利ですが、数字も関係も時期で変わります。全体像をつかむ入口として使い、個別の事実は各社の公表資料で裏を取ってください。

グループの形と上場している場所を調べる手順
1. 会社の公式サイトで「会社概要」と「グループ会社一覧」を開く
2. EDINETで有価証券報告書の「第1 企業の概況」の「4 関係会社の状況」を見る
3. 親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社の別と、議決権に対する所有割合を書き出す
4. 社名にホールディングスとあれば、自分で事業を行っているかを「3 事業の内容」で確かめる
5. 採用の主体が持株会社か事業会社かを、採用ページの募集要項で確認する
6. 日本取引所グループのサイトで、プライム、スタンダード、グロースのどれに上場しているかを見る
7. 上場していない会社なら、有価証券報告書が存在しない場合があることを前提に調べ方を切り替える
似ている呼び方の、根拠と目安
呼び方根拠目安
子会社会社法 第2条第3号総株主の議決権の過半数を有するなど、経営を支配している法人
親会社会社法 第2条第4号株式会社を子会社とする会社など、その会社の経営を支配している法人
関連会社財務諸表等規則 第8条第5項・第6項子会社以外で、原則として議決権の20%以上を持つなど重要な影響を与えられる会社
関係会社財務諸表等規則 第8条第8項親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社をまとめた呼び方
持株会社独占禁止法 第9条第4項第1号子会社株式の取得価額の合計額が総資産の100分の50を超える会社
純粋持株会社総務省「日本標準産業分類」事業活動を行わず管理機能を持つ会社。事業所は大分類Lの純粋持株会社(7282)
子会社
会社が総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他、経営を支配している法人(会社法 第2条第3号)。
親会社
株式会社を子会社とする会社その他、その株式会社の経営を支配している法人(会社法 第2条第4号)。
関連会社
子会社以外で、財務および営業または事業の方針の決定に重要な影響を与えることができる会社(財務諸表等規則 第8条第5項)。議決権20%以上の所有が目安の一つ。
関係会社
財務諸表提出会社の親会社、子会社、関連会社、およびその他の関係会社をまとめた呼び方(財務諸表等規則 第8条第8項)。
持株会社
子会社の株式の取得価額の合計額の総資産の額に対する割合が100分の50を超える会社(独占禁止法 第9条第4項第1号)。
シェア
一定の市場においてその事業者が占める割合。通常は販売数量の百分比で計算される。
HHI
ハーフィンダール・ハーシュマン指数。一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和。集中の度合いが高いほど大きくなる。
参入障壁
新しい会社がその市場に入りにくくしている要因。設備投資の大きさ、許認可、流通網、技術やブランドの蓄積など。
市場区分
東京証券取引所が2022年4月4日から適用しているプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3区分。

例題 議決権を30%持っている会社は、子会社ですか関連会社ですか。

過半数ではないので会社法上の子会社の典型には当たりません。財務諸表等規則 第8条第6項は議決権20%以上の所有を関連会社の目安の一つとしており、通常は関連会社として扱われます。ただし他の要件で子会社と判定される場合もあるため、有価証券報告書の「関係会社の状況」で確かめます。

例題 「業界2位」と書かれた記事を志望動機に引用してよいですか。

順位やシェアは調査主体や集計の区切り方で変わり、年によっても動きます。引用するなら出所と時点を確かめ、できれば会社自身が公表している資料に置き換えます。

例題 グロース市場に上場している会社は、プライム市場の会社より劣るのですか。

優劣の区分ではありません。市場ごとにコンセプトが違い、求められる開示やガバナンスの水準、想定する投資家が異なります。会社の良し悪しを表すものではありません。

出典:会社法 第2条・財務諸表等規則 第8条・独占禁止法 第9条・東京証券取引所 市場区分の見直し

会社の読み方

有価証券報告書は、どこに何が書いてあるか

上場会社が毎年出す有価証券報告書は、書く中身も並び順も法令で決まっています。決まっているからこそ、どの会社でも同じ場所を開けば同じ種類のことが分かります。

金融商品取引法 第24条第1項は、有価証券の発行者である会社について、その有価証券が金融商品取引所に上場されている有価証券などに該当する場合、事業年度ごとに有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないと定めています。記載するのは、会社の商号、その会社の属する企業集団および経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項です。提出の期限は、内国会社にあっては当該事業年度経過後3か月以内です。3月決算の会社なら6月末までに出る、という感覚を持っておくと探しやすくなります。

並び順は企業内容等の開示に関する内閣府令の第三号様式で決まっています。第一部の「企業情報」は、第1 企業の概況、第2 事業の状況、第3 設備の状況、第4 提出会社の状況、第5 経理の状況、第6 提出会社の株式事務の概要、第7 提出会社の参考情報の順です。第二部は「提出会社の保証会社等の情報」です。企業研究でまず開くのは第1と第2と第5の三つになります。第1 企業の概況は、1 主要な経営指標等の推移、2 沿革、3 事業の内容、4 関係会社の状況で構成されます。従業員の状況は2026年3月期以後の有価証券報告書では「第4 提出会社の状況」の「5 従業員の状況等」に置かれています。第2 事業の状況は、1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等、2 サステナビリティに関する考え方及び取組、3 事業等のリスク、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、5 重要な契約等、6 研究開発活動です。

沿革の読み方にはコツがあります。記載上の注意は、提出会社の設立日から提出日までの間について、創立経緯、商号の変更、企業集団に係る重要な事項、すなわち合併、事業内容の変更、主要な関係会社の設立や買収、上場等を簡潔に記載することを求めています。つまり沿革は年表ではなく、会社が何を始め、何をやめ、どこへ移ってきたかの記録です。志望動機を書くときに効くのは、いま何をしているかより、どういう経緯でいまの形になったのかのほうです。関係会社の状況も同じで、親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社に分けて、名称、住所、資本金または出資金、主要な事業の内容、議決権に対する提出会社の所有割合、関係内容が並びます。

有価証券報告書のほかにも、法令にもとづく報告書があります。半期報告書は金融商品取引法 第24条の5第1項にもとづくもので、上場会社等の場合、事業年度が開始した日以後6か月間が経過した日から起算して45日以内の政令で定める期間内に提出します。上場会社等以外は3か月以内です。組織再編など一定の事実が生じたときに出すのが臨時報告書で、同条第4項が根拠です。これらを見る場所がEDINETで、正式には「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」といいます。金融庁が運用しており、提出から公衆縦覧までを電子化しています。有価証券報告書の縦覧期間は5年です。過去5年分を並べて読めば、事業の重心がどう動いたかが分かります。

EDINETで有価証券報告書を開く手順
1. EDINETの書類検索を開く
2. 提出者や発行者の名称に会社名を入れて検索する
3. 書類種別で「有価証券報告書」を選び、直近のものを開く
4. 目次から「第1 企業の概況」に進み、沿革と事業の内容を読む
5. 事業系統図で、仕入先と販売先の向きを確かめる
6. 「第2 事業の状況」の事業等のリスクを読み、会社が挙げている懸念を書き出す
7. 「第5 経理の状況」でセグメント情報の注記を開き、事業別の売上と利益を見る
8. 5年前の有価証券報告書も開き、同じ場所を見比べて変化をつかむ
有価証券報告書 第一部「企業情報」の並びと、就職活動での使いどころ
主な中身ここで分かること
第1 企業の概況主要な経営指標等の推移、沿革、事業の内容、関係会社の状況会社の輪郭。まずここを通しで読む
第2 事業の状況経営方針と課題、サステナビリティ、事業等のリスク、経営者による分析、重要な契約等、研究開発活動会社が自分でどう見ているか、何を不安に思っているか
第3 設備の状況設備投資の概要、主要な設備、新設や除却の計画どこに拠点があり、どこへ投資しているか
第4 提出会社の状況株式等の状況、大株主、議決権、役員の状況など誰が株主で、誰が経営しているか
第5 経理の状況連結財務諸表等と財務諸表等数字の本体。セグメント情報もここにある
第6 提出会社の株式事務の概要事業年度、定時株主総会、基準日、公告掲載方法など会社の暦と事務の枠組み
第7 提出会社の参考情報提出会社の親会社等の情報、その他の参考情報親会社がいるかどうかの確認
有価証券報告書
上場会社などが事業年度ごとに提出する報告書。内国会社は事業年度経過後3か月以内に内閣総理大臣に提出する(金融商品取引法 第24条第1項)。
第三号様式
企業内容等の開示に関する内閣府令が定める有価証券報告書の様式。第一部「企業情報」の第1から第7までの並び順が決まっている。
沿革
設立日から提出日までの創立経緯、商号の変更、合併、事業内容の変更、主要な関係会社の設立や買収、上場等を簡潔に記した項目。
事業の内容
提出会社と関係会社が営む主な事業の内容と、その事業における位置づけを、セグメント情報との関連を含めて説明し、事業系統図等で示す項目。
関係会社の状況
親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社に分けて、名称、住所、資本金、主要な事業の内容、議決権の所有割合、関係内容を記載する項目。
半期報告書
事業年度の途中の状況を示す報告書。上場会社等は6か月間の経過後45日以内の政令で定める期間内に提出する(金融商品取引法 第24条の5第1項)。
臨時報告書
一定の事実が生じたときにその都度提出する報告書(金融商品取引法 第24条の5第4項)。
EDINET
金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム。金融庁が運用し、提出から公衆縦覧までを電子化している。
公衆縦覧
提出された書類を誰でも見られる状態に置くこと。有価証券報告書とその添付書類および訂正報告書の縦覧期間は5年(金融商品取引法 第25条第1項第3号)。

例題 志望先が3月決算です。最新の有価証券報告書はいつごろ出ますか。

内国会社の提出期限は事業年度経過後3か月以内なので、6月末までに出ます。定時株主総会の直後に出ることが多く、それまでは前の事業年度のものが最新です。

例題 非上場の会社を調べたいのですが、有価証券報告書が見つかりません。

提出義務は上場している有価証券の発行者などにかかります。非上場の会社は提出していない場合があるので、公式サイトの会社概要、決算公告、官公庁の統計や業界団体の資料に切り替えて調べます。

例題 沿革はどこを見ればよいですか。

商号の変更、合併、事業内容の変更、主要な関係会社の設立や買収、上場の年です。何を始めて何をやめたかが並ぶので、会社の重心がどこへ動いたかが読み取れます。

出典:金融商品取引法 第24条

数字は5つの利益とセグメントから読む

財務諸表は隅から隅まで読むものではありません。損益計算書の5つの利益、貸借対照表のおおまかな形、そしてどの事業で稼いでいるか。この三つで十分に会社は見えます。

損益計算書は、売上高から順に費用を引いていく引き算の表です。財務諸表等規則は、売上高から売上原価を控除した額を売上総利益とし(第83条)、そこから販売費及び一般管理費の合計額を控除した額を営業利益とし(第89条)、営業利益に営業外収益を加減し営業外費用を加減した額を経常利益とし(第95条)、経常利益に特別利益と特別損失を加減した額を税引前当期純利益とし(第95条の4)、そこから法人税、住民税及び事業税などを加減した額を当期純利益とする(第95条の5)と定めています。会社計算規則 第88条第1項も、損益計算書等を売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失の7区分に分けて表示すると定めています。本業の稼ぎを見たいなら営業利益、借入の利息まで含めた通常の実力を見たいなら経常利益です。

貸借対照表は、右に「お金をどこから持ってきたか」、左に「それを何に変えたか」が並ぶ表です。右は負債と純資産、左は資産です。純資産は、株主資本、評価・換算差額等、株式引受権および新株予約権に分類して記載します(財務諸表等規則 第59条)。ここから出てくる指標が自己資本比率です。有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」に載る自己資本比率は、純資産額から株式引受権、新株予約権および非支配株主持分の金額を控除した額を、総資産額で除した割合と定義されています。分子が自己資本、分母が総資産です。同じ表には最近5連結会計年度分が並ぶので、上がってきたのか下がってきたのかが一目で分かります。

単体と連結の違いも押さえます。「第5 経理の状況」には、1 連結財務諸表等と 2 財務諸表等が並びます。前者は親会社と子会社を含む企業集団をひとつの会社とみなして合算した数字、後者は提出会社ひとりだけの数字です。グループで事業をしている会社では、単体の売上高が小さく見えることがあります。持株会社なら、単体の売上高はグループ会社からの配当や経営管理料が中心になるためです。まず連結を見るのが原則で、単体は補助として使います。

そして、どの事業で稼いでいるかはセグメント情報で見ます。企業会計基準第17号は、事業セグメントを、収益を稼得し費用が発生する事業活動に関わるもので、最高経営意思決定機関が資源配分の意思決定と業績評価のために経営成績を定期的に検討するものであり、分離された財務情報を入手できるもの、と定義しています。社内で実際に使っている区分をそのまま外に出す考え方で、マネジメント・アプローチと呼ばれます。報告セグメントは量的基準で決まり、売上高、利益または損失の絶対値、資産のいずれかがすべての事業セグメントの合計額の10%以上であれば報告セグメントとして開示しなければなりません。さらに、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が損益計算書の売上高の75%未満のときは、75%以上になるまで報告セグメントを追加します。売上が大きい事業と利益が大きい事業は一致しないことがあるので、両方を並べて見てください。

その会社が何で稼いでいるかを調べる手順
1. 有価証券報告書の「第5 経理の状況」を開く
2. 連結財務諸表の注記からセグメント情報を探す
3. 報告セグメントの名前をすべて書き出す
4. セグメントごとの売上高を並べ、大きい順に順位をつける
5. 同じ表のセグメント利益を並べ、売上の順位と一致するかを見る
6. 一致しないセグメントがあれば、そこが利益率の高い事業か低い事業かを判断する
7. 「第1 企業の概況」の事業の内容に戻り、そのセグメントを担う関係会社の名前を確かめる
8. 5年前の有価証券報告書で同じ表を見て、稼ぎ頭が入れ替わっていないかを点検する
損益計算書に並ぶ5つの利益
利益計算のしかた根拠
売上総利益売上高から売上原価を差し引く財務諸表等規則 第83条
営業利益売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引く財務諸表等規則 第89条
経常利益営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引く財務諸表等規則 第95条
税引前当期純利益経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引く財務諸表等規則 第95条の4
当期純利益税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税などを差し引く財務諸表等規則 第95条の5
売上総利益
売上高から売上原価を控除した額(財務諸表等規則 第83条)。粗利とも呼ばれる。
営業利益
売上総利益から販売費及び一般管理費の合計額を控除した額(財務諸表等規則 第89条)。本業の稼ぎを示す。
経常利益
営業利益に営業外収益を加減し、営業外費用を加減した額(財務諸表等規則 第95条)。受取利息や支払利息を含む。
税引前当期純利益
経常利益に特別利益と特別損失を加減した額(財務諸表等規則 第95条の4)。
当期純利益
税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税などを加減した額(財務諸表等規則 第95条の5)。
純資産の部
株主資本、評価・換算差額等、株式引受権、新株予約権に分類して記載する(財務諸表等規則 第59条)。
自己資本比率
純資産額から株式引受権、新株予約権、非支配株主持分を控除した額を総資産額で除した割合。有価証券報告書の主要な経営指標等の推移に載る。
連結財務諸表
親会社と子会社を含む企業集団をひとつの会社とみなして作る財務諸表。提出会社だけの数字が単体の財務諸表。
事業セグメント
収益と費用が発生し、最高経営意思決定機関が業績を定期的に検討し、分離された財務情報を入手できる企業の構成単位(企業会計基準第17号)。
マネジメント・アプローチ
経営者が意思決定と業績評価に使っている区分に沿ってセグメントを開示する考え方。

例題 営業利益と経常利益は、どちらを見ればよいですか。

本業でどれだけ稼げているかを見たいなら営業利益です。借入の利息や受取配当などを含めた、通常の状態での実力を見たいなら経常利益です。両方並べて、差が大きい会社は営業外の項目を確かめます。

例題 持株会社の単体の売上高がとても小さいのですが、業績が悪いということですか。

そうとは限りません。持株会社の単体の収益はグループ会社からの配当や経営管理料が中心になることがあります。企業集団の姿を見るなら連結財務諸表を見ます。

例題 セグメントの数が会社によって違うのはなぜですか。

経営者が意思決定と業績評価に使っている区分に沿って開示するためです。加えて、売上高、利益、資産のいずれかが合計額の10%以上という量的基準や、外部顧客への売上高が75%以上になるまで追加する決まりがあります。

出典:財務諸表等規則 第83条・第89条・第95条・第95条の4・第95条の5

資料を見分けて、一次情報にたどりつく

会社の情報には、法令で出すものと、会社が自分の意思で出すものがあります。どちらの性質かを見分けてから読むと、書いてあることの重みが分かります。

上場会社が最初に出す決算の情報は決算短信です。東京証券取引所の有価証券上場規程 第404条は、決算の内容が定まった場合は直ちにその内容を開示することを義務づけています。開示の時期については、遅くとも決算期末後45日以内に内容のとりまとめを行い開示することが適当とされ、30日以内がより望ましいとされています。50日を超える場合は、理由と翌年度以降の見込みを開示することが求められます。つまり決算短信は速報で、有価証券報告書より早く出ます。早い代わりに情報量は絞られています。数字の詳細と事業の説明は有価証券報告書、いちばん早い数字は決算短信、と使い分けます。

決算説明資料や統合報告書は、法令が提出を義務づけた書類ではありません。会社が自分の意思で作る任意の開示です。決算説明資料は図表が多く、経営者が何を強調したいかがそのまま出ます。統合報告書は、財務資本の提供者に対して組織が長期にわたりどのように価値を創造するかを説明することを主たる目的とする報告書で、国際統合報告フレームワークや、経済産業省の価値協創ガイダンス2.0が参照されます。任意の開示は、書いてあることは確かめる価値がありますが、書いていないことを不利な事実の隠蔽だと決めつけないでください。義務がないのですから、載せる載せないは会社の判断です。

働き方の情報にも根拠があります。職業安定法 第5条の3第1項は、労働者の募集などに当たり、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。同法 第5条の4第1項は、広告等により求人や募集に関する情報を提供するときに、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないとし、同条第2項は、募集を行う者に情報を正確かつ最新の内容に保つことを求めています。さらに青少年の雇用の促進等に関する法律 第13条第2項は、新卒者等の募集に応じ、または応じようとする者から求めがあった場合、青少年雇用情報を提供しなければならないと定めています。提供する情報は、ア 募集・採用に関する状況、イ 職業能力の開発・向上に関する状況、ウ 企業における雇用管理に関する状況の3類型に整理されており、求めがあった場合は各類型について1つ以上の提供が義務となります。過去3年間の新卒採用者数と離職者数、平均勤続年数、研修の有無と内容、前年度の月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数などがここに含まれます。

一次情報とは、会社自身や官公庁が出している元の資料のことです。順番を決めておくと迷いません。まずEDINETで有価証券報告書を読み、次に会社の公式サイトのIR情報で決算短信や説明資料を見て、業界の全体像は官公庁の統計で確かめます。統計はe-Statから探せます。就職四季報のような市販の資料やまとめ記事は、一次情報にたどりつくための手がかりとして使います。会社説明会は、公表資料を読んだうえで、資料からは読み取れないことを確かめる場です。セグメントや沿革といった事実を先に押さえておけば、質問は自然と具体的になります。他社との優劣や将来の株価は、会社が答えられる性質の問いではありません。

一次情報にたどりつく手順
1. EDINETで有価証券報告書を開き、事業の内容と沿革を読む
2. 同じ書類の第5 経理の状況で、セグメント情報を確認する
3. 会社の公式サイトの「IR情報」を開き、直近の決算短信を見る
4. 決算説明資料があれば開き、経営者が強調している論点を書き出す
5. 統合報告書があれば、長期の方針の説明として読む
6. 採用ページで募集要項と青少年雇用情報を確認する
7. 見当たらない項目は、説明会で求めがあった場合の提供義務があることを踏まえて質問する
8. 業界の全体像はe-Statなど官公庁の統計で確かめ、市販の資料は手がかりとして使う
会社をめぐる資料の、根拠と向いている使い方
資料出す根拠向いている使い方
有価証券報告書金融商品取引法 第24条第1項事業の内容、沿革、セグメント、財務を通しで確かめる
半期報告書金融商品取引法 第24条の5第1項事業年度の途中の状況を見る
臨時報告書金融商品取引法 第24条の5第4項組織再編などその都度の出来事を知る
決算短信東京証券取引所 有価証券上場規程 第404条決算のいちばん早い数字を知る
決算説明資料任意の開示経営者が何を強調しているかを読む
統合報告書任意の開示長い時間軸での価値の作り方の説明を読む
青少年雇用情報青少年の雇用の促進等に関する法律 第13条働き方の実態を数字で確かめる
官公庁の統計各府省の統計調査業界の全体像と、その会社の位置を確かめる
決算短信
上場会社が決算の内容が定まった場合に直ちに開示する速報(東京証券取引所 有価証券上場規程 第404条)。
45日以内
決算短信の開示について、遅くとも決算期末後45日以内が適当とされる目安。30日以内がより望ましいとされる。
決算説明資料
決算の内容を投資家向けに説明する任意の資料。経営者が何を強調しているかが読み取れる。
統合報告書
財務資本の提供者に対し、組織が長期にわたりどのように価値を創造するかを説明する任意の報告書。
価値協創ガイダンス2.0
経済産業省が示す、企業と投資家の対話のための手引き。統合的な開示の考え方を整理している。
青少年雇用情報
新卒者等の募集を行う会社が提供する職場情報。求めがあった場合は3類型それぞれについて1つ以上の提供が義務となる。
労働条件の明示
募集に当たり、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示する義務(職業安定法 第5条の3第1項)。
一次情報
会社自身や官公庁が出している元の資料。有価証券報告書、公式サイトのIR情報、官公庁の統計など。

例題 決算短信と有価証券報告書は、どちらを先に読めばよいですか。

企業研究なら有価証券報告書が先です。事業の内容、沿革、セグメント、リスクまで通して書かれています。決算短信は最新の数字を早く知るために後から見ます。

例題 統合報告書に都合の悪いことが書いていません。隠しているのですか。

統合報告書は任意の開示なので、載せる範囲は会社が決めます。義務のある開示で確かめたいなら、有価証券報告書の事業等のリスクや、経営者による分析を読みます。

例題 説明会で残業時間や離職率を聞くのは失礼ですか。

失礼ではありません。青少年の雇用の促進等に関する法律 第13条第2項は、応募しようとする者から求めがあった場合の情報提供を義務としています。前年度の月平均所定外労働時間や過去3年間の離職者数は、その3類型に含まれる項目です。

出典:東京証券取引所 有価証券上場規程 第404条

メーカー

メーカーは誰に売っているか

ひと口にメーカーといっても、消費者に売る会社と、会社に売る会社とでは仕事の中身が違います。ものが流れる順番に並べると、業界の地図が見えてきます。

メーカーを一列に並べるときは、原料に近いほうを川上、使う人に近いほうを川下と呼びます。鉄やガラス、樹脂、繊維といった材料をつくる素材メーカーがいちばん川上にあり、その材料を加工して部品にする部品メーカーが中ほど、部品を組み立てて自動車や家電にする完成品メーカーが川下に位置します。買う相手が会社であれば取引はBtoB、最終的に使う個人であればBtoCです。素材と部品はほぼBtoB、食品や化粧品、日用品はBtoCが中心になります。同じものづくりでも、営業の相手が取引先の購買部門なのか小売の売場なのかで、必要な力も日々の仕事も変わります。名前を知らない会社だから小さい、という読み方は当たりません。生産財だけを売っている会社は、消費者に広告を出す必要がないので名前が広まらないだけです。

自動車のように部品点数が多い製品では、部品メーカーが階層になります。完成品メーカーに直接納めるのがティア1、いわゆる一次サプライヤーで、ティア1に納めるのがティア2、さらにその先がティア3です。階層が下がるほど扱う範囲が狭く、加工そのものの専門性が高くなります。日本の自動車業界では、この階層が長い取引関係として続いてきたものを系列と呼んできました。近年は完成車メーカーが系列の外からも買い、部品メーカーも他社に売るのがふつうになっています。志望する会社がどの階層にいるかは、その会社の主要な販売先を見れば分かります。

誰が設計し、誰が作るかも分けて見ます。相手先のブランドで製品を生産することをOEMといい、設計まで引き受ける場合はODMと呼び分けます。電子機器の製造工程をまとめて引き受ける事業はEMSといいます。自社で設計から組み立てまでを抱える形が垂直統合、工程ごとに得意な会社が分かれる形が水平分業です。電機や半導体では水平分業が進み、自動車では長く垂直統合に近い形が保たれてきました。この違いを知らずに志望動機で開発から製造まで一貫してと書くと、水平分業の会社では話がかみ合いません。

調べるときの入口は三つです。第一に公式サイトの会社概要にある事業内容の一文で、その会社が自分を何屋だと言っているかが分かります。第二に有価証券報告書の事業の内容とセグメント情報で、どの事業が柱かが分かります。第三に沿革で、もともと何を作っていた会社かが分かります。素材から始まって電子材料へ進んだ会社、鋳物から始まって農業機械へ進んだ会社など、今の姿は歴史の延長線上にあります。数字は毎年変わりますが、この三つはほとんど変わりません。

メーカー1社の立ち位置を調べる手順
1. 公式サイトの「会社概要」を開き、事業内容の一文を書き写す
2. 「製品情報」で、売っているものが素材か部品か完成品かを見る
3. 有価証券報告書の「事業の内容」でセグメントの名前を並べる
4. 各セグメントの説明にある販売先が、会社か個人かを確かめる
5. 「沿革」で、もともと何を作っていた会社かをたどる
6. 採用ページの職種一覧で、生産技術や品質保証の比重を見る
ものの流れと、そこにいる会社
位置主な売り先取引の型例に挙がる分野
素材メーカー部品メーカー、完成品メーカーBtoB鉄鋼、化学、繊維、ガラス、非鉄
部品メーカー完成品メーカー、他の部品メーカーBtoB自動車部品、電子部品、機械要素
完成品メーカー卸、小売、他の会社BtoCとBtoBの両方自動車、家電、産業機械
消費財メーカー卸、小売BtoC食品、飲料、日用品、化粧品
受託の製造会社ブランドを持つ会社BtoBOEM、ODM、EMS
生産財
他の会社が生産のために買う財。部品・素材・生産設備など。売り先が会社なのでBtoBになる。
消費財
個人が最終的に使うために買う財。食品・化粧品・日用品・家電など。売り先が個人なのでBtoCになる。
川上と川下
ものの流れの位置を指す言い方。原料に近い側が川上、使う人に近い側が川下。素材、部品、完成品、小売の順に川下へ向かう。
ティア1
完成品メーカーに直接部品を納める一次サプライヤー。ティア1に納めるのがティア2、その先がティア3。
系列
完成車メーカーと部品メーカーの間で長く続いてきた取引関係を指す言い方。近年は取引先が系列の外へ広がっている。
OEM
相手先のブランドで製品を生産すること。設計まで引き受ける場合はODMと呼び分ける。
EMS
電子機器の受託製造サービス。部品の調達から組み立て、検査までをまとめて引き受ける事業。
セットメーカー
部品を組み立てて完成品にする会社。電子部品メーカーから見た主な売り先にあたる。
垂直統合
設計から部品、組み立てまでを自社グループの中で抱える形。
水平分業
設計、製造、検査などの工程ごとに別々の会社が受け持つ形。

例題 名前を聞いたことのない部品メーカーは、規模の小さい会社ということですか。

そうとは限りません。生産財だけを売る会社は消費者に広告を出す必要がないため、名前が広まりにくいだけです。売り先が会社か個人かと、会社の規模は別の話です。

例題 ティア1かティア2かは、どこを見れば分かりますか。

公式サイトの製品情報と、有価証券報告書の主要な販売先です。完成品メーカーの名前が直接並んでいればティア1、部品メーカーの名前が並んでいればティア2に近い立ち位置になります。

例題 OEMとEMSはどう違いますか。

OEMは相手先のブランドで製品を生産すること、EMSは電子機器の製造工程をまとめて請け負う事業を指します。OEMは取引の形、EMSは事業の呼び名という違いがあります。

※ 公的な定めはありません。広く知られた業界の構造を整理したものです

自動車と電機・電子部品の読み方

完成車をつくる会社と、部品で稼ぐ会社は別の業界だと考えたほうが分かりやすくなります。電機も、総合と専業では見るところが違います。

自動車は部品点数が多く、一台をつくるのに多くの会社が関わります。完成車メーカーは設計と最終組み立て、そして販売網とブランドを担い、部品の多くは外の会社から買います。トヨタ自動車株式会社は1937年8月28日に創立され、公式サイトの会社概要では事業内容を自動車の生産・販売と記しています。本田技研工業株式会社は1948年9月24日に浜松で設立され、出発点は自転車に取り付ける補助エンジンでした。株式会社SUBARUは2017年4月1日に富士重工業株式会社から社名を変えた会社で、自動車のほかに航空宇宙の事業を持っています。同じ完成車メーカーでも、生い立ちも事業の幅も違います。

部品メーカーは完成車メーカーの外側にいて、複数の得意先に売ります。株式会社デンソーは1949年12月16日に設立された自動車部品メーカーで、公式サイトではエンジン制御や熱の管理、電動化に関わる製品などを自動車向けの事業として挙げています。部品メーカーの業績は、どの車がどれだけ売れたかに左右されますが、供給先が広いほど一社の増減の影響は薄まります。志望先が部品メーカーなら、主要な販売先が何社あるかを必ず確かめてください。

自動車の電動化は、部品の顔ぶれを入れ替えます。電気自動車はモーターで走るため、燃料タンクや排気の仕組み、変速機まわりの部品を持ちません。かわりに二次電池、駆動用モーター、電力を変換するインバーターといった電気の部品が増えます。エンジン部品を得意としてきた会社が電動化向けの製品を並べ始めるのは、この入れ替わりに合わせているからです。会社の製品ページで、電動化の欄にどれだけ品目が並んでいるかを見ると、方向が読み取れます。

電機は、幅の広い総合型と、一つの品目を深く掘る専業型に分かれます。株式会社日立製作所は1910年に鉱山の修理工場から始まり、創業者の小平浪平が5馬力の誘導電動機をつくったところが出発点です。京セラ株式会社は1959年に京都セラミック株式会社として創業し、稲盛和夫がブラウン管テレビ用の絶縁部品から事業を始めました。電子部品メーカーの売り先は個人ではなく、電子機器を組み立てるセットメーカーです。街で名前を見かけなくても、機器の中には必ず入っています。

自動車と電機の会社を比べる手順
1. 各社の「会社概要」で設立年と事業内容を並べて書く
2. 「製品情報」を開き、完成品か部品かを判定する
3. 部品メーカーなら、主要な販売先が何社あるかを数える
4. 電動化や新分野の製品ページに、品目がいくつあるかを見る
5. 「沿革」で、最初につくった製品を確かめる
6. 有価証券報告書のセグメント情報で、柱の事業を確かめる
自動車と電機で、会社の型ごとに見るところ
会社の型収益の柱見るとよいところ
完成車メーカー車両の販売と、販売金融などの周辺事業車種の顔ぶれ、生産拠点、電動化の品目
自動車部品メーカー部品の納入主要な販売先の数、得意な製品分野
総合電機社会インフラ、情報システム、産業機器など複数セグメントの数と、柱がどこにあるか
電子部品メーカー部品の量産どの機器に入る部品か、生産の一貫度
受託の製造会社組み立ての請負どのブランドの製品を作っているか
完成車メーカー
自動車の設計と最終組み立て、販売網とブランドを担う会社。部品の多くは外部から買う。
自動車部品メーカー
完成車メーカーなどに部品を納める会社。供給先が複数あるほど一社の増減の影響が薄まる。
二次電池
充電して繰り返し使える電池。電気自動車では主要な部品の一つになる。
インバーター
直流と交流を変換し、モーターの回転を制御する装置。電動車で搭載が増える部品。
総合電機
社会インフラから家電、情報システムまで幅広い事業を持つ電機会社の型。
電子部品
コンデンサ、インダクタ、コネクタなど、電子機器の中で働く部品。売り先はセットメーカーでBtoB。
ファインセラミックス
精製した原料を焼き固めてつくる工業用のセラミックス。絶縁部品や機械部品に使われる。
誘導電動機
交流で回るモーターの一種。日立製作所が最初につくった製品は5馬力の誘導電動機だった。

例題 完成車メーカーと部品メーカーは、同じ自動車業界として一緒に考えてよいですか。

分けたほうが分かりやすくなります。完成車メーカーは設計と組み立て、ブランドと販売網で稼ぎ、部品メーカーは複数の得意先への納入で稼ぎます。売り先も評価のされ方も違います。

例題 電気自動車になると、なくなる部品は何ですか。

燃料タンクや排気の仕組みなど、燃料を燃やす前提の部品です。かわりに二次電池、駆動用モーター、インバーターといった電気の部品が増えます。

例題 電子部品メーカーは誰に売っているのですか。

電子機器を組み立てるセットメーカーです。消費者に直接売る事業ではないので、店頭で名前を見かけないことのほうが多くなります。

出典:本文で挙げた各社の公式サイト 会社概要・沿革(2026年8月確認)/※ 業界の構造そのものには公的な定めがありません

素材・食品・日用品・医薬・機械

この四つは売り方も時間の流れ方も違います。長く続いている商品と、社名が変わった節目をたどると、会社の輪郭が見えてきます。

素材メーカーは川上にいて、部品メーカーや完成品メーカーに売ります。用途が広いぶん、景気の波を受けやすい汎用品と、用途を絞って高い性能を出す機能材料の二つを持っている会社が多くあります。東レ株式会社は1926年に創立し、繊維から始めて樹脂、フィルム、炭素繊維複合材料、水処理、医薬や医療機器まで広げてきました。AGC株式会社は1907年に旭硝子株式会社として創立し、2018年7月1日にAGC株式会社へ社名を変えています。板ガラスから始まり、いまは自動車用ガラス、ディスプレイ用のガラス基板、化学品、セラミックスなどを持ちます。素材の会社は、社名からは今の事業が読み取れないことが多いので、必ずセグメントを見てください。

食品と日用品は消費財で、メーカーから卸、小売を経て消費者に届く経路が基本です。棚の取り合いが日常で、長く売れ続けている商品があるかどうかが会社の強さの土台になります。味の素株式会社のうま味調味料は1909年5月に一般の発売が始まりました。池田菊苗がこんぶのうま味を取り出す研究を始めたのが1907年、鈴木三郎助が事業化し、社名が味の素株式会社になったのは1946年2月です。キッコーマン株式会社の前身である野田醤油株式会社は1917年に設立されました。花王株式会社は1887年に長瀬富郎が長瀬商店を興したところから始まり、1985年に花王石鹸株式会社から花王株式会社へ改称しています。百年を超えて残る商品があること自体が、この業界の特徴です。

医薬品は、新しい薬をつくる先発医薬品の会社と、特許が切れた薬と同じ有効成分でつくる後発医薬品の会社に分かれます。新薬は開発に長い時間がかかり、承認を得て初めて売れるので、開発中の薬の一覧である開発パイプラインが会社の将来を示します。会社の再編も多く、アステラス製薬株式会社は2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して発足しました。合併で生まれた会社は、両社の得意分野を並べて見ると事業の輪郭がつかめます。

機械と重工は、注文を受けてからつくる受注生産が中心で、納めるまでに時間がかかります。建設機械や農業機械のように量産に近いものと、プラントや船のように一品ごとに設計するものがあり、後者は受注残が仕事の量を表します。株式会社クボタは1890年に久保田権四郎が鋳物の製造を始めたところから出発し、1893年に水道用鋳鉄管、1947年に耕うん機へと広げました。鋳物という一つの技術が、水道と農業という別々の分野へ伸びていった例です。会社の沿革は、こうした技術の枝分かれとして読むと頭に入ります。

長く続いている商品と沿革の節目を調べる手順
1. 公式サイトの「沿革」を開き、創業年と最初の製品を書き出す
2. 社名が変わっていないかを確かめ、変わった年を控える
3. 合併や統合があれば、もとの会社の名前を並べる
4. 「ブランド一覧」で、発売年が古い順に三つ選ぶ
5. 有価証券報告書のセグメント情報で、今の柱を確かめる
6. 沿革の節目と、いまのセグメントを線でつないでみる
四つの分野で、時間の流れ方と見るところ
分野売り先時間の流れ方見るとよいところ
素材部品・完成品メーカー市況と設備投資で動く汎用品と機能材料の組み合わせ
食品・飲料卸、小売長寿命の商品が土台何年続いているブランドがあるか
日用品・化粧品卸、小売、直営ブランドの入れ替わりが速い主力ブランドと、その発売年
医薬品医薬品卸、医療機関開発に長い年数がかかる開発パイプラインと再編の履歴
機械・重工事業会社、官公庁受注から納入まで長い受注残と、一品生産か量産か
汎用品
用途が広く、量が出るかわりに市況の影響を受けやすい素材。
機能材料
用途を絞って高い性能を持たせた素材。電子材料や炭素繊維複合材料など。
炭素繊維複合材料
炭素繊維を樹脂などと組み合わせた材料。軽さと強さが求められる用途に使われる。
うま味調味料
うま味の成分を主体とした調味料。味の素株式会社の製品は1909年5月に一般の発売が始まった。
先発医薬品
新しく開発され、承認を受けて最初に売り出される医薬品。
後発医薬品
先発医薬品の特許が切れたあと、同じ有効成分でつくられる医薬品。ジェネリック医薬品ともいう。
開発パイプライン
開発中の薬の一覧。どの段階の薬をいくつ持っているかで、将来の姿を見る。
受注生産
注文を受けてから設計・製造する形。受注残が今後の仕事の量を表す。
鋳物
溶かした金属を型に流し込んで形をつくる加工。クボタはここから水道用鋳鉄管へ進んだ。

例題 社名から事業が分からない素材メーカーは、どこを見ればよいですか。

有価証券報告書のセグメント情報です。AGC株式会社のように、板ガラスから始まって化学品や電子材料まで持つ会社では、社名よりセグメントのほうが実態を表します。

例題 食品メーカーの強さは、どこに表れますか。

長く売れ続けている商品があるかどうかです。うま味調味料や醤油のように、百年前後にわたって売られている商品は、販路と製造の両方が整っている証拠になります。

例題 合併でできた製薬会社は、どう調べますか。

合併前の二社をそれぞれ調べます。アステラス製薬株式会社なら山之内製薬と藤沢薬品工業で、得意としてきた領域を並べると、今の事業の組み合わせが見えます。

出典:本文で挙げた各社の公式サイト 会社概要・沿革(2026年8月確認)/※ 業界の構造そのものには公的な定めがありません

情報通信・ITサービス

情報通信業の地図と、通信を担う会社

IT業界という言葉は求人票の中だけの言い方で、統計の上では情報通信業という大きな箱があり、その中がいくつにも分かれています。まず箱の仕切りから確かめます。

総務省の日本標準産業分類では、大分類Gが情報通信業です。ここには中分類37の通信業、38の放送業、39の情報サービス業、40のインターネット附随サービス業、41の映像・音声・文字情報制作業が入ります。就職活動でIT企業と呼ばれる会社の多くは、このうち39か40に分類されます。39の情報サービス業には、受託開発ソフトウェア、組込みソフトウェア、パッケージソフトウェア、ゲームソフトウェアの作成と、情報の処理や提供のサービスを行う事業所が入ります。同じIT企業という言葉でも、回線を持つ会社と、ソフトを作る会社と、サイトを運営する会社では分類そのものが違うということです。

通信の世界は、設備を持つかどうかで層が分かれています。総務省のガイドラインは、移動通信サービスに係る無線局を自ら開設または運用している事業者をMNO、MNOのサービスを利用し、または接続して移動通信サービスを提供する事業者で、無線局を自ら開設も運用もしていない者をMVNOと定義しています。基地局を建てて維持するのがMNO、その設備を借りて料金プランやサービスを組み立てて売るのがMVNOです。設備の投資を抱えるかどうかで、会社の中の仕事も、資金の使い方もまるで違います。固定回線でも同じで、回線そのものを持つ事業者と、その上で接続サービスを売るISPは役割が分かれています。

沿革を見ると、いまの並びができた理由が分かります。1985年に日本電信電話公社が民営化されて日本電信電話株式会社が発足し、同じ年に公衆電気通信法が電気通信事業法へ改められて、電気通信事業への参入が自由化されました。NTTグループは1999年に持株会社体制へ移り、NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズが設立されています。2000年10月にはDDI、KDDが、IDOとともに合併して株式会社ディーディーアイが発足し、2001年4月にKDDI株式会社へ社名を変えました。インターネットの側では、1992年12月に株式会社インターネットイニシアティブ企画として設立され、1993年5月に商号を変えた株式会社インターネットイニシアティブが1993年11月に国内初のインターネット接続サービスを始めています。

会社を調べるときは、まずその会社が設備を持つ側か、設備を借りる側か、その上でソフトやサービスを作る側かを決めてください。次に有価証券報告書の事業の内容で、通信、ソリューション、金融など、セグメントの名前を並べます。通信会社は通信以外の事業を広げていることが多く、名前だけでは中身が読めません。最後に沿革で、いつどの会社と一つになったかを確かめます。合併でできた会社は、いまも旧会社ごとの色が事業や拠点に残っていることがあります。

情報通信の会社を分類してから調べる手順
1. 会社の公式サイトの「会社概要」で事業内容の一文を読む
2. 日本標準産業分類のどの中分類に近いかを当てはめる
3. 通信なら、設備を持つ側か借りる側かを確かめる
4. 有価証券報告書の「事業の内容」でセグメントの名前を並べる
5. 「沿革」で、合併や分社の年を書き出す
6. 通信以外のセグメントがあれば、その中身も読む
日本標準産業分類 大分類G 情報通信業の中分類
中分類名称入る事業所の例
37通信業固定通信、移動通信、電気通信に附帯するサービス
38放送業公共放送、民間放送、有線放送
39情報サービス業受託開発、組込み、パッケージ、ゲームソフトの作成、情報処理
40インターネット附随サービス業インターネットを通じたサービスの提供
41映像・音声・文字情報制作業映像制作、音声制作、新聞、出版
情報通信業
日本標準産業分類の大分類G。通信業、放送業、情報サービス業、インターネット附随サービス業、映像・音声・文字情報制作業を含む。
情報サービス業
中分類39。受託開発ソフトウェア、組込みソフトウェア、パッケージソフトウェア、ゲームソフトウェアの作成や、情報の処理・提供サービスを行う事業所が入る。
インターネット附随サービス業
中分類40。インターネットを通じたサービスの提供を行う事業所が入る。
MNO
移動通信サービスに係る無線局を自ら開設または運用している電気通信事業者。基地局などの設備を持つ側。
MVNO
MNOのサービスを利用し、または接続して移動通信サービスを提供する事業者で、無線局を自ら開設も運用もしていない者。
ISP
インターネット接続サービスを提供する事業者。回線そのものを持つ事業者とは役割が分かれている。
電気通信事業法
電気通信事業を定める法律。1985年に公衆電気通信法から改められ、事業への参入が自由化された。
持株会社体制
事業を子会社に持たせ、親会社が株式を通じて統括する形。NTTグループは1999年に移行した。

例題 IT業界という分け方は、統計ではどこに当たりますか。

日本標準産業分類の大分類G情報通信業のうち、中分類39の情報サービス業と40のインターネット附随サービス業がおおよそ当たります。通信業や放送業は同じ大分類でも別の中分類です。

例題 格安の通信サービスを出している会社は、みな設備を持っていますか。

持っていない場合があります。無線局を自ら開設も運用もしていない事業者はMVNOで、MNOの設備を借りてサービスを組み立てています。設備投資を抱えるかどうかで会社の姿が変わります。

例題 合併でできた通信会社は、どう調べればよいですか。

沿革で合併の年と、合併前の会社名を確かめます。KDDI株式会社なら2000年10月のDDI、KDD、IDOの合併と、2001年4月の社名変更が節目になります。

出典:総務省「日本標準産業分類」大分類G 情報通信業、総務省「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」、および本文で挙げた各社の公式サイト 会社概要・沿革(2026年8月確認)

元請と下請、自社開発と受託

ここが、就職活動でいちばん誤解が起きるところです。同じプログラムを書く仕事でも、誰がお金を出し、誰が仕様を決めるかで、会社の立ち位置がまったく変わります。

会社や役所が業務のシステムを作りたいとき、自社の中だけでは人も技術も足りないので、外の会社に頼みます。この依頼を受けて、要件を聞き、設計し、機器やソフトを組み合わせ、動く形にして納めるのがシステムインテグレーションで、それを担う会社をSIerと呼びます。発注者と直接契約する会社が元請けです。元請けは受けた仕事の一部を別の会社に出し、その会社がさらに別の会社に出すこともあります。発注者から見て一段目が一次請け、二段目が二次請けで、これが何段も続く形を多重下請け構造といいます。

誤解が起きるのは、会社の名前の大きさと、実際に担当する範囲が別物だからです。元請けにいる人は要件定義や進行の管理に時間を使い、詳細な実装は下の階層の会社が担うことが多くなります。逆に、規模は大きくない会社でも、特定の分野で直接受注していれば元請けです。志望先がどこにいるかは、有価証券報告書の主要な取引先や、公式サイトの導入事例で分かります。導入事例に発注者の名前が並んでいれば直接受注をしている証拠になり、取引先の欄に同業のIT会社ばかりが並んでいれば、下の階層で仕事を受けている割合が高いと読めます。

契約の型も押さえてください。民法 第632条は請負を、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約と定めます。完成させる義務があるのが特徴です。これに対して民法 第656条は、法律行為でない事務の委託について委任の規定を準用すると定めており、これが準委任です。準委任では作業そのものを引き受け、完成までは約束しません。現場ではSESという言い方で、技術者が客先で作業する形の契約を指すことがありますが、SESは法律用語ではなく、中身は準委任のこともあれば労働者派遣のこともあります。

請負と労働者派遣の違いは、指揮命令を誰がするかです。厚生労働省の昭和61年労働省告示第37号は、自ら雇用する労働者の労働力を自ら直接利用し、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理していることを、請負として扱うための要件としています。業務の遂行方法の指示、労働時間の管理、配置の決定を自分で行うこと、機械や材料を自ら調達するか、企画や専門的な技術で処理することが挙げられています。契約書に請負と書いてあっても、実際に発注者が直接指示をしていれば請負とは扱われません。就職活動では、配属先が自社なのか客先なのか、指示を出すのが誰かを面接で確かめておくと、入社後の食い違いが減ります。

自社サービスは、これらとは向きが逆です。仕様を決めるのは自分たちで、お金を払うのは不特定多数の利用者になります。企業向けのSaaSならBtoB、消費者向けならBtoCです。受託開発では、作った作業量に単価を掛けて請求する人月の考え方が使われることが多く、売上は作業した分だけ立ちます。自社サービスでは、利用者数や契約期間に応じた利用料が積み上がる形になり、増やすのも減らすのも時間がかかります。同じエンジニア職でも、締切の性質も評価のされ方も違うので、求人票のプロダクト名の有無を見て、どちらの会社かを先に判定してください。

志望先が元請けか下請けか、受託か自社かを調べる手順
1. 公式サイトの「導入事例」に、発注者の名前があるかを見る
2. 有価証券報告書の「主要な取引先」に同業のIT会社が多いかを見る
3. 自社プロダクトのページがあるか、価格表が公開されているかを見る
4. 採用ページの職種名で、客先常駐という語が使われていないか確かめる
5. 求人票の契約形態と、配属先が自社か客先かを控える
6. 面接で、指示を出すのは自社の上長か顧客かを聞く
受託開発と自社サービスで、何が違うか
見るところ受託開発自社サービス
仕様を決める人発注した顧客自社
お金を払う人発注した顧客不特定多数の利用者や契約企業
売上の立ち方作業量や成果物に応じて計上利用料が期間に応じて積み上がる
よく使う契約請負、準委任利用規約にもとづく利用契約
働く場所自社または客先自社が中心
見分け方導入事例に顧客名が並ぶ自社プロダクトの名前がある
システムインテグレーション
顧客の要望を聞き、機器やソフトを組み合わせてシステムを作り上げて納める仕事。担う会社をSIerと呼ぶ。
元請け
発注者と直接契約する会社。そこから仕事を受けるのが一次請け、さらにその先が二次請けになる。
多重下請け構造
元請けから下へ何段も仕事が渡っていく形。階層が深いほど、発注者と手を動かす人の距離が遠くなる。
請負契約
仕事を完成することを約し、その結果に対して報酬を受け取る契約(民法 第632条)。完成させる義務がある。
準委任契約
法律行為でない事務の委託。委任の規定が準用される(民法 第656条)。作業を引き受けるが完成は約束しない。
SES
技術者が客先で作業する形を指す現場の言い方。法律上の契約類型ではなく、中身は準委任のことも労働者派遣のこともある。
労働者派遣
派遣元が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令で働かせる形。指揮命令が発注者側にある点が請負と異なる。
SaaS
ソフトウェアをネットワーク越しに利用させる提供形態。自社で仕様を決め、利用料を受け取る自社サービスの代表例。
人月
作業する人数と月数を掛け合わせた作業量の単位。受託開発の見積りで使われる。
内製
発注者が自社の社員でシステムを作ること。外の会社に頼む受託の対義になる。

例題 下請けの会社に入ると、大きな仕事はできませんか。

そういう単純な話ではありません。階層は担当する範囲を決めるもので、深い技術を扱うのは下の階層ということもあります。大事なのは、自分がやりたい工程がその会社のどこにあるかです。

例題 SESは派遣とどう違いますか。

SESは現場の言い方で、法律上の類型ではありません。中身が準委任なら指揮命令は自社の側にあり、労働者派遣なら派遣先の側にあります。契約書の名前ではなく、誰が指示を出すかで判断されます。

例題 受託と自社サービスで、働き方はどう違いますか。

受託は顧客の決めた納期と仕様に沿って動き、作業量が売上になります。自社サービスは仕様を自分たちで決め、利用者が増えるほど利用料が積み上がります。締切の性質も評価のされ方も変わります。

出典:民法 第632条・第656条/厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)/※ 業界の構造そのものには公的な定めがありません

ネット広告・ゲームと、半導体・クラウド

同じ画面の中の仕事でも、広告とゲームと半導体では、お金の出どころがまったく違います。ここでも、誰が誰に売っているかから入ります。

Webサービスの多くは、利用者からお金を取らず広告で成り立っています。お金を出すのは広告主で、広告を載せる場所を持つのが媒体、間で企画や運用を担うのが広告会社です。あらかじめ枠と期間を決めて売るものを純広告、入札や自動配信で調整しながら出すものを運用型広告といいます。運用型が広がったことで、配信の仕組みを作る技術の会社が業界に加わりました。株式会社サイバーエージェントは1998年3月18日に設立され、公式の会社概要ではメディア&IP事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業を挙げています。LINEヤフー株式会社は会社概要で、インターネット広告事業、イーコマース事業、会員サービス事業などを事業として挙げています。広告とサービスの両方を持つ会社では、どちらが柱かをセグメントで確かめてください。

ゲームは、開発と販売が分かれています。開発そのものを担うのがデベロッパー、資金を出して開発を管理し、販売や宣伝まで担うのがパブリッシャーです。両方を自社で行う会社もあり、開発だけを請け負う会社もあります。任天堂株式会社は1889年に山内房治郎が京都で花札の製造を始めたところから始まり、1947年に株式会社丸福が設立され、1983年に家庭用テレビゲーム機のファミリーコンピュータを発売しました。株式会社カプコンは、家庭用とPC向けのゲームを開発し販売するデジタルコンテンツ、アミューズメント施設の運営、アミューズメント機器などを事業のセグメントとしています。志望先が自社でハードを持つのか、ソフトだけなのか、開発を請け負う側なのかで、必要な力が変わります。

半導体は、分業がいちばんはっきりしている分野です。設計に専念して工場を持たない会社をファブレス、その製造を受託する会社をファウンドリ、設計から製造まで自社で行う会社をIDM、切り出しと封止、検査を受託する会社をOSATと呼びます。さらに、その工場に装置を納める製造装置メーカーと、ウエハーや薬品を納める材料メーカーがいます。工程はシリコンウエハーに回路を作り込むまでの前工程と、切り出して封止し検査するまでの後工程に分かれ、装置も材料も工程ごとに得意分野が違います。東京エレクトロン株式会社は1963年に株式会社東京エレクトロン研究所として設立され、当初は装置を輸入して納める技術専門商社として出発し、1978年に東京エレクトロン株式会社へ商号を変えました。

クラウドは、サーバーや回線を自分で買わずに借りて使う形です。借りるといっても、その裏側には建物と電源と冷却を備えたデータセンターがあり、これを持つ会社が土台を支えています。さくらインターネット株式会社は1996年12月に創業し、1999年8月に株式会社となり、同年10月に大阪と東京で最初のデータセンターを開設しました。2011年11月にはクラウドサービスの提供を始めています。この分野を志望するなら、その会社が自社でデータセンターを持っているのか、他社の設備の上でサービスだけを作っているのかを確かめてください。設備を持つ会社は投資と運用の力が問われ、持たない会社は組み合わせと設計の力が問われます。

Web・ゲーム・半導体・クラウドの会社を調べる手順
1. 収入が広告か、利用料か、製品の販売かを最初に決める
2. 広告なら、媒体を持つ側か、配信の仕組みを作る側かを見る
3. ゲームなら、パブリッシャーかデベロッパーかを確かめる
4. 半導体なら、設計、製造、装置、材料のどこにいるかを見る
5. クラウドなら、自社でデータセンターを持っているかを見る
6. 有価証券報告書のセグメント情報で、柱の事業を裏取りする
半導体に関わる会社の分業
立場やること主な売り先
ファブレス半導体の設計電子機器のメーカー
ファウンドリ設計図をもとに前工程の製造を受託ファブレス、IDM
IDM設計から製造まで自社で行う電子機器のメーカー
OSAT切り出し、封止、検査などの後工程を受託ファブレス、IDM
製造装置メーカー工場に装置を納めるファウンドリ、IDM、OSAT
材料メーカーウエハーや薬品などを納めるファウンドリ、IDM、OSAT
純広告
あらかじめ掲載する枠と期間を決めて売る広告。
運用型広告
入札や自動配信で掲載先や金額を調整しながら出す広告。
パブリッシャー
ゲームで、資金を出して開発を管理し、販売と宣伝まで担う立場。
デベロッパー
ゲームで、開発そのものを担う立場。パブリッシャーから受託する場合もある。
ファブレス
自社では工場を持たず、半導体の設計に専念する会社。
ファウンドリ
他社が設計した半導体の製造を受託する会社。
IDM
設計から製造まで自社で行う半導体会社。
OSAT
半導体の切り出しや封止、検査といった後工程を受託する会社。
前工程と後工程
ウエハーに回路を作り込むまでが前工程、切り出して封止し検査するまでが後工程。
データセンター
サーバーを置き、電源や冷却、通信回線を備えた施設。クラウドサービスの土台になる。

例題 無料のWebサービスは、どこからお金が入るのですか。

多くは広告主です。利用者ではなく広告主が払う構造なので、会社を調べるときは広告の売上がどのセグメントに入っているかを見ます。

例題 半導体メーカーへ行きたいのですが、どこから調べればよいですか。

設計、製造、装置、材料のどこにいる会社かを先に決めます。装置メーカーと材料メーカーは半導体そのものを売らず、工場に納める側です。

例題 クラウドの会社は、みな自社で設備を持っていますか。

持っていない会社もあります。自社でデータセンターを持つ会社は投資と運用の力が問われ、他社の設備の上でサービスを作る会社は組み合わせと設計の力が問われます。

出典:本文で挙げた各社の公式サイト 会社概要・沿革(2026年8月確認)/※ 業界の構造そのものには公的な定めがありません

商社・小売・物流

商社はトレーディングと事業投資の二階建て

総合商社と専門商社は何が違うのか、商社はどこでお金を得ているのか。統計上の位置づけと収益の型の二つから、商社という業界の地図を描きます。

商社は、自分では工場を持たず、売り手と買い手の間に立って商品を動かす会社です。総務省の日本標準産業分類では、この仕事は大分類I 卸売業,小売業に入ります。卸売業の定義は「小売業又は他の卸売業に商品を販売するもの」「建設業、製造業、運輸業、飲食店、宿泊業、病院、学校、官公庁等の産業用使用者に商品を大量又は多額に販売するもの」など。つまり、売る相手が事業者であることが卸売の目印です。同じ商品を売っていても、相手が家庭なら小売になります。

総合商社は、この分類の中の「各種商品卸売業」に位置づけられています。細分類5011は、複数の中分類にわたり、かつ小分類3項目以上にわたる商品の仕入卸売を行っていて、どれが主たる事業かを判別できない事業所のうち従業者が常時100人以上のものとされ、その例として総合商社が挙げられています。「何を扱う会社ですか」に一言で答えられないことが、統計の上でも総合商社の定義になっているわけです。対して専門商社は、食品、鉄鋼、医薬品、繊維、化学品といった分野を絞った商社を指します。国分グループ本社株式会社は1712年(正徳2年)創業の食品卸で、1880年(明治13年)に醤油醸造業をやめ、広く食品販売を主とする卸売業を始めたと公式の沿革に記されています。老舗の専門商社は、こうした転換の跡がそのまま今の得意分野になっています。

商社の稼ぎ方には大きく二つの型があります。一つはトレーディングで、売買を仲介したり、自分でいったん買って売ったりして、口銭と呼ばれる手数料や売買差益を得るもの。もう一つは事業投資で、会社や資源開発に出資し、その持分に応じた利益や配当を得るものです。なお日本標準産業分類は、卸売業の中でも細分類5598の代理商、仲立業について、主として手数料を得て他の事業所のために売買の代理または仲立を行うもので、商品の所有権を持たず、価格の設定や商品の保管、輸送などを一般に行わないと説明しています。在庫と価格の責任を自分で負うかどうかが、仲介と仕入販売の分かれ目です。

会社ごとの姿は沿革に出ます。伊藤忠商事株式会社は1858年(安政5年)に初代伊藤忠兵衛が麻布の持ち下り商いを始めたことを創業とし、1872年(明治5年)に大阪で呉服太物商「紅忠」を、1893年(明治26年)に綿糸卸商「伊藤糸店」を開いています。三井物産株式会社は公式サイトの会社概要で設立年月日を1947年(昭和22年)7月25日としています。三菱商事株式会社は1954年(昭和29年)に総合商社として新発足し、東京と大阪の両証券取引所に株式を上場しました。出発点が繊維なのか、資源なのか、機械なのかで、いまのセグメントの重みが変わります。志望動機を書くときは、その会社の「出発点」と「いちばん利益を出しているセグメント」の二つを押さえておくと話が具体的になります。

商社を調べるときの手順
1. 公式サイトの「会社概要」を開き、設立年と本社所在地を控える
2. 「事業紹介」でカンパニーや本部の一覧を見て、分野がいくつあるか数える
3. 分野が複数の産業にまたがれば総合商社、絞られていれば専門商社と見る
4. 「IR情報」から有価証券報告書を開き、セグメント情報のページを探す
5. セグメントごとの利益を並べ、どの分野で稼いでいるかを確かめる
6. 「沿革」に戻り、創業のときに何を売っていた会社かをたどる
7. 面接で使うのは、この4と6を一文でつないだ内容にする
商社を見るときの三つの軸
見る点総合商社の見え方専門商社の見え方
扱う分野複数の産業にまたがり一言で言えない食品、鉄鋼、医薬品などに絞られる
組織の名前カンパニーや本部が分野ごとに並ぶ取扱品目に沿った部門構成が多い
収益の型トレーディングと事業投資の両方トレーディングの比重が大きいことが多い
統計上の分類各種商品卸売業(細分類5011)に例示取り扱う主要商品によって業種別に分類
調べる場所有価証券報告書のセグメント情報公式サイトの取扱品目一覧と沿革
卸売業
小売業または他の卸売業に商品を販売するもの、産業用使用者に商品を大量または多額に販売するものなどをいう(総務省「日本標準産業分類」大分類I)。売る相手が事業者であることが目印。
総合商社
扱う商品が複数の分野にまたがり、主たる事業を判別できない卸売の会社。日本標準産業分類では細分類5011「各種商品卸売業(従業者が常時100人以上のもの)」の例として挙げられている。
専門商社
食品、鉄鋼、医薬品、繊維、化学品など、扱う分野を絞った商社。どの分野の、流れのどの段階に立っているかを先に確認する。
トレーディング
売買を仲介したり自ら仕入れて販売したりして、口銭や売買差益を得る商社の収益の型。
口銭
売買の仲介に対して受け取る手数料のこと。商社の伝統的な収益源。
事業投資
会社や資源開発などに出資し、持分に応じた利益や配当を得る収益の型。近年の総合商社ではこの比重が大きい。
代理商、仲立業
手数料を得て他の事業所のために商品の売買の代理または仲立を行うもの。商品の所有権を持たず、価格の設定や保管、輸送を一般に行わない(日本標準産業分類 細分類5598)。
セグメント情報
有価証券報告書などで、事業分野ごとに売上や利益を分けて示したもの。どの分野で稼いでいるかを読む入口になる。

例題 「総合商社と専門商社の違いは何ですか」と聞かれました。どう答えますか。

扱う分野の広さです。総合商社は複数の産業にまたがる商品を扱い、日本標準産業分類でも主たる事業を判別できない各種商品卸売業として例示されています。専門商社は分野を絞り、その分野の流れに深く入っています。

例題 「商社は仲介だけで稼いでいる」という理解は正しいですか。

半分だけです。売買を仲介して口銭や売買差益を得るトレーディングに加えて、会社や資源開発に出資して利益や配当を得る事業投資という柱があります。どちらが大きいかは有価証券報告書のセグメント情報で確かめます。

例題 商社の沿革を見るときは、どこに注目すればよいですか。

創業のときに何を売っていたかです。伊藤忠商事は1858年の麻布の持ち下りが創業で、そこから繊維に強い会社になりました。出発点は、いまの得意分野を説明する手がかりになります。

出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定)」大分類I 卸売業、小売業

小売は業態と店舗の増やし方で読む

百貨店、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、EC。呼び名の違いには統計上の定義があります。あわせて直営とフランチャイズ、PBとNBという二つの分かれ道を押さえます。

小売業とは、日本標準産業分類では「個人用又は家庭用消費のために商品を販売するもの」を主とする事業所です。ここから先は業態で分かれます。衣、食、住にわたる各種の商品を売っていて、どれが主たる販売商品かを判別できず、従業者が常時50人以上の事業所は「百貨店」(細分類5611)と「総合スーパーマーケット」(細分類5621)。同じ条件で従業者が常時50人未満なら「その他の各種商品小売業」(細分類5699)になり、ミニスーパーやよろず屋がここに入ります。分け目が人数だというのは意外に思えますが、統計はそう区切っています。

コンビニエンスストアは「主として飲食料品を中心とした各種最寄り品をセルフサービス方式で小売する事業所で、店舗規模が小さく、終日又は長時間営業を行う事業所」(細分類5631)。ドラッグストアは「主として医薬品、化粧品を中心とした健康及び美容に関する各種の商品を中心として、家庭用品、加工食品などの最寄り品をセルフサービス方式によって小売する事業所」(細分類5641)です。同じ薬を売る店でも、一般用医薬品を主として対面販売するものは医薬品小売業(細分類6031)、医師の処方せんに基づいて調剤するものは調剤薬局(細分類6032)と分かれます。呼び名ではなく、売り方と品ぞろえで線が引かれていることが分かります。

ECは「無店舗小売業」(中分類61)です。店舗を持たず、カタログやインターネットなどで広告し、通信手段で個人からの注文を受けて販売する事業所などがここに入ります。ただし注意が必要で、店舗を持つ小売事業所がインターネットによる通信販売を併せて行う場合は、無店舗小売業ではなく、取り扱う商品の種類によって中分類56から60に分類されます。「ネットでも売っているからEC企業」とは限りません。

店舗の増やし方には直営とフランチャイズがあります。中小小売商業振興法は、主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づいて継続的に商品を販売しまたは販売をあっせんし、かつ経営に関する指導を行う事業を「連鎖化事業」と定めています(第4条第5項)。そのうち、加盟者に特定の商標や商号を使わせ、加盟に際して加盟金や保証金などの金銭を徴収する定めがあるものが「特定連鎖化事業」です。この事業を行う者は、加盟しようとする者と契約を結ぼうとするとき、あらかじめ書面を交付して説明しなければなりません(第11条)。書面には、加盟金などの金銭、商品の販売条件、経営の指導、使用させる商標、契約の期間と更新および解除に関する事項を記載します。フランチャイズの本部を志望するなら、この書面が何のためにあるかは押さえておきたいところです。

商品にも二つの型があります。メーカーが自社のブランドで企画し、広く卸すのがNB(ナショナルブランド)。小売業者や卸売業者が企画し、自社のブランドで売るのがPB(プライベートブランド)です。株式会社セブン&アイ・ホールディングスは2007年5月にグループ共通のプライベートブランド「セブンプレミアム」の発売を開始したと沿革に記しています。イオン株式会社のプライベートブランドは「トップバリュ」で、トップバリュ、トップバリュ グリーンアイ、トップバリュベストプライスの三つのブランドが公式サイトで案内されています。PBは仕様を小売側が決めるぶん、売価も利幅も自分側で組み立てられます。「サプライチェーンのどこで誰が稼ぐか」が動く典型例です。

小売企業を調べるときの手順
1. 公式サイトの「会社概要」で設立年と事業内容の一行を控える
2. どの業態の店を、いくつの屋号で持っているかを書き出す
3. 店舗一覧のページで、直営店と加盟店を分けて表示していないか確認する
4. 商品ページでプライベートブランドの名前を探し、いつからあるかを沿革で確かめる
5. 「IR情報」でセグメントを見て、小売とそれ以外の事業の割合を見る
6. 有価証券報告書の「事業の内容」で、卸売や物流の子会社があるかを確かめる
小売の業態と日本標準産業分類の番号(令和5年7月改定)
業態説明の要点分類番号
百貨店衣食住にわたる各種商品と応接要員、高単価商品が中心、従業者が常時50人以上5611
総合スーパーマーケット衣食住にわたる各種商品を最寄り品中心にセルフサービス方式、従業者が常時50人以上5621
コンビニエンスストア各種最寄り品と各種代金の支払等のサービス、主として飲食料品5631
ドラッグストア主として医薬品や化粧品、家庭用品や加工食品などの最寄り品も5641
薬局主として薬剤師が調剤の業務を行い、医薬品の販売を併せ行う6032
無店舗小売業店舗を持たず通信手段で注文を受けて販売、訪問販売、自動販売機中分類61
小売業
個人用または家庭用消費のために商品を販売するものを主とする事業所(総務省「日本標準産業分類」大分類I)。
業態
何を売るかではなく、どう売るかによる小売の分け方。売り場面積、品ぞろえ、セルフサービスか対面か、営業時間などで分かれる。
最寄り品
消費者が近所で手軽に買う日用品や食品のこと。コンビニエンスストアやドラッグストアの定義文に出てくる。
無店舗小売業
店舗を持たず、通信手段で注文を受けて販売する事業所などの分類(中分類61)。店舗を持つ小売業者が通信販売を併せて行う場合はここに入らない。
連鎖化事業
定型的な約款による契約に基づき継続的に商品を販売しまたは販売をあっせんし、かつ経営に関する指導を行う事業(中小小売商業振興法 第4条第5項)。
特定連鎖化事業
連鎖化事業のうち、加盟者に商標などを使わせ、加盟金や保証金を徴収する定めがあるもの。加盟契約の前に書面の交付と説明が義務づけられる(中小小売商業振興法 第11条)。
PB
プライベートブランド。小売業者や卸売業者が企画し、自社のブランドで販売する商品。
NB
ナショナルブランド。メーカーが自社のブランドで企画し、広く流通させる商品。
直営店
本部が自ら出資し、自社の従業員が運営する店舗。加盟店とは損益の帰属先が違う。

例題 百貨店と総合スーパーマーケットは、統計の上では同じ分類ですか。

別です。令和5年7月改定で561「百貨店」と562「総合スーパーマーケット」に分かれました。どちらも従業者が常時50人以上という点は共通です。

例題 店舗もネット通販もやっている小売会社は、無店舗小売業になりますか。

なりません。店舗を持つ小売事業所がインターネット等による通信販売を併せて行う場合は、取り扱う商品の種類により中分類56から60に分類されます。

例題 フランチャイズに加盟する前に、本部からもらえる資料はありますか。

あります。特定連鎖化事業を行う者は、契約を結ぼうとするときにあらかじめ書面を交付して説明する義務があります(中小小売商業振興法 第11条)。加盟金、商品の販売条件、経営の指導、使用させる商標、契約期間と更新解除が記載事項です。

出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定)」大分類I 卸売業、小売業

物流は許可、登録、届出の別で読む

運ぶ会社、預かる会社、手配する会社。物流は根拠法と手続きの種類を見ると整理できます。最後にサプライチェーンのどこで誰が稼いでいるかを並べます。

自分でトラックを持って運ぶ側は、貨物自動車運送事業法です。同法は、他人の需要に応じ有償で自動車を使って貨物を運送する事業を、一般貨物自動車運送事業、特定貨物自動車運送事業、貨物軽自動車運送事業の三つに分けています(第2条)。一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者は国土交通大臣の許可が必要(第3条)、特定貨物自動車運送事業も許可(第35条)、これに対して軽自動車や二輪で運ぶ貨物軽自動車運送事業は届出で足ります(第36条)。同法はまた、集めた貨物を仕分けして積み合わせ、事業場の間を定期的に運ぶものを特別積合せ貨物運送と呼んでいます(第2条第6項)。路線便と呼ばれる仕組みの正体がこれです。

自分では運ばず手配する側は、貨物利用運送事業法です。船舶運航事業者、航空運送事業者、鉄道運送事業者、貨物自動車運送事業者が行う運送を実運送といい、その運送を利用して行う貨物の運送が利用運送です(第2条)。第一種貨物利用運送事業は国土交通大臣の登録(第3条)、船舶、航空、鉄道の利用運送に、その前後の集貨と配達を一貫して組み合わせる第二種貨物利用運送事業は許可(第20条)と、手続きが違います。物流会社の会社概要に並ぶ「第一種貨物利用運送事業」「一般貨物自動車運送事業」といった記載は、その会社が何をできるかの一覧です。

預かる側は倉庫業法です。寄託を受けた物品を倉庫で保管する営業が倉庫業で(第2条第2項)、倉庫業を営もうとする者は国土交通大臣の登録を受けなければなりません(第3条)。荷主に代わって物流の企画から実行までを引き受ける形は3PLと呼ばれます。国土交通省は3PLを、荷主企業に代わって最も効率的な物流戦略の企画立案や物流システムの構築の提案を行い、かつそれを包括的に受託し実行することと説明しています。荷主でもなく単なる運送事業者でもない第三者として、物流部門を代行する立場です。

会社の沿革を見ると、いまのサービスがどこから来たかが分かります。ヤマトホールディングス株式会社のグループ史によれば、1919年(大正8年)に大和運輸株式会社が創業し、1929年(昭和4年)に東京と横浜の間で日本で初めての路線事業となる定期積み合わせ輸送を始め、1976年(昭和51年)1月に関東地区で「宅急便」を発売、1982年(昭和57年)に大和運輸株式会社からヤマト運輸株式会社へ名称を変更しています。海運では、日本郵船株式会社が1885年(明治18年)に郵便汽船三菱会社と共同運輸会社の合併によって誕生し、1893年(明治26年)に日本初の遠洋定期航路を開設しました。コンテナ船については、川崎汽船株式会社が公式サイトで、2018年4月以降、同社と株式会社商船三井、日本郵船株式会社の3社が設立したオーシャンネットワークエクスプレス(Ocean Network Express、通称ONE)へコンテナ船事業を統合したと説明しています。

最後にサプライチェーンです。原材料から部品、完成品、卸、小売、そして消費者へと流れる中で、稼ぎ方は段階ごとに違います。メーカーは製造の付加価値、卸は在庫と物流と与信をまとめる機能、小売は棚と客との接点、物流会社は運ぶ量と積載効率、そして倉庫は保管と流通加工です。近年は小売がPBで上流に、メーカーが直販で下流に、商社が事業投資で川上と川下の両方に手を伸ばしていて、境目は動いています。志望動機を書くときは「自分が入る会社はこの流れのどこにいて、隣の段階に何を提供して対価を得ているのか」を一文で言えるようにしておくと、話が具体的になります。

物流会社を調べるときの手順
1. 公式サイトの「会社概要」で、許可や登録の一覧が載っている欄を探す
2. 一般貨物自動車運送事業の記載があれば、自社で運ぶ車両を持つ会社と見る
3. 貨物利用運送事業の記載があれば、他社の運送を手配する機能があると見る
4. 倉庫業の登録があれば、保管や流通加工まで受けていると考える
5. 「サービス」のページで3PLや共同配送の記載を探し、荷主のどこまでを引き受けるかを読む
6. 「IR情報」でセグメントを見て、国内、国際、倉庫のどこが柱かを確かめる
物流の事業と、必要な手続き
事業の種類根拠法必要な手続き
一般貨物自動車運送事業貨物自動車運送事業法 第3条国土交通大臣の許可
特定貨物自動車運送事業貨物自動車運送事業法 第35条国土交通大臣の許可
貨物軽自動車運送事業貨物自動車運送事業法 第36条国土交通大臣への届出
第一種貨物利用運送事業貨物利用運送事業法 第3条国土交通大臣の登録
第二種貨物利用運送事業貨物利用運送事業法 第20条国土交通大臣の許可
倉庫業倉庫業法 第3条国土交通大臣の登録
一般貨物自動車運送事業
他人の需要に応じ有償で自動車を使って貨物を運送する事業のうち特定貨物自動車運送事業以外のもの。経営には国土交通大臣の許可が必要(貨物自動車運送事業法 第2条第2項、第3条)。
貨物軽自動車運送事業
三輪以上の軽自動車と二輪の自動車を使って有償で貨物を運送する事業。経営は届出で足りる(貨物自動車運送事業法 第2条第4項、第36条)。
特別積合せ貨物運送
事業場で集貨した貨物を仕分けして積み合わせ、他の事業場へ定期的に運送するもの(貨物自動車運送事業法 第2条第6項)。いわゆる路線便。
実運送
船舶運航事業者、航空運送事業者、鉄道運送事業者、貨物自動車運送事業者が行う貨物の運送(貨物利用運送事業法 第2条第1項)。
第一種貨物利用運送事業
他人の需要に応じ有償で利用運送を行う事業のうち第二種以外のもの。国土交通大臣の登録が必要(貨物利用運送事業法 第2条第7項、第3条)。
第二種貨物利用運送事業
船舶、航空、鉄道の利用運送と、その前後の貨物の集配を一貫して行う事業。国土交通大臣の許可が必要(貨物利用運送事業法 第2条第8項、第20条)。
倉庫業
寄託を受けた物品を倉庫で保管する営業(倉庫業法 第2条第2項)。営むには国土交通大臣の登録が必要(同法 第3条)。
3PL
荷主企業に代わって物流戦略の企画立案やシステム構築の提案を行い、それを包括的に受託し実行すること(国土交通省「3PL事業の総合支援」)。

例題 軽自動車で荷物を運ぶ仕事を始めるには、許可が要りますか。

許可ではなく届出です。貨物軽自動車運送事業を経営しようとする者は、営業所の名称と位置、事業用自動車の概要などを国土交通大臣に届け出ます(貨物自動車運送事業法 第36条)。一般貨物自動車運送事業のほうは許可が必要です(同法 第3条)。

例題 トラックを一台も持っていない物流会社があるのはなぜですか。

他社の運送を利用して運ぶ利用運送という形があるからです。第一種貨物利用運送事業なら登録、船舶や航空や鉄道の利用運送に集配を組み合わせる第二種なら許可を受けて営みます(貨物利用運送事業法 第3条、第20条)。

例題 3PLは倉庫会社と何が違うのですか。

引き受ける範囲です。3PLは荷主に代わって物流戦略の企画立案やシステム構築の提案まで行い、それを包括的に受託して実行する立場だと国土交通省は説明しています。保管だけを受ける倉庫業とは、提案の有無で区別されます。

出典:貨物自動車運送事業法 第2条・第3条・第36条

金融

銀行の三つの業務と、根拠法の違い

銀行がやってよいことは法律で三つに絞られています。そして信用金庫や信用組合は、銀行とは別の法律でできた別の生き物です。まずこの地図を持ちます。

銀行法は「銀行」を、第4条第1項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者と定義し(第2条第1項)、「銀行業」を、預金または定期積金の受入れと資金の貸付けまたは手形の割引とを併せ行うこと、あるいは為替取引を行うこと、のいずれかを行う営業としています(第2条第2項)。銀行が営むことができる業務は、預金または定期積金等の受入れ、資金の貸付けまたは手形の割引、為替取引の三つです(第10条第1項)。これに付随する業務として、債務の保証、有価証券の売買、国債等の引受け、両替、有価証券や貴金属の保護預りなどが並びます(第10条第2項)。そして銀行は、これらと他の法律により営む業務のほかは、他の業務を営むことができません(第12条)。銀行は「何でもやっている会社」ではなく、法律で仕事の範囲が囲われている会社です。

看板はいろいろでも、免許は同じです。いわゆるメガバンクも、地方銀行も、インターネット専業の銀行も、銀行法の免許を受けた銀行という点では同じ枠に入ります。違うのは、店舗網の持ち方、主な取引先、そして得意な業務です。沿革を見るとその会社の性格が見えます。株式会社三菱UFJ銀行は、2004年に三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスの経営統合を発表し、2006年に三菱銀行、東京銀行、三和銀行、東海銀行を源流に持つ三菱東京UFJ銀行が設立され、2018年4月に名称を三菱UFJ銀行へ変更したと公式サイトで説明しています。株式会社三井住友銀行は2001年4月に住友銀行とさくら銀行が合併して発足しました。合併の相手をたどると、いまの得意分野や地盤の説明がつきます。

信用金庫は、根拠法から違います。信用金庫法は、国民大衆のために金融の円滑を図りその貯蓄の増強に資するため、協同組織による信用金庫の制度を確立することを目的に掲げ(第1条)、金庫の事業は内閣総理大臣の免許を受けなければ行うことができないとしています(第4条)。会員になれるのは、その信用金庫の地区内に住所または居所を有する者、地区内に事業所を有する者、地区内において勤労に従事する者などで、常時使用する従業員が300人を超える事業者は原則として除かれます(法人はこれに加えて資本金の額等が政令で定める金額を超えることが要件です)(第10条第1項)。業務は、預金または定期積金の受入れ、会員に対する資金の貸付け、会員のためにする手形の割引、為替取引です(第53条第1項)。預金は会員でなくても預けられますが、貸出は原則として会員向け。株式会社である銀行との一番の違いはここです。

信用協同組合、いわゆる信用組合は、中小企業等協同組合法によります。同法 第9条の8第1項は、信用協同組合が行う事業を、組合員に対する資金の貸付け、組合員のためにする手形の割引、組合員の預金または定期積金の受入れ、これらに附帯する事業としています。為替取引や、国や地方公共団体その他営利を目的としない法人の預金の受入れは、併せて行うことができる事業という扱いです(同条第2項)。預金の受入れも原則として組合員が相手であるところが、信用金庫との違いです。銀行か、信用金庫か、信用組合かは、規模の大小ではなく根拠法と組織の形の話。地域金融機関を志望するなら、面接の前にこの三つを言い分けられるようにしておきます。

銀行や信用金庫を調べるときの手順
1. 公式サイトの「会社概要」で、根拠となる法律と免許の記載を探す
2. 社名に「銀行」「信用金庫」「信用組合」のどれが入っているかを確認する
3. 信用金庫なら「地区」のページを開き、営業できる区域を確かめる
4. 「沿革」で合併の相手をたどり、いまの地盤がどこから来たかを見る
5. ディスクロージャー誌または有価証券報告書で、貸出金の内訳を見る
6. 中小企業向け、個人向け、大企業向けのどこが厚いかを言葉にしておく
銀行、信用金庫、信用協同組合の違い
区分根拠法と手続き貸出と預金の相手
銀行銀行法 第4条、内閣総理大臣の免許相手を限る定めはない
信用金庫信用金庫法 第4条、内閣総理大臣の免許貸付けは原則として会員、預金は会員以外も可
信用協同組合中小企業等協同組合法 第9条の8貸付けも預金も原則として組合員
組織の形銀行は株式会社、信用金庫と信用協同組合は協同組織出資者が会員や組合員になる
会員資格の上限信用金庫は常時使用する従業員300人超の事業者を原則除外信用金庫法 第10条第1項
銀行
銀行法 第4条第1項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者(銀行法 第2条第1項)。
銀行業
預金または定期積金の受入れと資金の貸付けまたは手形の割引とを併せ行うこと、あるいは為替取引を行うこと、のいずれかを行う営業(銀行法 第2条第2項)。
為替取引
現金を直接送らずに資金を移動させる仕組みのこと。銀行法 第10条第1項第3号が銀行の業務として掲げている。
他業禁止
銀行は、銀行法 第10条と第11条により営む業務および他の法律により営む業務のほか、他の業務を営むことができないという定め(銀行法 第12条)。
協同組織金融機関
出資して会員や組合員になった人たちのための金融機関。信用金庫は信用金庫法、信用協同組合は中小企業等協同組合法による。
会員
信用金庫に出資する人や事業者。地区内に住所や事業所があること、常時使用する従業員が300人を超える事業者でないことなどが条件(信用金庫法 第10条第1項)。
信用協同組合
組合員に対する資金の貸付け、組合員のためにする手形の割引、組合員の預金または定期積金の受入れを行う協同組合(中小企業等協同組合法 第9条の8第1項)。
手形の割引
支払期日前の手形を、利息相当額を差し引いた金額で買い取ること。実質的には短期の資金の融通にあたる。

例題 「銀行は不動産の売買もやってよいのですか」と聞かれました。

原則としてできません。銀行法 第12条は、第10条と第11条により営む業務および他の法律により営む業務のほか、他の業務を営むことができないと定めています。銀行の仕事の範囲は法律で囲われています。

例題 従業員が500人の会社は、信用金庫から借りられますか。

原則として会員にはなれません。信用金庫法 第10条第1項は、常時使用する従業員が300人を超える事業者を会員資格から除いています(法人は資本金などの要件も併せて見ます)。信用金庫の貸付けは原則として会員向けです。

例題 ネット銀行は普通の銀行と法律上どこが違いますか。

法律上の区分は同じです。どちらも銀行法の免許を受けた銀行で、違うのは店舗を持つかどうかという営業の形。免許の種類が別にあるわけではありません。

出典:銀行法 第2条・第4条・第10条・第12条

証券は登録、保険は免許

証券会社は登録、保険会社は免許。入口の手続きが違い、それが業界の形にそのまま出ています。証券の三つの業務と、生保と損保の分かれ方を押さえます。

金融商品取引法は「金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない」と定めています(第29条)。金融商品取引業は、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業に分かれ(第28条)、有価証券の売買や、その媒介、取次ぎ、代理、そして有価証券の元引受けを行うのが第一種です(第28条第1項)。私たちが証券会社と呼ぶ会社は、この第一種の登録を受けた会社です。銀行の免許と違って「登録」であること、そして業務の種類ごとに区分が分かれていることが、この業界の入口の特徴です。

証券会社の仕事は三つに整理できます。顧客の注文を受けて市場につなぐのが委託売買で、法律の言葉では有価証券の売買の媒介、取次ぎまたは代理にあたります(金融商品取引法 第2条第8項第2号)。自社の資金で売買するのが自己売買で、有価証券の売買そのものです(同項第1号)。新しく発行される株式や社債を発行者から引き受けて投資家に売るのが引受けで、金融商品取引法は「有価証券の元引受け」を、取得させることを目的として有価証券の全部または一部を発行者または所有者から取得すること、他に取得する者がない場合にその残部を取得することを内容とする契約をすること、などと定義しています(第28条第7項)。売れ残りのリスクを自分で負うかどうかが、引受けと単なる販売の分かれ目です。

会社と市場の沿革も押さえておきます。野村ホールディングス株式会社は、初代野村徳七が始めた両替商に端を発し、跡を継いだ二代目野村徳七が1925年に職員数89名で野村證券を設立したと説明しています。市場の側では、株式会社日本取引所グループが2013年1月1日に発足し、同年7月に大阪証券取引所の現物市場を東京証券取引所へ統合、2014年3月に大阪証券取引所を大阪取引所へ商号変更したうえで東京証券取引所のデリバティブ市場を大阪取引所へ統合しています。現物は東京、デリバティブは大阪という現在の姿は、この整理の結果です。

保険は登録ではなく免許です。保険業法は、保険業は内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ行うことができないとし(第3条第1項)、その免許は生命保険業免許と損害保険業免許の二種類(同条第2項)、そして「生命保険業免許と損害保険業免許とは、同一の者が受けることはできない」と定めています(同条第3項)。生保と損保が別の会社になっているのは、この一文があるからです。生命保険業免許は人の生存または死亡に関し一定額の保険金を支払う保険、損害保険業免許は一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補する保険が中心です(同条第4項・第5項)。定額を払うのか、実際の損害を埋めるのか。ここが商品設計の根っこの違いになります。

会社の形と売り方にも差があります。保険業法は「相互会社」を、保険業を行うことを目的として同法に基づき設立された、保険契約者をその社員とする社団と定義しています(第2条第5項)。日本生命保険相互会社のように相互会社の形をとる生命保険会社があるのはこのためです。売り方の側では、生命保険募集人が生命保険会社の役員や使用人、委託を受けた者などと定義されるのに対し(第2条第19項)、損害保険代理店は、損害保険会社の委託を受けてその会社のために保険契約の締結の代理または媒介を行う者で、その会社の役員または使用人でないものと定義されています(第2条第21項)。生保は自社の営業職員を含む募集人が中心、損保は代理店が中心という構図の根っこがここにあります。沿革では、東京海上日動火災保険株式会社が1879年(明治12年)8月に日本初の保険会社として東京海上保険会社が創立されたこと、1914年(大正3年)に日本初の自動車保険が誕生したことを記し、日本生命保険相互会社は1889年(明治22年)に有限責任日本生命保険会社として設立され、同年9月20日に営業を開始したとしています。

証券会社や保険会社を調べるときの手順
1. 公式サイトの会社概要で、登録番号または免許の種類の記載を探す
2. 証券会社なら「金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第◯号」の記載を確認する
3. 保険会社なら生命保険業免許か損害保険業免許かを確かめる
4. 有価証券報告書で、委託手数料、トレーディング損益、引受け手数料の内訳を見る
5. 保険会社なら、保険料等収入と資産運用収益の関係を見る
6. 沿革で合併や持株会社化の節目をたどり、いまのグループの形を確かめる
証券と保険、入口と中身の違い
見る点証券保険
入口の手続き内閣総理大臣の登録(金融商品取引法 第29条)内閣総理大臣の免許(保険業法 第3条第1項)
区分の分かれ方第一種、第二種、投資助言・代理業、投資運用業生命保険業免許と損害保険業免許の二種類
兼ねられるか区分ごとに登録を受ければ複数営める生保と損保は同一の者が受けられない
主な業務委託売買、自己売買、引受け、募集や売出しの取扱い保険の引受けと資産の運用、保険金の支払い
売り手の呼び名外務員生命保険募集人、損害保険代理店、保険仲立人
金融商品取引業
有価証券の売買やその媒介などを業として行うこと。内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行えない(金融商品取引法 第29条)。
第一種金融商品取引業
有価証券の売買、その媒介、取次ぎ、代理、有価証券の元引受けなどを業として行うもの(金融商品取引法 第28条第1項)。いわゆる証券会社の区分。
委託売買
顧客の注文を受けて市場につなぐ業務。法律では有価証券の売買の媒介、取次ぎまたは代理にあたる(金融商品取引法 第2条第8項第2号)。
自己売買
自社の資金で有価証券を売買する業務(金融商品取引法 第2条第8項第1号)。
有価証券の元引受け
取得させることを目的として有価証券を発行者や所有者から取得すること、残部を取得する契約をすることなど(金融商品取引法 第28条第7項)。売れ残りのリスクを負う点が販売と違う。
生命保険業免許
人の生存または死亡に関し一定額の保険金を支払う保険の引受けなどに係る免許(保険業法 第3条第4項)。
損害保険業免許
一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補する保険の引受けなどに係る免許(保険業法 第3条第5項)。
相互会社
保険業を行うことを目的として保険業法に基づき設立された、保険契約者をその社員とする社団(保険業法 第2条第5項)。
損害保険代理店
損害保険会社の委託を受けてその会社のために保険契約の締結の代理または媒介を行う者で、その会社の役員または使用人でないもの(保険業法 第2条第21項)。

例題 生命保険と損害保険を一つの会社でまとめて売れないのはなぜですか。

保険業法 第3条第3項が、生命保険業免許と損害保険業免許を同一の者が受けることはできないと定めているためです。グループ内で生保子会社と損保子会社を分けて持つ形が一般的なのは、この規定によります。

例題 引受けと販売はどう違うのですか。

売れ残りのリスクを負うかどうかです。有価証券の元引受けは、取得させることを目的として有価証券を発行者などから取得したり、残部を取得する契約をしたりするもので(金融商品取引法 第28条第7項)、単に募集や売出しを取り扱うだけの業務とは区別されます。

例題 損害保険会社の営業は、なぜ代理店の話ばかりなのですか。

損害保険代理店が、損害保険会社の委託を受けて契約の代理や媒介を行う独立した存在として法律に定義されているからです(保険業法 第2条第21項)。損保の営業職は、この代理店を支援し育てる仕事が大きな柱になります。

出典:金融商品取引法 第28条・第29条

リース、クレジット、貸金、運用、そして監督

銀行と証券と保険のまわりには、物件を貸す、立て替える、運用を預かるという別の業界があります。最後に、監督官庁と預金保険という制度の枠を見ます。

リースは、利用者が選んだ物件をリース会社が買い取り、一定の期間その利用者に貸して料金を受け取る形です。所有はリース会社に残り、使用は利用者にある。設備投資の資金を借りるかわりに、物件そのものを借りるという発想です。オリックス株式会社の歴史によれば、1964年4月、日本でのリース産業の将来性に着目した3つの商社と5つの銀行の出資により、オリエント・リース株式会社が設立され、これが現在のオリックス株式会社にあたります。日本にリースという手法が入ってきた出発点です。

クレジットは立て替えです。割賦販売法は「包括信用購入あつせん」を、カード等を利用者に交付し、その利用者がカード等を提示して特定の販売業者から商品を購入したり役務の提供を受けたりしたときに、その代金相当額を販売業者に交付するとともに、利用者からあらかじめ定められた時期までにその額を受領すること、などと定義しています(第2条第3項)。カード会社、加盟店、利用者の三者が登場すること、そして支払いの時期をずらすことが仕組みの中心です。カードを使わずに、特定の販売業者の販売を条件として代金を立て替えるものは「個別信用購入あつせん」と呼ばれます(同条第4項)。

お金そのものを貸す業者は貸金業法です。同法は、金銭の貸付けや金銭の貸借の媒介で業として行うものを貸金業と定義し(第2条第1項)、貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県に営業所を置くなら内閣総理大臣、一の都道府県だけなら都道府県知事の登録を受けなければならないとしています(第3条第1項)。登録は三年ごとの更新が必要です(同条第2項)。また同法は過剰貸付け等の禁止を定めており、個人顧客への貸付けで、その個人顧客の借入残高の合計が年間の給与などの収入の三分の一を超えることになるものを個人過剰貸付契約として、締結を禁じています(第13条の2)。いわゆる総量規制です。

運用の側に移ります。投資信託は、投資信託及び投資法人に関する法律によります。同法は「委託者指図型投資信託」を、信託財産を委託者の指図に基づいて主として有価証券や不動産などの特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託であって、この法律に基づき設定され、受益権を分割して複数の者に取得させることを目的とするものと定義しています(第2条第1項)。運用の指図をする委託者と、財産を預かる受託者が分かれているのが特徴です。信託銀行は、銀行法の免許を受けた銀行が、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により内閣総理大臣の認可を受けて信託業務を営むもの(同法 第1条第1項)。銀行の免許に信託の認可を重ねた形だと考えると分かりやすくなります。

最後に枠組みです。金融庁設置法は、金融庁の任務を、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることとしています(第3条第1項)。所掌事務には、銀行業を営む者、信用金庫や信用協同組合、保険業を行う者などの検査その他の監督が含まれます(第4条)。預金者の保護の仕組みが預金保険です。預金保険法は、金融機関に銀行、長期信用銀行、信用金庫、信用協同組合、労働金庫などを挙げ(第2条第1項)、一般預金等については保険金の額が保険基準額を上限とすると定め(第54条第2項)、その保険基準額を預金保険法施行令 第6条の3が千万円としています。加えて、決済に用いることができ、預金者がいつでも払戻しを請求でき、利息が付されていないという三つの要件をすべて満たす預金が決済用預金です(第51条の2第1項)。利息が付かないかわりに手厚く守られる預金がある、というのが制度の骨格です。

リースやクレジットの会社を調べるときの手順
1. 公式サイトの会社概要で、登録番号や許認可の一覧を探す
2. 貸金業の登録があるか、割賦販売法に基づく登録があるかを見分ける
3. 「事業紹介」で、貸すのは物件か資金かを確かめる
4. 有価証券報告書のセグメントで、リース、割賦、営業貸付金の割合を見る
5. 金融庁のウェブサイトで、登録業者の一覧に社名があるかを確かめる
6. 預金を扱う会社なら、預金保険の対象かどうかを商品説明書で確認する
お金を動かす業態と、その根拠法
業態根拠となる法律入口の手続き
貸金業貸金業法 第3条内閣総理大臣または都道府県知事の登録、三年ごとに更新
包括信用購入あつせん割賦販売法 第2条第3項同法に基づく登録
投資信託の運用投資信託及び投資法人に関する法律、金融商品取引法投資運用業の登録
信託業務の兼営金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 第1条内閣総理大臣の認可
監督金融庁設置法 第4条金融庁が検査その他の監督を行う
預金の保護預金保険法 第54条、同法施行令 第6条の3一般預金等は元本千万円までとその利息等
リース
利用者が選んだ物件をリース会社が取得し、一定期間その利用者に使用させて料金を受け取る取引。所有はリース会社に残る。
包括信用購入あつせん
カード等を交付し、利用者が加盟店で購入した代金相当額を加盟店に交付するとともに、利用者からあらかじめ定められた時期までに受領する仕組み(割賦販売法 第2条第3項)。
貸金業
金銭の貸付けまたは金銭の貸借の媒介で業として行うもの(貸金業法 第2条第1項)。営むには登録が必要(同法 第3条第1項)。
総量規制
個人顧客の借入残高の合計が年間の収入の三分の一を超えることとなる貸付けの契約を、個人過剰貸付契約として禁じる仕組み(貸金業法 第13条の2)。
委託者指図型投資信託
信託財産を委託者の指図に基づいて特定資産への投資として運用し、受益権を分割して複数の者に取得させる信託(投資信託及び投資法人に関する法律 第2条第1項)。
信託業務の兼営
銀行その他の金融機関が内閣総理大臣の認可を受けて信託業などを営むこと(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 第1条第1項)。
保険基準額
一般預金等について預金保険で支払われる保険金の上限となる元本の額。預金保険法 第54条第2項の政令で定める金額で、預金保険法施行令 第6条の3により千万円。
決済用預金
決済に用いることができ、いつでも払戻しを請求でき、利息が付されていないという三つの要件をすべて満たす預金(預金保険法 第51条の2第1項)。

例題 リースとレンタルはどう違うのですか。

リースは利用者が選んだ物件をリース会社が取得して、その利用者に一定期間貸す形です。レンタルはレンタル会社があらかじめそろえた在庫を、不特定の相手に短期で貸します。誰が物件を選ぶか、期間をどう決めるかが違います。

例題 年収300万円の人が消費者金融から150万円を借りられますか。

貸金業者からの借入れとしては原則できません。貸金業法 第13条の2は、個人顧客の借入残高の合計が年間の収入の三分の一を超えることとなる契約を個人過剰貸付契約として禁じています。住宅資金貸付契約など除かれるものもあります。

例題 銀行が破綻したら預金はどうなりますか。

一般預金等は、預金保険により元本千万円までとその利息等が保険金の対象になります(預金保険法 第54条第2項、同法施行令 第6条の3)。決済に使えて、いつでも払い戻せて、利息が付かないという三要件を満たす決済用預金は別の扱いになります。

出典:貸金業法 第3条・第13条の2

インフラ・建設・不動産・運輸

規制産業とは何か - 電力とガスの読み方

電気やガスは、誰でも自由に売れる商品ではありません。事業ごとに法律の手続が決まっていて、それがそのまま参入障壁になっています。まずこの仕組みを押さえます。

電力・ガス・鉄道・航空・建設・不動産は、まとめて規制産業と呼ばれます。共通しているのは、事業を始めるのに法律上の手続が要ることです。手続の重さは三段階あって、軽いほうから届出、登録、許可の順に並びます。届出は書類を出せば足りるもの、登録は要件に当てはまらない限り拒めないもの、許可は行政庁が基準に照らして審査して与えるものです。就職活動でこの三つを見分けられると、その会社がどれくらい守られた場所にいるのかが分かります。誰でも入れる市場と、大臣の許可がないと一歩も入れない市場では、競争のかたちがまるで違うからです。

電気事業法は、電気に関わる事業を七つに分けています。家庭や会社に電気を売るのが小売電気事業で、これは経済産業大臣の登録が必要です(電気事業法 第2条の2)。電線をはりめぐらせて地域全体に電気を送り届けるのが一般送配電事業で、こちらは許可です(同法 第3条)。発電所を持って電気をつくるのが発電事業で、これは届出で足ります(同法 第2条第1項第15号、第27条の27第1項)。同じ「電力会社」という言葉でも、登録の会社と許可の会社と届出の会社が混ざっています。求人票の会社名だけでは分からないので、会社概要で事業の種類を確かめる癖をつけてください。

むかしは地域ごとの電力会社が発電から小売までを一手に担っていました。国はこれを三段階で組み替えます。2015年4月1日に電力広域的運営推進機関が発足し、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施し、2020年4月に送配電部門の法的分離が行われました(資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」)。法的分離とは、送配電の部分を別会社にして中立にすることです。電気事業法は、一般送配電事業者が小売電気事業や発電事業を営むことを原則として禁じ(同法 第22条の2第1項)、その取締役が小売や発電の会社の役員を兼ねることも禁じています(同法 第22条の3第1項)。送電線は他社も使う共用の道路だから、道路の管理者が運送屋を兼ねてはいけない、という発想です。

都市ガスもほぼ同じ道をたどりました。ガスの小売全面自由化は2017年4月です。ガス事業法もライセンス制で、ガス小売事業は登録(ガス事業法 第3条)、一般ガス導管事業は許可(同法 第35条)、ガス製造事業と特定ガス導管事業は届出です(同法 第86条第1項、第72条第1項)。ただし兼業の禁止は電気と少し違い、導管の規模が政令の基準以上である特別一般ガス導管事業者だけが対象です(同法 第54条の2)。電気は一般送配電事業者すべてが対象なのに、ガスは大規模な導管事業者に限られる。同じ「分離」でも法律ごとに線の引き方が違うので、面接で語るときは条文の側から確かめるのが安全です。

電力・ガス会社が「どの事業の会社か」を確かめる手順
1. 会社の公式サイトで「会社概要」または「企業情報」を開く
2. 事業内容の欄にある事業の名前を、そのまま書き出す
3. その名前を電気事業法 第2条またはガス事業法 第2条の定義と突き合わせる
4. 一般送配電事業・一般ガス導管事業なら許可、小売なら登録、発電・製造なら届出と分かる
5. 持株会社の場合は、グループ会社一覧でどの子会社がどの事業を持つかを見る
電気とガスの事業区分と、必要な手続
やっていること電気での呼び方と手続ガスでの呼び方と手続
つくる発電事業 / 届出(電気事業法 第27条の27第1項)ガス製造事業 / 届出(ガス事業法 第86条第1項)
地域全体に送り届ける一般送配電事業 / 許可(電気事業法 第3条)一般ガス導管事業 / 許可(ガス事業法 第35条)
特定の場所に送る特定送配電事業 / 届出(電気事業法 第27条の13第1項)特定ガス導管事業 / 届出(ガス事業法 第72条第1項)
利用者に売る小売電気事業 / 登録(電気事業法 第2条の2)ガス小売事業 / 登録(ガス事業法 第3条)
全面自由化の時期2016年4月2017年4月
規制産業
事業を始めるのに法律上の許可・登録・届出などが必要な産業。電力・ガス・鉄道・航空・建設・不動産などが当たる。手続そのものが参入障壁になる。
許可
行政庁が基準に照らして審査したうえで与える処分。一般送配電事業(電気事業法 第3条)、鉄道事業(鉄道事業法 第3条)、建設業(建設業法 第3条)などがこれ。三つのなかで最も重い。
登録
定められた要件に該当しない限り拒否できない手続。小売電気事業(電気事業法 第2条の2)やガス小売事業(ガス事業法 第3条)がこれ。
届出
行政庁に知らせれば足りる手続。発電事業(電気事業法 第27条の27第1項)やガス製造事業(ガス事業法 第86条第1項)がこれ。三つのなかで最も軽い。
一般送配電事業
自らの送電用・配電用の電気工作物により、その供給区域で託送供給と電力量調整供給を行う事業(電気事業法 第2条第1項第8号)。許可制で、地域独占が続いている。
託送供給
他社から受け取った電気を、別の場所でその他社に供給すること。振替供給と接続供給をあわせた呼び方(電気事業法 第2条第1項第6号)。送配電会社の本業にあたる。
法的分離
送配電部門を別会社にして中立性を確保するやり方。電気は2020年4月に実施された。電気事業法 第22条の2の兼業の制限がその中身にあたる。
特別一般ガス導管事業者
導管の規模などが政令の要件に当たる一般ガス導管事業者。ガス小売事業などとの兼業が禁じられる(ガス事業法 第54条の2)。

例題 「電力会社に入りたい」と言う友人に、まず何を聞き分けさせますか。

発電・送配電・小売のどれかです。電気事業法では発電事業は届出、一般送配電事業は許可、小売電気事業は登録と手続が違い、収益の出方も競争相手も別物になります。

例題 送配電会社が小売もやってはいけないのはなぜですか。

送電線は他社も使う共用の設備だからです。電気事業法 第22条の2第1項は、一般送配電事業者が小売電気事業や発電事業を営むことを原則として禁じています。

例題 電気とガスで、分離の対象になる会社の範囲は同じですか。

違います。電気は一般送配電事業者すべてが兼業の制限を受けますが、ガスは導管の規模が政令の要件に当たる特別一般ガス導管事業者に限られます(ガス事業法 第54条の2)。

出典:電気事業法 第2条・第2条の2・第3条・第22条の2・第22条の3・第27条の27、ガス事業法 第2条・第3条・第35条・第54条の2・第86条、資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」

運ぶ会社の稼ぎ方 - 鉄道・航空・海運

鉄道会社の売上の多くは、運賃以外から来ています。運ぶ会社は「運ぶこと」だけを見ていると読み違えます。三つの輸送機関を並べて構造を掴みます。

鉄道事業法は鉄道事業を三つに分けます。線路も車両も自前で持って運ぶのが第一種鉄道事業、他人の敷いた線路を借りて運ぶのが第二種鉄道事業、線路を敷いて他社に譲るか使わせるのが第三種鉄道事業です(鉄道事業法 第2条第2項から第4項)。どれも経営するには国土交通大臣の許可が必要で、許可は路線と種別について与えられます(同法 第3条第1項・第2項)。貨物列車の会社が旅客会社の線路を走るときは第二種、第三セクターが線路だけを持って運行を他社に任せるときは第三種、というふうに使い分けられています。

日本の私鉄には、世界的にみて珍しい特徴があります。鉄道を敷き、その沿線で住宅地を開発し、ターミナルに百貨店を置き、行き先に遊園地や劇場をつくる。運賃と不動産と流通を一つの会社群で回す形です。だから鉄道会社を企業研究するときは、運輸のセグメントだけを見ても半分しか分かりません。たとえば阪急阪神ホールディングス株式会社は、グループの事業領域として都市交通・不動産・エンタテインメント・情報通信・旅行・国際輸送を挙げています(同社 公式サイト グループの事業領域、2026年8月確認)。運賃収入が伸びなくても、沿線の価値が上がれば会社は伸びる、という構造です。

航空も許可の世界です。航空運送事業を経営しようとする者は国土交通大臣の許可を受けなければならず(航空法 第100条第1項)、許可を受けた者を本邦航空運送事業者と呼びます(同法 第102条第1項)。さらに航空機の登録には外資の制限があり、外国人などが役員の三分の一以上または議決権の三分の一以上を占める法人が所有する航空機は登録できません(同法 第4条第1項第4号)。日本の航空会社が外資に買われにくいのは、この条文があるからです。許認可が参入障壁になる、という話の分かりやすい例になります。

海運は、決まった航路を時刻表どおりに走る定期船と、貨物のあるところへ都度向かう不定期船に大きく分かれます。定期船の代表がコンテナ船で、荷主が個々の箱を託す形なので営業と航路網の維持に費用がかかります。不定期船は鉄鉱石・石炭・穀物・原油・液化天然ガスなどを大量に運び、長期の契約で船を貸す形も多くあります。日本の三社はコンテナ船の部分を切り出して一社にまとめました。日本郵船株式会社、株式会社商船三井、川崎汽船株式会社は2017年に定期コンテナ船事業の統合に踏み切り、シンガポールに Ocean Network Express Pte. Ltd.(ONE)を合弁で設立して、2018年4月にサービスを開始しています(日本郵船株式会社 公式サイト 定期船事業、2026年8月確認)。同業が競争しながら一部だけ共同でやる、という形は業界研究の重要な視点です。

運ぶ会社のセグメントを読む手順
1. 公式サイトの「事業紹介」または「セグメント情報」を開く
2. セグメントの名前をすべて書き出し、運ぶ事業と、それ以外に分ける
3. 有価証券報告書の「事業の内容」で、各セグメントの中身を確かめる
4. 鉄道会社なら、不動産・流通・ホテルのセグメントがあるかを見る
5. 志望動機では、自分が関わりたいセグメントの名前を正確に使う
三つの輸送機関の、法律上の手続と収益の柱
分野事業を始めるための手続運賃以外の主な収益源
鉄道国土交通大臣の許可(鉄道事業法 第3条第1項)不動産、流通、ホテル、レジャーなどの兼営
航空国土交通大臣の許可(航空法 第100条第1項)貨物輸送、整備の受託、マイレージなどの関連事業
海運海上運送法・内航海運業法などによる手続定期船と不定期船で構造が異なる。物流や不動産を持つ会社もある
共通して見る点許認可が参入障壁になっているか本業以外のセグメントがどれだけあるか
第一種鉄道事業
自らの鉄道線路で旅客または貨物の運送を行う事業(鉄道事業法 第2条第2項)。線路も列車も自前で持つ、いちばん想像しやすい形。
第二種鉄道事業
自らが敷設した鉄道線路以外の線路を使って運送を行う事業(鉄道事業法 第2条第3項)。他社の線路を借りて列車を走らせる形。
第三種鉄道事業
線路を第一種鉄道事業者に譲る目的で敷設する事業、または敷設した線路を第二種鉄道事業者に専ら使わせる事業(鉄道事業法 第2条第4項)。線路だけを持つ形。
本邦航空運送事業者
航空法 第100条第1項の許可を受けた者(同法 第102条第1項)。航空運送事業は国土交通大臣の許可がなければ経営できない。
定期船
決まった航路と日程で運航する船。コンテナ船が代表で、多数の荷主の貨物をまとめて運ぶ。航路網の維持に費用がかかる。
不定期船
貨物のある場所へ都度向かう船。鉄鉱石・石炭・穀物などのばら積み貨物や、原油・液化天然ガスを運ぶ専用船が含まれる。
沿線開発
鉄道を敷いた沿線で住宅地・商業施設・レジャー施設を開発し、輸送需要と地価の両方を高めるやり方。日本の私鉄に多い経営の形。
ターミナル
路線の起点や終点になる大きな駅。百貨店や商業施設を併設し、鉄道以外の収益源にしている例が多い。

例題 貨物列車の会社が他社の線路を走るのは、鉄道事業法ではどの種別ですか。

第二種鉄道事業です。自らが敷設した線路以外の線路を使って運送を行う事業と定義されています(鉄道事業法 第2条第3項)。

例題 鉄道会社の志望動機で気をつけることは何ですか。

運輸以外のセグメントを見落とさないことです。私鉄には不動産・流通・ホテルなどを兼営する会社が多く、配属先も鉄道の現場とは限りません。

例題 日本の航空会社が外資に支配されにくいのはなぜですか。

航空法 第4条第1項第4号が、外国人などが役員の三分の一以上または議決権の三分の一以上を占める法人の所有する航空機を登録できないと定めているためです。

出典:鉄道事業法 第2条・第3条、航空法 第4条・第100条・第102条、阪急阪神ホールディングス株式会社 公式サイト グループの事業領域(2026年8月確認)、日本郵船株式会社 公式サイト 定期船事業(2026年8月確認)

つくる会社と持つ会社 - 建設・プラント・不動産

建設は元請と下請の重なりで動き、不動産は開発・仲介・管理・運用で分かれます。誰が誰から仕事をもらっているかを図にすると、業界の姿が見えてきます。

建設業を営むには許可が必要です。二つ以上の都道府県に営業所を置くなら国土交通大臣、一つの都道府県だけなら知事の許可で、五年ごとに更新します(建設業法 第3条第1項・第3項)。許可はさらに二つに分かれます。発注者から直接請け負った一件の工事について、政令で定める金額以上の下請契約を結んで施工しようとする者は特定建設業の許可、それ以外は一般建設業の許可です(同法 第3条第1項各号)。大きな工事を元請として取り仕切るには特定建設業の許可が要る、と覚えると分かりやすくなります。

現場の言葉も条文で決まっています。工事を注文する側のうち、他から請け負ったものでない注文者が発注者、下請契約の注文者で建設業者であるものが元請負人、下請契約の請負人が下請負人です(建設業法 第2条第5項)。建築や土木を一式で受けて全体をまとめる会社を通称でゼネコン、鉄骨・電気設備・空調・内装など専門工事を受け持つ会社をサブコンと呼びますが、これは法律用語ではありません。元請は請け負った工事を丸ごと他人に請け負わせてはならず(同法 第22条第1項)、工事現場には主任技術者を、特定建設業者が大きな下請契約を結ぶ場合には監理技術者を置かなければなりません(同法 第26条第1項・第2項)。大規模な現場では、下請の顔ぶれを記した施工体制台帳の作成も義務づけられています(同法 第24条の8第1項)。

ゼネコンは建てるだけの会社ではありません。株式会社大林組は、国内建設事業を中核として、海外建設事業・エンジニアリング事業・開発事業・グリーンエネルギー事業・新領域ビジネスを展開すると説明しています(同社 公式サイト 事業、2026年8月確認)。石油・ガス・化学などの工場をまるごと設計し、機材を調達し、建設まで請け負う会社はプラントエンジニアリングと呼ばれ、設計・調達・建設の頭文字からEPCといいます。日揮ホールディングス株式会社は、総合エンジニアリング事業と機能材製造事業の二つを事業セグメントの中心に挙げています(同社 公式サイト 事業紹介、2026年8月確認)。同じ「建設」でも、建物を建てる会社と工場をつくる会社では、客も稼ぎ方も違います。

不動産は四つの役回りに分けると整理できます。土地を仕入れて建物を企画し売る、または貸すのがデベロッパー。売り手と買い手、貸し手と借り手を結ぶのが仲介。建物と入居者の面倒を見るのが管理。投資家からお金を集めて不動産を持ち、賃料を配るのが不動産投資信託です。仲介や売買を業として行うには宅地建物取引業の免許が必要で、二つ以上の都道府県に事務所を置くなら国土交通大臣、一つなら知事の免許です(宅地建物取引業法 第3条第1項)。事務所ごとに国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければなりません(同法 第31条の3第1項)。投資法人はさらに変わっていて、資産の運用以外を営業とすることができず、本店以外の営業所を設けることも使用人を雇用することもできません(投資信託及び投資法人に関する法律 第63条)。登録投資法人は資産運用会社に運用業務を委託しなければならないので(同法 第198条第1項)、就職先として名前が挙がるのは投資法人ではなく資産運用会社のほうです。

建設・不動産の会社が業界のどこにいるかを調べる手順
1. 公式サイトの「事業紹介」で、建築・土木・開発・エンジニアリングの内訳を見る
2. 主な施工実績のページで、発注者の名前が並んでいるかを確かめる
3. 建設業なら、許可の種類が一般建設業か特定建設業かを会社概要で見る
4. 不動産なら、宅地建物取引業の免許番号が会社概要に載っているかを見る
5. 免許番号の括弧内の数字は更新回数なので、営業の年数の目安になる
建設と不動産で、誰が誰から仕事をもらうか
立場誰から仕事を受けるか必要な手続の例
発注者受けない。工事を注文する側特になし
元請負人(ゼネコン)発注者から直接請け負う建設業の許可(建設業法 第3条第1項)
下請負人(サブコン)元請負人から請け負う建設業の許可(軽微な工事のみなら不要)
デベロッパー自ら土地を仕入れて企画する自ら売主となる場合は宅地建物取引業の免許
仲介会社売主・買主・貸主・借主から依頼を受ける宅地建物取引業の免許(宅地建物取引業法 第3条第1項)
資産運用会社登録投資法人から運用業務の委託を受ける金融商品取引業者であること(投資信託及び投資法人に関する法律 第199条)
一般建設業と特定建設業
発注者から直接請け負った一件の工事で、政令で定める金額以上の下請契約を結んで施工しようとする者は特定建設業の許可、それ以外は一般建設業の許可(建設業法 第3条第1項)。
元請負人
下請契約における注文者で、建設業者であるもの(建設業法 第2条第5項)。発注者から直接仕事を受け、下請に一部を出す立場。
ゼネコン
土木・建築を一式で請け負い、現場全体をまとめる総合建設会社の通称。法律上の用語ではない。
サブコン
鉄骨・電気設備・空調・内装など、専門工事を受け持つ会社の通称。多くは下請負人の立場に立つ。
一括下請負の禁止
建設業者は請け負った工事を一括して他人に請け負わせてはならないという定め(建設業法 第22条第1項)。丸投げの禁止。
監理技術者
特定建設業者が発注者から直接請け負った工事で、政令で定める金額以上の下請契約を結ぶ場合に工事現場に置く技術者(建設業法 第26条第2項)。
EPC
設計・調達・建設をまとめて請け負う契約の形。プラントエンジニアリング会社の中心的な仕事のしかた。
投資法人
資産を主として特定資産への投資として運用する目的で設立された社団(投資信託及び投資法人に関する法律 第2条第12項)。使用人を雇用できず、運用は資産運用会社に委託する。

例題 ゼネコンとサブコンの違いを一文で言うとどうなりますか。

ゼネコンは発注者から工事一式を直接請け負って現場をまとめる立場、サブコンは専門工事を受け持ち多くは元請から仕事を受ける立場です。法律上の用語ではなく通称です。

例題 不動産投資信託に就職したい、という言い方はなぜ危ういのですか。

投資法人は使用人を雇用できず(投資信託及び投資法人に関する法律 第63条第2項)、運用は資産運用会社に委託されるためです。採用しているのは資産運用会社のほうになります。

例題 建設会社の会社概要で、まず何を見ますか。

建設業の許可の種類と番号です。一般建設業か特定建設業か、大臣許可か知事許可かで、その会社が請け負える工事の大きさと営業の広がりが読めます。

出典:建設業法 第2条・第3条・第22条・第24条の8・第26条、宅地建物取引業法 第3条・第31条の3、投資信託及び投資法人に関する法律 第2条・第63条・第198条・第199条、株式会社大林組 公式サイト 事業(2026年8月確認)、日揮ホールディングス株式会社 公式サイト 事業紹介(2026年8月確認)

中小企業と地域の会社

中小企業とは何か - 法律が引いた線

「中小企業」は雰囲気の言葉ではなく、中小企業基本法 第2条に数字で定義があります。業種ごとに線が違うので、まず条文の形で覚えます。

中小企業基本法 第2条第1項は、国の施策の対象とする中小企業者をおおむね四つの号に分けています。第1号は「資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種に属する事業を主たる事業として営むもの」。第2号は卸売業で、資本金一億円以下または従業員百人以下。第3号はサービス業で、資本金五千万円以下または従業員百人以下。第4号は小売業で、資本金五千万円以下または従業員五十人以下です。製造業だけでなく建設業も運輸業も第1号に入る点、卸売業と小売業で線がまるで違う点が、まちがえやすいところです。

大事なのは、資本金の基準と従業員の基準のどちらか一方を満たせば中小企業者にあたるという読み方です。中小企業庁も「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下」と説明しています。資本金が十億円でも従業員が二百人の製造業なら中小企業者、資本金が一千万円でも従業員が五百人の製造業なら中小企業者です。両方を満たす必要はありません。就職活動の場でこの読み違いをすると、支援制度の対象かどうかの話が全部ずれてしまいます。

同じ条文の第5項に、もう一段小さい区分があります。「小規模企業者」とは、おおむね常時使用する従業員の数が二十人、商業またはサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については五人以下の事業者をいいます(中小企業基本法 第2条第5項)。ここには資本金の基準がなく、従業員の数だけで決まります。国の施策では、中小企業向けのものと小規模企業向けのものが分かれていることが多いので、志望先がどちらに入るかで受けられる支援も変わります。

数のうえでは、中小企業は日本の企業のほとんどを占めます。中小企業庁の企業数集計(2021年6月時点)では、中小企業は336.5万者で企業全体の99.7パーセントを占めます(中小企業庁「中小企業白書」)。就職活動で名前を知っている会社は大企業に偏りますが、それは全体の0.3パーセント程度の側を見ているということです。なお中小企業基本法は、経営の革新を「新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入…その他の新たな事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること」と定義し(同法 第2条第2項)、経営資源を「設備、技術、個人の有する知識及び技能その他の事業活動に活用される資源」と定義しています(同条第4項)。支援制度の説明文に頻繁に出る言葉なので、意味を条文で押さえておくと読み違えません。

志望先が中小企業者に当たるかを確かめる手順
1. 会社の公式サイトの「会社概要」で資本金と従業員数を見る
2. 主たる事業が製造業・卸売業・小売業・サービス業のどれかを決める
3. 中小企業基本法 第2条第1項の該当する号の基準と比べる
4. 資本金か従業員数のどちらか一方が基準内なら中小企業者にあたる
5. 応募したい支援制度がある場合は、その制度の要領で定義を再確認する
中小企業基本法 第2条が定める中小企業者と小規模企業者の線
業種資本金の額又は出資の総額常時使用する従業員の数小規模企業者の従業員数
製造業、建設業、運輸業その他3億円以下300人以下20人以下
卸売業1億円以下100人以下5人以下
サービス業5千万円以下100人以下5人以下
小売業5千万円以下50人以下5人以下
読み方この額か従業員数のどちらか一方を満たせばよい同左資本金の基準はない
中小企業者
中小企業基本法 第2条第1項が定める、国の施策の対象となる事業者。業種ごとに資本金の額または出資の総額と、常時使用する従業員の数で線が引かれる。
小規模企業者
おおむね常時使用する従業員の数が二十人、商業またはサービス業では五人以下の事業者(中小企業基本法 第2条第5項)。資本金の基準はない。
常時使用する従業員
中小企業基本法の基準で使われる従業員の数え方。役員や日雇いの扱いなど細かい点は各制度の要領で定められている。
資本金の額又は出資の総額
会社の元手として登記されている金額。中小企業基本法では、この額と従業員数のどちらか一方が基準内であれば中小企業者にあたる。
経営の革新
新商品の開発や新しい生産・販売方式の導入などの新たな事業活動により、経営の相当程度の向上を図ること(中小企業基本法 第2条第2項)。
経営資源
設備、技術、個人の有する知識及び技能その他の事業活動に活用される資源(中小企業基本法 第2条第4項)。
中小企業白書
中小企業庁が毎年出す報告書。企業数や業況、事業承継などの実態がまとまっており、中小企業を調べる出発点になる。
みなし大企業
形のうえでは中小企業者の基準に当てはまっても、大企業の出資比率などによって支援制度の対象から外れる扱い。制度ごとに要件が定められている。

例題 資本金5億円、従業員150人の製造業は中小企業者ですか。

中小企業者にあたります。中小企業基本法 第2条第1項第1号は資本金3億円以下または従業員300人以下としており、従業員の基準を満たしているためです。

例題 従業員18人の卸売業は小規模企業者ですか。

小規模企業者にはあたりません。同条第5項の五人以下という基準は商業またはサービス業に適用され、卸売業は商業に含まれます。中小企業者ではありますが小規模企業者ではありません。

例題 建設会社は「製造業その他」と「サービス業」のどちらの基準ですか。

第1号の「製造業、建設業、運輸業その他の業種」です。資本金3億円以下または従業員300人以下が基準になります。

出典:中小企業基本法 第2条、中小企業庁「中小企業白書」

地域の会社を探す - どこに情報があるか

名前を聞いたことのない会社ほど、調べる手がかりが決まっています。公的な団体、法律で公開が決まっている書類、地域の産業のかたまり。この三つをたどります。

消費者に商品を売らない会社は、どれだけ大きくても名前が知られません。部品、素材、生産設備、業務用機器、加工の受託。買い手が企業なので、広告を出す理由がないからです。だから「知らない会社は小さい会社」という思い込みをまず外してください。特定の部品で世界の需要の多くを引き受けているのに、社員数が二百人という会社はいくらでもあります。探し方は逆からです。自分が知っている完成品を思い浮かべ、それが何でできているかを分解し、その部分をつくっている会社を探す。あるいは大企業の有価証券報告書や統合報告書に出てくる仕入先・協力会社の名前を拾う。この二つが基本になります。

地域には、会社を束ねる公的な団体があります。商工会議所と商工会です。二つは根拠となる法律が違い、受け持つ地域も違います。商工会議所の地区は市の区域とされ(商工会議所法 第8条第1項)、商工会の地区は一の町村の区域とされています(商工会法 第7条第1項)。そして両者の地区は重複してはならないと定められています(商工会議所法 第8条第4項、商工会法 第7条第3項)。つまり、ある町の会社を調べたいなら、その地域を受け持つのが商工会議所か商工会かが自動的に決まります。商工会議所の事業には、調査研究や情報の刊行のほか、輸出品の原産地証明を行うことも含まれています(商工会議所法 第9条第6号)。会員名簿や地域の産業紹介の冊子は、無名の会社にたどり着く早道です。

上場していない会社にも、公開されている情報があります。株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければなりません(会社法 第440条第1項)。これが決算公告で、官報や新聞、自社のウェブサイトなどで見られます。もう一つが登記です。商業登記法 第10条第1項は「何人も、手数料を納付して、登記簿に記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができる」と定めています。誰でも取れる書面なので、設立の年、資本金、役員、本店の移転歴などを確かめられます。有価証券報告書がないから何も分からない、ということはありません。

もう一つの手がかりが産業集積です。同じ種類の会社が特定の地域にかたまって立地している状態のことで、そこには材料屋も加工屋も検査屋も揃い、人も技術も行き来します。集積の場所は歴史で決まっていることが多く、その地域の自治体や公設試験研究機関、地域金融機関が情報を持っています。地方銀行や信用金庫は地域の会社と長く取引していて、取引先を紹介する催しや冊子を出していることがあります。自治体のウェブサイトにも、地元企業を紹介するページや合同説明会の案内が置かれています。無名の会社を探すときは、会社名から入るのではなく、地域と産業から入るのが早いのです。

地域の無名の会社にたどり着く手順
1. 興味のある完成品を一つ決め、部品や工程に分解する
2. その工程を担う会社の呼び方を調べ、業種の名前にする
3. 志望する地域を決め、その地域が商工会議所と商工会のどちらの地区かを見る
4. その団体のウェブサイトで会員名簿や産業紹介の冊子を探す
5. 気になった会社の登記事項証明書と決算公告を確認する
6. 取引先とみられる大企業の有価証券報告書で、その会社の名前が出るか探す
無名の会社を調べるときの入口と、そこで分かること
入口根拠や出どころ分かること
商工会議所商工会議所法 第8条第1項。地区は市の区域地域の会員企業、産業の紹介冊子、催し
商工会商工会法 第7条第1項。地区は一の町村の区域町村部の会員企業、経営相談の窓口
決算公告会社法 第440条第1項非上場会社の貸借対照表
登記事項証明書商業登記法 第10条第1項設立年、資本金、役員、本店の移転歴
取引先の開示資料取引先企業の有価証券報告書や統合報告書サプライチェーンのなかでの位置
地域金融機関・自治体取引先紹介の催し、地元企業紹介のページ地域に根ざした会社の名前
BtoB
企業が企業に売る取引の形。消費者向けの広告を出す理由がないため、規模が大きくても一般に知られていないことが多い。
商工会議所
商工会議所法にもとづく法人。地区は原則として市の区域(同法 第8条第1項)。調査研究、情報の刊行、輸出品の原産地証明などを行う(同法 第9条)。
商工会
商工会法にもとづく法人。地区は原則として一の町村の区域(同法 第7条第1項)。相談・指導、情報の収集提供などを行う(同法 第11条)。
特定商工業者
商工会議所の地区内で六月以上引き続き営業所等を有する商工業者のうち、従業員二十人(商業またはサービス業では五人)以上、または資本金額等が三百万円以上の者(商工会議所法 第7条第2項)。
決算公告
株式会社が定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければならないという義務(会社法 第440条第1項)。非上場会社の財務を知る手がかりになる。
登記事項証明書
登記簿に記録されている事項を証明した書面。何人も手数料を納めて交付を請求できる(商業登記法 第10条第1項)。
産業集積
同じ分野の会社が特定の地域にかたまって立地している状態。材料・加工・検査などの分業が地域内で成り立っている。
公設試験研究機関
都道府県などが設ける試験研究の機関。地域の中小企業の技術相談や試験を受け持ち、地元企業の一覧を持っていることが多い。

例題 町にある会社を調べたいとき、商工会議所と商工会のどちらを見ますか。

原則として商工会です。商工会の地区は一の町村の区域(商工会法 第7条第1項)、商工会議所の地区は市の区域(商工会議所法 第8条第1項)とされ、両者の地区は重複しません。

例題 上場していない会社の財務はどこで見られますか。

決算公告です。株式会社は定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければならず(会社法 第440条第1項)、官報や自社のウェブサイトなどで確認できます。

例題 会社の設立年や役員を確かめたいときは何を取りますか。

登記事項証明書です。商業登記法 第10条第1項により、何人も手数料を納めて交付を請求できます。

出典:商工会議所法 第7条・第8条・第9条、商工会法 第7条・第11条、会社法 第440条、商業登記法 第10条

承継・取引・支援 - 中小企業を受けるときに見るところ

中小企業の将来を左右するのは、誰が継ぐか、どんな条件で取引しているか、どんな制度を使えるかです。2026年に名前が変わった法律もあるので、現行名で押さえます。

中小企業でいちばん大きな経営課題が事業承継です。中小企業庁は事業承継を、親族内承継、従業員承継、第三者承継すなわちM&Aの三つに整理しています。後継者が見つからないまま経営者が高齢になると、事業そのものが続けられなくなります。そこで国は、全国47都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを置き、事業承継全般に関する相談対応や事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援を原則無料で実施しています(中小企業庁「事業承継の支援策」)。税の面では事業承継税制があり、非上場の株式等の承継に伴う贈与税・相続税の負担を軽くする特例が設けられています。志望先の社長の年齢と後継者の有無は、その会社の十年後を占う情報です。

取引の条件を守るための法律は、2026年1月1日に名前が変わりました。下請代金支払遅延等防止法、いわゆる下請法が、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められ、略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法とされています(公正取引委員会)。呼び方も変わり、これまでの親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者、下請代金は製造委託等代金になりました(同法 第2条第8項・第9項・第11項)。就職活動の面接でうっかり古い名前を使うと、勉強していないと受け取られかねません。

中身も押さえておきます。製造委託等代金の支払期日は、委託事業者が給付を受領した日から起算して六十日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めなければなりません(同法 第3条第1項)。委託事業者の禁止事項は第5条に並び、受領の拒否、支払期日を過ぎての不払い、代金の減額、返品、買いたたき、購入の強制、報復措置などが挙げられています。特徴的なのが二つあります。一つは、代金を手形などで支払うことが支払期日を過ぎての不払いに含まれると明記されたこと(同法 第5条第1項第2号)。もう一つは、費用の変動などが生じたときに中小受託事業者が協議を求めたのに応じず、一方的に代金の額を決定することが禁じられたこと(同法 第5条第2項第4号)です。なお建設業を営む者が建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせることは、役務提供委託から除かれています(同法 第2条第4項)。建設の下請は建設業法の側で規律されている、という住み分けです。

支援制度の考え方も押さえます。中小企業向けの補助金は、まず国が公募を出し、事業計画を出させ、審査のうえ採択するという形をとります(中小企業庁「補助金の公募・採択」)。申請すれば必ずもらえるものではなく、通れば設備投資や新事業の費用の一部が支えられます。設備投資と生産性向上を支えてきたものづくり補助金と、新しい分野への進出を支える枠組みは、2026年時点では新事業進出・ものづくり商業サービス補助金という形で公募されています(同)。制度の名前は年度で変わるので、覚えるべきは名前ではなく型のほうです。公募がある、計画を書く、審査がある、採択される、実施する、報告する。この流れが分かっていれば、名前が変わっても読めます。最後に、中小企業を受けるときに見るところを三つにまとめます。取引先の構成、つまり売上が特定の一社に偏っていないか。技術、つまり他社が同じことをできるのか。地域での位置、つまりその地域の産業集積のなかでどの工程を担っているか。この三つを自分の言葉で説明できれば、志望動機は書けます。

中小企業を受けるときに調べる手順
1. 公式サイトの「取引先」「主要納入先」のページで、売上の相手を確かめる
2. 特定の一社に偏っていないか、業種が分散しているかを見る
3. 特許情報プラットフォームで、その会社名の特許出願を検索する
4. 地域の商工会議所または商工会の産業紹介で、同業他社と並べてみる
5. 決算公告と登記事項証明書で、資本金と役員の構成を確かめる
6. 経営者の年齢と後継者について、公開されている記事や取材を探す
2026年1月1日からの呼び方の対応と、主な義務
改称前の呼び方現在の呼び方関係する定め
下請法中小受託取引適正化法(通称 取適法)2026年1月1日施行
親事業者委託事業者同法 第2条第8項
下請事業者中小受託事業者同法 第2条第9項
下請代金製造委託等代金同法 第2条第11項
支払期日受領日から起算して六十日以内同法 第3条第1項
手形での支払支払期日を過ぎての不払いに含まれる同法 第5条第1項第2号
協議に応じない代金決定禁止される同法 第5条第2項第4号
事業承継
経営を後継者に引き継ぐこと。中小企業庁は親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)の三つに整理している。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に置かれた公的な相談窓口。事業承継全般の相談、事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援を原則無料で行う。
中小受託取引適正化法
下請代金支払遅延等防止法が2026年1月1日に改められた法律の略称。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」。通称は取適法。
委託事業者
中小受託取引適正化法 第2条第8項が定める、資本金の額や従業員数の基準に当たり中小受託事業者に製造委託等をする者。改称前の親事業者にあたる。
中小受託事業者
同法 第2条第9項が定める、委託事業者から製造委託等を受ける者。改称前の下請事業者にあたる。
製造委託等代金
委託事業者が製造委託等をした場合に、中小受託事業者の給付に対し支払うべき代金(同法 第2条第11項)。支払期日は受領日から六十日以内(同法 第3条第1項)。
特定運送委託
販売・製造・修理・作成の目的物の、取引の相手方に対する運送を他の事業者に委託すること(同法 第2条第5項)。改称にあわせて対象に加わった類型。
補助金の採択
公募に応じて出された事業計画を審査し、支援の対象を選ぶこと。申請すれば必ず交付されるものではない。

例題 面接で「下請法」と言ってしまいそうです。今の呼び方は何ですか。

中小受託取引適正化法、通称は取適法です。2026年1月1日に下請代金支払遅延等防止法から改称されました。親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者と呼びます。

例題 取引先の構成を見るのはなぜですか。

売上が特定の一社に偏っていると、その一社の事情で会社全体が揺れるためです。取引先が分散しているか、業種がまたがっているかは、その会社の安定を読む材料になります。

例題 補助金の名前を全部覚える必要はありますか。

ありません。制度名は年度で変わります。公募があり、計画を書き、審査を経て採択されるという型を押さえておけば、名前が変わっても内容を読み解けます。

出典:中小受託取引適正化法 第2条・第3条・第5条、公正取引委員会「2026年1月施行 下請法は取適法へ」、中小企業庁「事業承継の支援策」、中小企業庁「補助金の公募・採択」