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医学・医療総論と社会保障
医療倫理と患者の権利
医の倫理の歴史的変遷と、患者が参画する医療の考え方を学ぶ。
医の倫理の出発点は古代ギリシャに由来する「ヒポクラテスの誓い」で、患者への献身や守秘義務など医師の職業倫理を示した。世界医師会(WMA)は1948年、これを現代の言葉で表した「ジュネーブ宣言」を採択した。
1964年の「ヘルシンキ宣言」は人を対象とする医学研究の倫理原則を定め、被験者へのインフォームドコンセントの取得や、倫理審査委員会(IRB)による研究計画の事前審査を求めている。1981年の「リスボン宣言」は、良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定権など患者の権利を明示した。
現代の医療は、患者が参画する医療へと変化している。インフォームドコンセントは、十分な説明を受け理解したうえで患者自身が自らの意思で同意することであり、医療法にも医療者が適切な説明を行い理解を得るよう努める旨が規定されている。診断や治療方針について主治医以外の医師に意見を求めるセカンドオピニオンも広く行われている。リビングウィルやターミナルケアにおける意思決定も患者の自己決定権に関わる重要なテーマである。
| 宣言 | 採択 | 主な内容 |
|---|---|---|
| ヒポクラテスの誓い | 古代ギリシャ | 医師の職業倫理の原点(患者への献身・守秘義務など) |
| ジュネーブ宣言 | 1948年・世界医師会 | ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の倫理規範 |
| ヘルシンキ宣言 | 1964年・世界医師会 | 人を対象とする医学研究の倫理原則 |
| リスボン宣言 | 1981年・世界医師会 | 患者の権利(良質の医療を受ける権利・自己決定権など) |
- ヒポクラテスの誓い
- 古代ギリシャの医師ヒポクラテスに由来するとされる医師の職業倫理の宣誓文。患者の利益を第一とすること、守秘義務、生命の尊重などを含み、現代に続く医の倫理の原点とされる。
- ジュネーブ宣言
- 1948年に世界医師会(WMA)が採択した医師の倫理規範。ヒポクラテスの誓いを現代の言葉で表したものとされ、患者の健康を第一に考えることや守秘義務などを宣誓の形で示している。
- ヘルシンキ宣言
- 1964年に世界医師会が採択した、人を対象とする医学研究の倫理原則。被験者の福利の優先、インフォームドコンセントの取得、倫理審査委員会による研究計画の審査などを求めている。
- リスボン宣言
- 1981年に世界医師会が採択した患者の権利に関する宣言。良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定権、情報を得る権利、機密保持、尊厳への権利などを掲げている。
- IRB
- Institutional Review Board。施設内の倫理審査委員会・治験審査委員会のこと。研究対象者の人権と安全を守るため、研究計画の倫理的・科学的妥当性を実施前に審査する。
- インフォームドコンセント
- 医療者から病状や治療の内容・危険性・代替手段などについて十分な説明を受け、患者が理解したうえで自らの意思で同意すること。医療法にも説明と理解を得る努力義務が規定されている。
- セカンドオピニオン
- 診断や治療方針について、主治医以外の医師に意見を求めること。患者が納得して治療法を選択するために行われ、一般に公的医療保険の適用外(自由診療)で提供される。
例題 人を対象とする医学研究の倫理原則を定めた世界医師会の宣言はどれか。
ヘルシンキ宣言。被験者のインフォームドコンセントや倫理審査委員会(IRB)による審査を求めている。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 1.2.1(医の倫理の変遷), SBO 1.2.3(患者が参画する医療)
健康の概念と医療政策
健康の定義、予防医学、健康日本21、地域包括ケアシステムなど医療政策の基本を学ぶ。
WHO憲章は健康を「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または虚弱が存在しないことではない」と定義している。
予防医学は三段階に分けられる。一次予防は健康増進や予防接種など発症そのものの予防、二次予防は健診などによる早期発見・早期治療、三次予防はリハビリテーションなどによる機能回復・再発防止である。特定健診(特定健康診査)はメタボリックシンドロームに着目した健診で、40〜74歳を対象に医療保険者が実施する。
健康日本21は21世紀における国民健康づくり運動で、健康増進法を法的基盤とし、生活習慣病の一次予防や健康寿命の延伸を重視する。2024年度からは第三次の運動が進められている。
少子高齢化による医療需要の増加と多様化に対応するため、病院の機能分化と連携が進められている。地域包括ケアシステムは、医療・介護・予防・住まい・生活支援を日常生活圏域で一体的に提供する体制である。病床機能報告制度では、一般病床・療養病床を有する病院等が病棟単位の病床機能を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4区分で都道府県知事に報告し、地域医療構想(地域医療計画)の基礎資料となる。
| 病床機能 | 内容 |
|---|---|
| 高度急性期 | 急性期の患者に対し、診療密度が特に高い医療を提供する |
| 急性期 | 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けた医療を提供する |
| 回復期 | 急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する |
| 慢性期 | 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる |
- 健康日本21
- 21世紀における国民健康づくり運動。健康増進法を法的基盤とし、生活習慣病の一次予防や健康寿命の延伸を重視する。2024年度からは第三次の運動が進められている。
- 予防医学
- 疾病の発生や進行を防ぐための医学。健康増進や予防接種による一次予防、健診等による早期発見・早期治療の二次予防、リハビリテーション等による機能回復・再発防止の三次予防に分けられる。
- 特定健診
- 特定健康診査。メタボリックシンドロームに着目した健診で、高齢者医療確保法に基づき40〜74歳の被保険者・被扶養者を対象に医療保険者が実施する。結果に応じて特定保健指導が行われる。
- 地域包括ケアシステム
- 高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を日常生活圏域で一体的に提供する体制。市町村等が地域の特性に応じて構築する。
- 病床機能報告制度
- 一般病床・療養病床を有する病院等が、病棟単位の病床機能を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4区分で都道府県知事に毎年報告する制度。地域医療構想の基礎資料となる。
- 生活習慣病
- 食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が発症や進行に関与する疾患の総称。糖尿病、高血圧症、脂質異常症、がんなどが含まれ、一次予防が重視される。
例題 病床機能報告制度で報告する4つの病床機能は何か。
高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分。都道府県知事に報告する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 1.1.1(健康の定義と医療政策), SBO 1.1.3(医療需要への対応), SBO 2.3.3(健康維持増進)
社会保障制度と医療保険・介護保険
社会保障の全体像と、国民皆保険を支える医療保険制度、介護保険制度の仕組みを学ぶ。
日本の社会保障制度は、社会保険、公的扶助(生活保護)、社会福祉、公衆衛生の4部門で構成される。社会保険には医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類がある。
日本では1961年に国民皆保険が達成され、すべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する。医療保険は、被用者保険(協会けんぽ・組合健保・共済組合・船員保険)、国民健康保険(地域保険)、後期高齢者医療制度に大別される。保険を運営する主体を保険者、加入者を被保険者という。日本の医療保険は、受診する医療機関を自由に選べるフリーアクセスと、医療サービスそのものを給付する現物給付を特徴とする。
後期高齢者医療制度は、高齢者医療確保法に基づき、75歳以上の者と65歳以上で一定の障害の状態にある者を被保険者とする制度で、都道府県単位の後期高齢者医療広域連合が運営する。窓口負担は原則1割(一定以上所得2割・現役並み所得3割)である。
介護保険の保険者は市町村・特別区で、第1号被保険者は65歳以上の者、第2号被保険者は40〜64歳の医療保険加入者である。給付を受けるには市町村による要介護認定(要支援1〜2・要介護1〜5)が必要で、ケアマネジャー(介護支援専門員)がケアプランを作成してサービス利用を調整する。介護保険は地域包括ケアシステムの中核をなす制度である。
| 区分 | 制度 | 保険者 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 被用者保険 | 健康保険(協会けんぽ) | 全国健康保険協会 | 主に中小企業の従業員 |
| 被用者保険 | 健康保険(組合健保) | 健康保険組合 | 主に大企業の従業員 |
| 被用者保険 | 共済組合 | 各共済組合 | 公務員・私立学校教職員 |
| 地域保険 | 国民健康保険 | 都道府県・市町村(国保組合もある) | 自営業者・無職者など |
| 高齢者医療 | 後期高齢者医療制度 | 後期高齢者医療広域連合 | 75歳以上の者など |
- 国民皆保険制度
- すべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する仕組み。日本では1961年に達成された。保険料と公費を主な財源とし、フリーアクセスと現物給付を特徴とする。
- 保険者
- 医療保険事業を運営する主体。保険料を徴収し、保険給付を行う。全国健康保険協会、健康保険組合、市町村(国民健康保険では都道府県とともに)などが該当する。
- 被保険者
- 保険に加入して保険料を納め、疾病等の際に保険給付を受ける本人のこと。被用者保険では、被保険者に扶養される家族は被扶養者として給付の対象になる。
- 後期高齢者医療制度
- 75歳以上の者と65歳以上で一定の障害の状態にある者を被保険者とする医療制度。高齢者医療確保法に基づき、都道府県単位の後期高齢者医療広域連合が運営する。
- 公的扶助
- 生活に困窮する国民に対し、国が最低限度の生活を保障する制度。日本では生活保護制度がこれに当たり、医療扶助により医療の給付も行われる。社会保障4部門の一つである。
- 要介護認定
- 介護保険の給付を受けるために必要な認定。市町村の介護認定審査会の審査判定に基づき保険者である市町村が行い、要支援1〜2・要介護1〜5に区分される。
- ケアマネジャー
- 介護支援専門員。要介護者等からの相談に応じ、心身の状況に応じた介護サービスが利用できるようケアプラン(介護サービス計画)を作成し、事業者や市町村との連絡調整を行う。
例題 介護保険の保険者はどこか。
市町村および特別区。第1号被保険者は65歳以上、第2号被保険者は40〜64歳の医療保険加入者である。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.1.1(日本の社会保障制度), SBO 2.1.3(医療保険制度), SBO 2.1.8(高齢者医療確保法), SBO 2.1.10(介護保険法)
診療報酬と医療提供体制
診療報酬制度の仕組みと、医療法に基づく医療提供体制、医療専門職の資格を学ぶ。
保険診療の対価は全国一律の診療報酬点数表に基づいて算定され、1点の単価は10円である。支払い方式には、実施した診療行為ごとに点数を積み上げる出来高払いと、急性期入院医療を対象に診断群分類(DPC)ごとに定められた1日当たり点数で算定する包括評価(DPC/PDPS)がある。DPC/PDPSでは入院基本料・検査・投薬などは包括され、手術・麻酔などは出来高で算定される。
医療機関は患者ごとに1か月分の診療内容をまとめたレセプト(診療報酬明細書)を作成し、審査支払機関に請求する。被用者保険等の審査・支払いは社会保険診療報酬支払基金が、国民健康保険・後期高齢者医療分は国民健康保険団体連合会が行う。現在は電子レセプトによるオンライン請求が原則である。患者は窓口で一部負担金(70歳未満は原則3割、義務教育就学前2割、70〜74歳2割、75歳以上原則1割)を支払い、高額療養費制度により自己負担限度額が設けられている。
診療報酬は中央社会保険医療協議会(中医協)の審議を経て厚生労働大臣が定め、原則として2年に1回改定される。薬価基準は保険診療で使用できる医薬品の品目と価格を定めたものである。
医療法は医療提供体制の基本となる法律で、病院は20床以上、診療所は無床または19床以下の医療施設である。特定機能病院は高度医療の提供・開発・研修を担い厚生労働大臣が承認する。地域医療支援病院はかかりつけ医等の支援や紹介患者への医療提供を担い都道府県知事が承認する。
医療専門職には医師、看護師、薬剤師など多くの国家資格がある。資格がなければその業務を行えない業務独占と、資格名を名乗ることのみを制限する名称独占があり、医師・看護師などは業務独占、保健師・理学療法士・作業療法士などは名称独占である。
| 項目 | 出来高払い | DPC/PDPS |
|---|---|---|
| 算定方法 | 診療行為ごとに点数を積算 | 診断群分類に基づく1日当たり包括評価 |
| 主な対象 | 外来診療・包括対象外の入院診療 | 急性期の入院医療(対象病院) |
| 出来高で算定する部分 | 全体が出来高 | 手術・麻酔・リハビリテーションなど |
| 特徴 | 医療内容を反映しやすいが過剰診療を招きやすい | 医療の標準化・効率化を促す |
- 出来高払い
- 実施した診療行為ごとに診療報酬点数表に基づき点数を積み上げて算定する支払い方式。個々の医療内容を反映しやすい一方、過剰診療を招きやすいとされる。
- DPC/PDPS
- 急性期入院医療を対象とした、診断群分類(DPC)に基づく1日当たり包括評価による支払い制度。入院基本料や検査等は包括され、手術・麻酔などは出来高で算定される。
- レセプト
- 診療報酬明細書。医療機関が患者ごとに1か月分の診療内容をまとめ、審査支払機関を通じて保険者に医療費を請求するための書類。現在は電子レセプトによる請求が原則である。
- 薬価基準
- 保険診療で使用できる医薬品の品目を定めるとともに、その価格(薬価)を定めたもの。厚生労働大臣が告示し、保険請求時の医薬品の価格算定の基礎となる。
- 支払基金
- 社会保険診療報酬支払基金。被用者保険等のレセプトの審査と支払いを行う機関。国民健康保険・後期高齢者医療分は国民健康保険団体連合会が審査・支払いを行う。
- 特定機能病院
- 高度の医療の提供・開発・評価と研修の能力などを備え、厚生労働大臣の承認を受けた病院。400床以上の病床を有することなどが要件で、大学病院本院などが承認されている。
- 地域医療支援病院
- かかりつけ医等を支援し、紹介患者への医療提供、施設・設備の共同利用、救急医療、医療従事者の研修などを行う病院。原則200床以上で、都道府県知事が承認する。
- 業務独占
- 資格を持つ者以外がその業務を行うことを禁止する仕組みで、医師や看護師などが該当する。名称独占は資格名の使用のみを制限するもので、保健師や理学療法士などが該当する。
例題 被用者保険のレセプトの審査・支払いを行う機関はどこか。
社会保険診療報酬支払基金。国民健康保険・後期高齢者医療分は国民健康保険団体連合会が行う。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.1.2(日本の医療制度), SBO 2.1.4(保険診療報酬制度の仕組み(医科)), SBO 2.2.1(医療専門職の役割), SBO 3.1.1(病院の機能)
医療管理と医療プロセス
病院の組織と経営管理
病院の部門構成とそれぞれの役割、経営指標、PDCAやBCPなどの管理手法を学ぶ。
病院の組織は大きく、各診療科の医師からなる診療部門、外来・病棟で看護ケアを提供する看護部門、薬剤部・臨床検査部・放射線部・手術部・リハビリテーション部・臨床工学部門など各診療科が共同で利用する中央診療部門、総務・医事・用度などの事務部門に分けられる。このほか診療情報管理部門や医療情報部門、医療社会部門(ソーシャルワーカー等)、栄養管理部門などが置かれる。
管理・事務系の部門では、経営企画部門が経営戦略の立案を、診療報酬処理(医事)部門がレセプトの作成・診療報酬請求や受付・会計、査定への対応(症状詳記など)を、診療情報管理部門が診療記録の管理・監査、病名コーディング、統計、DPCデータやがん登録の管理を、医療情報部門が病院情報システムの運用・保守、ネットワーク・データ管理、情報セキュリティを、用度・購入部門が物品の購入・発注・契約を担う。
病院経営では経営指標が用いられる。病床利用率は在院患者延数÷(病床数×日数)×100(%)、平均在院日数は在院患者延数÷{(新入院患者数+退院患者数)÷2}、外来/入院比は1日平均外来患者数÷1日平均在院患者数で求める。医療の質の評価では、施設・人員などのストラクチャー(構造)指標、診療の過程を見るプロセス指標、治療成績などのアウトカム(結果)指標が用いられる。
経営や質の管理にはPDCAサイクル(Plan計画→Do実行→Check評価→Act改善)が広く用いられる。また、自然災害やパンデミック、重大なシステム障害の際にも重要業務を継続し早期復旧を図るため、病院は事業継続計画(BCP)を策定する。
| 部門区分 | 部門・部署の例 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 診療部門 | 内科・外科などの各診療科 | 診断・治療の実施 |
| 看護部門 | 外来・病棟の看護単位 | 看護ケアの提供、療養上の世話、診療の補助 |
| 中央診療部門 | 薬剤部・臨床検査部・放射線部・手術部・リハビリテーション部・臨床工学部門 | 各診療科が共同で利用する診療支援 |
| 事務部門 | 総務課・医事課・用度課 | 経営管理、診療報酬請求・受付会計、物品の調達 |
| 情報・記録関連部門 | 医療情報部門・診療情報管理部門 | 病院情報システムの運用管理、診療記録の管理・コーディング |
- 中央診療部門
- 薬剤部、臨床検査部、放射線部、手術部、リハビリテーション部、臨床工学部門など、特定の診療科に属さず各診療科が共同で利用する診療支援部門の総称。診療部門・看護部門と連携して医療を支える。
- 診療情報管理部門
- 診療記録の点検・保管・貸出などの管理、病名のコーディング、診療情報の監査、統計作成、がん登録やDPCデータの管理などを行う部門。診療情報管理士が中心となって業務を担う。
- 病床利用率
- 病床がどの程度利用されているかを示す経営指標。在院患者延数を病床数と日数の積で除して求め、1日平均在院患者数÷病床数×100(%)としても表される。
- 平均在院日数
- 患者が平均して何日間入院しているかを示す指標。在院患者延数を、新入院患者数と退院患者数の和の2分の1で除して算出する。急性期病院では短縮が経営・機能評価上の課題とされる。
- アウトカム指標
- 医療の質の評価のうち、治療成績など結果に着目する指標。死亡率や術後合併症発生率などが該当し、構造(ストラクチャー)指標、過程(プロセス)指標と併せて用いられる。
- PDCA
- Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のサイクルを繰り返して業務やサービスの質を継続的に改善していく管理手法。病院経営や医療の質・安全管理にも用いられる。
- BCP
- 事業継続計画。自然災害やパンデミック、重大なシステム障害などの際にも、重要な業務を中断させず、中断しても早期に復旧させるための方針・体制・手順を定めた計画。
例題 病床数200床、1日平均在院患者数160人の病院の病床利用率はいくらか。
160÷200×100=80%。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 3.1.3(病院組織体制), SBO 3.2.1〜3.2.5(病院管理部門), SBO 3.4.1(病院経営概要), SBO 3.4.2(病院マネジメントと指標), SBO 3.4.4(BCP)
医療安全と感染対策・災害医療
インシデント・アクシデントの考え方、医療事故調査制度、標準予防策、災害時のトリアージを学ぶ。
誤った医療行為などが患者に実施される前に発見された事例や、実施されたが傷害に至らなかった事例をインシデント(ヒヤリ・ハット)、患者に傷害が生じた事例をアクシデント(医療事故)という。ハインリッヒの法則は、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故、さらに300件のヒヤリ・ハットが存在するという経験則で、ヒヤリ・ハット段階での対策の重要性を示す。
インシデントレポートは、事例を収集・分析して原因を明らかにし再発防止につなげるためのもので、報告者の責任追及を目的としない。病院には医療安全管理者や医療安全対策部門・委員会が置かれ、レポートの収集・分析、職員研修、改善策の立案・周知などを行う。日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業など、施設を越えた事例収集の仕組みもある。
医療事故調査制度は医療法に基づき2015年に開始された制度で、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産のうち管理者が予期しなかったものが対象である。医療機関の管理者は医療事故調査・支援センターに報告して院内調査を行い、結果を遺族に説明しセンターに報告する。目的は責任追及ではなく、再発防止による医療安全の確保である。
院内感染対策の基本は標準予防策で、すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物(汗を除く)・粘膜・損傷皮膚を感染性のあるものとして扱い、手指衛生や個人防護具の使用を徹底する。感染経路別予防策(接触・飛沫・空気)は標準予防策に追加して実施する。感染対策部門では多職種で構成されるICT(感染制御チーム)が院内ラウンドやサーベイランス、職員教育を行う。
災害時には多数の傷病者に対して、緊急度・重症度により治療や搬送の優先順位を決めるトリアージが行われる。トリアージタッグの色は赤(I・最優先治療群)、黄(II・待機的治療群)、緑(III・保留群)、黒(0・救命困難または死亡)である。災害急性期にはDMAT(災害派遣医療チーム)が被災地に派遣される。
| 区分 | 色 | 状態 |
|---|---|---|
| I(最優先治療群) | 赤 | 生命に関わる重篤な状態で、直ちに治療が必要 |
| II(待機的治療群) | 黄 | 治療が必要だが、搬送・治療を多少待つことができる |
| III(保留群) | 緑 | 軽症で歩行可能 |
| 0(無呼吸群・死亡群) | 黒 | 救命が困難、または死亡 |
- インシデント
- 誤った医療行為などが患者に実施される前に発見された事例、または実施されたが患者に傷害が生じなかった事例。ヒヤリ・ハットとも呼ばれ、報告・分析して再発防止に活用する。
- アクシデント
- 医療に関連して患者に傷害が生じた事例。医療事故とほぼ同義に用いられ、医療者の過失によるもの(医療過誤)と、過失によらず発生したものの両方を含む。
- ハインリッヒの法則
- 1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件のヒヤリ・ハットが存在するという経験則。ヒヤリ・ハット段階での原因分析と対策の重要性を示す。
- 医療事故調査制度
- 医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産のうち管理者が予期しなかったものを対象に、医療事故調査・支援センターへの報告と院内調査を行う制度。目的は再発防止による医療安全の確保である。
- 標準予防策
- すべての患者の血液、体液、分泌物、排泄物(汗を除く)、粘膜、損傷した皮膚を感染性のあるものとして取り扱う感染対策の基本。手指衛生や個人防護具の使用が含まれる。
- ICT
- Infection Control Team(感染制御チーム)。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの多職種で構成され、院内ラウンド、サーベイランス、職員教育など院内の感染対策活動を行う。
- トリアージ
- 災害時など多数の傷病者が発生した場面で、緊急度・重症度により治療や搬送の優先順位を決めること。区分はトリアージタッグの色(赤・黄・緑・黒)で表示される。
- DMAT
- 災害派遣医療チーム。災害急性期に活動できる機動性を持つ、専門的な訓練を受けた医療チームで、大規模災害の発生時に被災地へ派遣され医療活動を行う。
例題 インシデントとアクシデントの違いは何か。
インシデントは患者に傷害が生じなかった事例(ヒヤリ・ハット)、アクシデントは患者に傷害が生じた事例を指す。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 3.3.1(医療安全対策部門), SBO 3.3.2(感染対策部門), SBO 3.5.1(安全で適切な医療), SBO 3.5.6(事例の収集と活用), SBO 3.5.7(医療事故調査制度), SBO 2.3.4(災害時医療)
医療プロセスとチーム医療
外来・入院診療の流れ、診療における人・モノ・情報の流れ、クリニカルパス、チーム医療を学ぶ。
診断過程では、まず問診(医療面接)で主訴、現病歴、既往歴、家族歴などを聴取し、視診・触診・打診・聴診といった理学所見をとり、必要な検査を行って診断に至る。治療には食事療法、薬物療法、処置、手術などがあり、医師の指示出しと各職種の指示受けによって実施される。
外来診療は受付、問診・診察、検査、診断、処方、会計という流れで進む。その傷病について初めてその医療機関を受診することを初診、2回目以降を再診という。入院診療では、病名・治療計画・推定入院期間などを記載した入院診療計画書を入院後7日以内に患者に交付して説明し、退院時には退院療養計画書の交付や、入院経過を要約した退院時サマリーの作成が行われる。
診療は人・モノ・情報の流れとして捉えられる。患者の移動は人の流れ、薬剤・検体・医療材料の搬送はモノの流れ、指示・予約・検査結果の報告・記録は情報の流れであり、病院情報システムは主に情報の流れを支援する。
クリニカルパスは、検査・治療・看護ケア・食事などの診療内容を時間軸に沿って一覧化した標準的な診療計画で、達成目標をアウトカム、実施項目をタスク、予定された経過からの逸脱をバリアンスという。医療の標準化、チーム医療の推進、在院日数の適正化、患者への説明に活用される。
チーム医療は、多職種がそれぞれの専門性を生かし、カンファレンスなどで情報を共有・連携しながら治療やケアに当たることをいう。代表例として、栄養サポートチーム(NST)、感染制御チーム(ICT)、呼吸サポートチーム(RST)、院内迅速対応チーム(RRT)などがある。
| 略称 | 名称 | 主な役割 |
|---|---|---|
| NST | 栄養サポートチーム | 患者の栄養状態の評価と栄養管理の支援 |
| ICT | 感染制御チーム | 院内感染対策のラウンド・サーベイランス・教育 |
| RST | 呼吸サポートチーム | 人工呼吸器装着患者の管理支援など呼吸ケア |
| RRT | 院内迅速対応チーム | 状態が悪化した入院患者への早期対応 |
- 主訴
- 患者が医療機関を受診した理由となる、最も強く訴える症状や自覚症状のこと。問診(医療面接)で聴取され、診断過程の出発点となる。診療録にも記載される基本的な情報である。
- 既往歴
- 患者が過去にかかった疾患やけが、手術、アレルギーなどの記録。現在の疾患の診断や治療方針の決定に重要な情報であり、問診で現病歴や家族歴とともに聴取される。
- 入院診療計画書
- 入院の際に病名、症状、治療計画、検査内容、推定入院期間などを記載して患者に交付・説明する書面。医療法により入院後7日以内の交付が求められている。多職種が共同して策定する。
- 退院時サマリー
- 入院中の経過、実施した治療・検査、退院時の状態、退院後の方針などを要約した記録。診療の継続性の確保や紹介元への情報提供、診療情報の活用に役立つ。
- クリニカルパス
- 疾患や治療ごとに、検査・治療・看護ケア・食事などの内容を時間軸に沿って一覧化した標準的な診療計画。医療の標準化、チーム医療の推進、患者への説明などに活用される。
- バリアンス
- クリニカルパスで予定された経過や達成目標(アウトカム)からの逸脱。バリアンスを収集・分析することで、パスの改善や医療の質の向上につなげることができる。
- NST
- Nutrition Support Team(栄養サポートチーム)。医師、看護師、管理栄養士、薬剤師などの多職種で構成され、患者の栄養状態の評価と適切な栄養管理の支援を行う。
- 多職種連携
- 医師、看護師、薬剤師、リハビリテーション専門職、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど複数の職種が、専門性を生かして情報を共有し協働すること。チーム医療の基盤となる。
例題 クリニカルパスにおけるバリアンスとは何か。
予定された経過や達成目標(アウトカム)からの逸脱のこと。収集・分析してパスの改善に役立てる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)SBO 4.1.1(診断過程), SBO 4.1.2(治療過程), SBO 4.1.3(診療プロセスの例), SBO 4.1.4(クリニカルパス), SBO 3.3.3(チーム医療)
医学・薬学と検査・治療
人体の構造と主な疾患
人体は細胞→組織→器官(臓器)→系統という階層で成り立ち、系統ごとに代表的な疾患・検査・治療が対応します。医療情報技師は診断名やオーダの意味を読み取るために、この対応関係の全体像を押さえます。
人体の構成単位は細胞です。同じ働きの細胞が集まって組織となり、組織が組み合わさって器官(臓器)を、器官が連携して系統(循環器系・呼吸器系など)をつくります。体内環境を一定に保つ仕組みを恒常性維持(ホメオスタシス)と呼びます。
疾病の原因(病因)は、内因と外因に分けられます。内因は個人的素因や先天性素因など体の側の要因、外因は栄養性外因・化学的外因・物理的外因・病原生物体、そして医療行為が原因となる医原病などです。病変には進行性病変・退行性病変・循環障害・炎症・奇形・腫瘍(新生物)があり、腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。悪性腫瘍は周囲へ浸潤し、離れた臓器へ転移する点が良性と異なります。
循環器系では、心臓が刺激伝導系の電気信号で規則的に拍動し、冠動脈から心筋自身に血液が供給されます。冠動脈が狭くなるのが狭心症、閉塞して心筋が壊死するのが心筋梗塞です。ほかに不整脈(ペースメーカーやアブレーションで治療)、心不全、高血圧症、弁膜症などがあります。
呼吸器系は気管・気管支・肺胞からなり、ガス交換は肺胞で行われます。代表疾患は気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD、主因は喫煙)、肺がん、呼吸器感染症です。消化器系では、胃・十二指腸潰瘍や胃がんとヘリコバクター・ピロリ感染の関連、ウイルス性肝炎から肝細胞がんへの進展、潰瘍性大腸炎・クローン病・大腸がんなどが重要です。
代謝・内分泌系では、膵臓のランゲルハンス島から分泌されるインスリンが血糖を下げます。糖尿病にはインスリン分泌がほぼ失われる1型と、生活習慣と関連が深く日本の患者の大多数を占める2型があります。ほかに脂質異常症、痛風(尿酸)、甲状腺の疾患(バセドウ病・甲状腺機能低下症)があります。
血液・造血系では、赤血球が酸素運搬、白血球・リンパ球が生体防御、血小板が止血を担います。代表疾患は貧血、白血病、リンパ腫、血友病、DICです。脳・神経系では、中枢神経系(大脳・脳幹・小脳・脊髄)と末梢神経系(自律神経・体性神経)に分かれ、脳血管障害や脳腫瘍が代表疾患です。腎・尿路系では慢性腎臓病が進行すると腎不全に至り、透析などが必要になります。
| 系統 | 主な臓器・構成 | 代表的な疾患 |
|---|---|---|
| 循環器系 | 心臓・血管・刺激伝導系 | 心筋梗塞・狭心症・不整脈・心不全・高血圧症 |
| 呼吸器系 | 気管・気管支・肺胞 | 気管支喘息・COPD・肺がん・呼吸器感染症 |
| 消化器系 | 食道・胃・腸・肝臓・胆嚢・膵臓 | 胃・十二指腸潰瘍・ウイルス性肝炎・大腸がん |
| 代謝・内分泌系 | 膵臓(ランゲルハンス島)・甲状腺 | 糖尿病・脂質異常症・痛風・バセドウ病 |
| 血液・造血系 | 赤血球・白血球・血小板・造血組織 | 貧血・白血病・リンパ腫・DIC |
| 脳・神経系 | 大脳・脳幹・小脳・脊髄・末梢神経 | 脳血管障害・脳腫瘍 |
| 腎・尿路系 | 腎・尿管・膀胱・尿道 | 慢性腎臓病・腎不全・尿路結石 |
- 恒常性維持
- 体温・血糖・体液の組成などの体内環境を、神経系や内分泌系の働きで一定の範囲に保つ仕組み。ホメオスタシスとも呼ばれ、その破綻が疾病につながる。
- 医原病
- 検査・治療・投薬など医療行為が原因となって生じる疾患や障害。病因の分類では外因に位置づけられる。
- 悪性腫瘍
- 自律的に増殖し、周囲の組織へ浸潤したり離れた臓器へ転移したりする腫瘍。良性腫瘍は膨張性に発育し、通常は転移しない。
- 心筋梗塞
- 心筋に血液を送る冠動脈が閉塞し、その先の心筋が壊死する疾患。冠動脈が狭くなり一過性の胸痛を起こす狭心症と区別される。
- COPD
- 慢性閉塞性肺疾患。喫煙が主な原因で、気道の閉塞により息を吐きにくくなる。スパイロメトリーの一秒率低下が特徴。
- ヘリコバクター・ピロリ
- 胃に生息する細菌。胃・十二指腸潰瘍や胃がんの発生と関連することが知られており、除菌治療が行われる。
- インスリン
- 膵臓のランゲルハンス島から分泌され、血糖値を下げる唯一のホルモン。分泌や作用の不足が糖尿病の本態である。
- 刺激伝導系
- 心臓の拍動リズムをつくり電気的興奮を心房から心室へ伝える特殊な心筋の経路。その異常が不整脈の原因となる。
例題 細胞・組織・器官の関係を大きい順に並べると?
小さい方から、細胞→組織→器官(臓器)→系統。同じ働きの細胞が組織を、組織が器官をつくります。
例題 良性腫瘍と悪性腫瘍のいちばんの違いは?
悪性腫瘍は周囲へ浸潤し遠くの臓器へ転移すること。良性腫瘍は通常、転移しません。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第5章 医学・薬学・看護学(SBO 5.1.1〜5.1.22)
薬学の基礎と看護
医薬品がどう分類され、処方箋がどんなルールで扱われ、体内で薬がどう動くか。そして看護の業務と用語。オーダエントリや看護支援システムを扱う前提となる知識です。
薬が体内をめぐる過程を体内動態といい、吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)の頭文字からADMEと呼びます。代謝は主に肝臓の薬物代謝酵素群が担い、排泄は主に腎臓から尿へ行われます。血中では薬はタンパク質と結合した結合型と、薬効を発揮できる非結合型(遊離型)に分かれます。脳には血液−脳関門があり、薬物の移行が制限されます。薬は受容体に作用し、作動薬(アゴニスト)は受容体を刺激し、拮抗薬(アンタゴニスト)は刺激をブロックします。
医薬品は医薬品医療機器等法(薬機法)で規制され、医師の処方箋に基づき使う医療用医薬品と、薬局などで購入できる一般用医薬品(OTC薬)に大別されます。一般用医薬品はリスクの高い順に第一類・第二類・第三類に区分され、第一類は薬剤師でなければ販売できません。医療用から一般用へ転換された成分を含む要指導医薬品(スイッチOTC等)は薬剤師の対面販売が必要です。ほかに、取扱いが厳しく規制される毒薬・劇薬、麻薬及び向精神薬取締法で規制される麻薬・向精神薬、先発医薬品の特許期間満了後に同一の有効成分で製造される後発医薬品(ジェネリック医薬品)という区分があります。
処方箋は医師法に基づき医師が交付します。保険診療の処方箋の使用期間は原則として交付の日を含めて4日以内です。麻薬を処方するには、都道府県知事の免許を受けた麻薬施用者でなければならず、麻薬処方箋には通常の記載事項に加え患者の住所や麻薬施用者の免許証番号などが記載されます。処方箋の電子化(電子処方箋)も進んでいます。医薬品の正式な情報源として医薬品添付文書があり、副作用による健康被害には医薬品副作用被害救済制度が設けられています。
看護は、あらゆる場にあるあらゆる年代の人々を対象に、健康の保持増進・疾病の予防・健康の回復・苦痛の緩和を支援する専門職の活動です。看護業務は、対象の情報収集とアセスメント→看護計画の立案→実施→評価という看護過程のサイクルで進められ、その内容は看護記録に残されます。
看護の用語・分類の標準として、看護診断の分類であるNANDA、看護介入の分類であるNIC、看護成果の分類であるNOCがあり、日本では看護実践用語標準マスタ(看護行為編・看護観察編)が整備されています。また、患者の状態の重さを表す重症度に加え、入院患者にどれだけ手厚い看護が必要かを測る指標として看護必要度(重症度、医療・看護必要度)があり、入院料等の施設基準の評価に用いられています。
| 区分 | 入手・販売 | ポイント |
|---|---|---|
| 医療用医薬品 | 医師の処方箋に基づく | 処方箋医薬品は処方箋なしの販売が原則禁止 |
| 要指導医薬品 | 薬剤師の対面販売 | スイッチOTC直後の品目など |
| 一般用第一類 | 薬剤師が販売 | リスクが特に高く情報提供義務あり |
| 一般用第二類・第三類 | 薬剤師または登録販売者 | リスクは比較的低い |
| 毒薬・劇薬 | 施錠保管等の規制(毒薬) | 薬機法により表示・保管が規制される |
| 麻薬 | 麻薬施用者のみ処方可 | 麻薬及び向精神薬取締法で厳格に管理 |
- ADME
- 薬物の体内動態を表す吸収・分布・代謝・排泄の4過程の頭文字。代謝は主に肝臓、排泄は主に腎臓が担う。
- 一般用医薬品
- 処方箋なしで購入できるOTC薬。リスクの高い順に第一類・第二類・第三類に区分され、第一類は薬剤師でなければ販売できない。
- 後発医薬品
- 先発医薬品の特許期間満了後に、同一の有効成分・同一の効能効果で製造販売される医薬品。ジェネリック医薬品とも呼ばれる。
- 麻薬施用者
- 麻薬及び向精神薬取締法に基づき都道府県知事の免許を受けて、疾病の治療の目的で麻薬を施用・処方できる医師等。
- 処方箋の使用期間
- 保険診療の処方箋が薬局で有効な期間。原則として交付の日を含めて4日以内で、処方箋様式に基づき特に指示があればそれに従う。
- 看護過程
- アセスメント・看護計画立案・実施・評価を繰り返す看護実践の思考と行動のサイクル。看護記録の骨組みにもなる。
- NANDA・NIC・NOC
- 看護の国際的な標準分類。NANDAは看護診断、NICは看護介入、NOCは看護成果の分類体系を指す。
- 看護必要度
- 入院患者にどの程度の看護の手間が必要かを評価する指標。重症度、医療・看護必要度として入院料等の施設基準の評価に使われる。
例題 薬の「代謝」と「排泄」はそれぞれ主にどの臓器?
代謝は主に肝臓(薬物代謝酵素群)、排泄は主に腎臓(尿へ)です。
例題 NANDA・NIC・NOCをひとことで区別すると?
NANDA=看護診断、NIC=看護介入、NOC=看護成果の分類です。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第5章(SBO 5.2.1〜5.2.3、SBO 5.3.1〜5.3.5)
臨床検査のきほん
臨床検査は、患者から採った検体を調べる検体検査と、患者の体そのものを調べる生理機能検査に大別されます。基準範囲・感度・特異度など「結果の読み方」の枠組みもここで押さえます。
臨床検査は大きく、血液や尿など患者から採取した検体を分析する検体検査、心電図や脳波のように患者の体を直接測定する生理機能検査(生理学的検査)、採取した細胞や組織を顕微鏡で観察する病理検査に分けられます。結果の表し方には、あり・なしで報告する定性検査、量を数値で報告する定量検査、その中間の半定量検査があります。検査の質を保つ活動が精度管理です。
検体検査の代表は、尿検査、血液学的検査(血算・凝固など)、生化学検査、血清免疫検査、内分泌検査、腫瘍マーカー、微生物検査、遺伝子・染色体検査です。生化学検査の主な項目と意味は、AST(GOT)・ALT(GPT)・γGTPが肝機能、クレアチニンやeGFR(糸球体濾過量の推算値)が腎機能、血糖とHbA1cが糖代謝、総コレステロールや中性脂肪(TG)が脂質代謝、CRPが炎症の指標です。HbA1cは赤血球中のヘモグロビンに糖が結合したもので、過去1〜2か月程度の平均的な血糖の状態を反映します。
輸血に関わる検査として、ABO・RhDの血液型検査、不規則抗体の検査、輸血前に供血者の血液と受血者の血液を混ぜて反応をみる交差適合試験(クロスマッチテスト)があります。感染症などの検査には、病原体の抗原を検出する抗原検出法、抗体価測定、遺伝子を増幅して検出するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査があります。
生理機能検査の代表は心電図です。心電図の波形はP波(心房の興奮)・QRS波(心室の興奮)・T波(心室の興奮からの回復)からなり、ST部分やT波の異常は心筋の虚血などを疑う手がかりになります。長時間の記録にはホルター心電図、運動や薬剤で負荷をかける負荷心電図もあります。肺機能検査(スパイロメトリー)では肺活量や一秒量・一秒率を測定し、一秒率の低下はCOPDなどの閉塞性換気障害を示唆します。病理検査には、細胞をパパニコロウ法などで染めて調べる細胞診と、組織標本から診断を確定する組織診があり、死後に病態を解明する病理解剖(剖検)も含まれます。
検査結果の解釈の出発点が基準範囲です。基準範囲は健常者の測定値の分布の中央約95%が入る範囲として設定されるため、健常者でも約5%は基準範囲を外れます。基準範囲から外れた値が直ちに疾患を意味するわけではありません。検査の性能は、疾患のある人を正しく陽性と判定する割合の感度と、疾患のない人を正しく陰性と判定する割合の特異度で表されます。また、陽性と出た人のうち実際に疾患がある人の割合を陽性反応的中率、陰性と出た人のうち疾患がない人の割合を陰性反応的中率といい、的中率は集団の有病率に影響されます。
| 項目 | 主な対象 | メモ |
|---|---|---|
| AST(GOT)・ALT(GPT)・γGTP | 肝機能 | 肝障害で上昇。γGTPは飲酒でも上昇 |
| クレアチニン・eGFR | 腎機能 | 腎機能低下でクレアチニン上昇・eGFR低下 |
| 血糖・HbA1c | 糖代謝 | HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映 |
| 総コレステロール・中性脂肪(TG) | 脂質代謝 | 脂質異常症の評価 |
| CRP | 炎症 | 感染症・炎症性疾患で上昇 |
| 腫瘍マーカー(PSAなど) | 腫瘍 | PSAは前立腺の腫瘍マーカー |
- 検体検査
- 血液・尿・便など患者から採取した検体を分析する検査。生化学検査・血液学的検査・微生物検査・遺伝子検査などが含まれる。
- 生理機能検査
- 心電図・脳波・肺機能検査・超音波検査など、患者の身体を直接測定する検査。生理学的検査とも呼ばれる。
- HbA1c
- ヘモグロビンに糖が結合した割合を示す検査値。過去1〜2か月程度の平均的な血糖状態を反映し、糖尿病の診断・管理に用いられる。
- 基準範囲
- 健常者の測定値の分布の中央約95%が含まれるように設定された範囲。健常者でも約5%は外れるため、逸脱が直ちに疾患を意味しない。
- 交差適合試験
- 輸血の前に供血者と受血者の血液を試験管内で反応させ、輸血しても問題がないか適合性を確認する検査。クロスマッチテストとも呼ぶ。
- 感度・特異度
- 感度は疾患のある人を正しく陽性と判定する割合、特異度は疾患のない人を正しく陰性と判定する割合。検査の性能を表す基本指標。
- 陽性反応的中率
- 検査で陽性となった人のうち、実際に疾患がある人の割合。検査の感度・特異度だけでなく、対象集団の有病率にも左右される。
- PCR検査
- ポリメラーゼ連鎖反応により微量のDNAを増幅して検出する検査。病原体遺伝子の検出などに広く用いられる。
例題 心電図のP波・QRS波はそれぞれ何を表す?
P波は心房の興奮、QRS波は心室の興奮を表します。
例題 基準範囲を少し外れた検査値は「異常=病気」?
いいえ。基準範囲は健常者の約95%が入る範囲なので、健常者でも約5%は外れます。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第6章 検査・診断(SBO 6.1.1〜6.1.5)
画像診断と治療・処置
X線・CT・MRI・超音波・内視鏡・核医学は、原理も被ばくの有無も得意分野も違います。あわせて手術・薬物療法・放射線治療・透析・リハビリテーションという治療法の全体像を整理します。
単純X線撮影はX線の透過の差を画像にする最も基本的な検査で、胸部や骨の撮影に広く使われます。乳房専用の撮影はマンモグラフィです。造影検査では、X線に写りにくい臓器を造影剤で写し出します(胃透視、注腸X線検査、血管造影など)。造影剤にはアレルギーや腎毒性のリスクがあります。カテーテルを使って画像下で治療まで行う手技はIVRと呼ばれます。
CT検査はX線をらせん状に照射(ヘリカルスキャン)して体の断層像・立体像を得る検査で、短時間で広い範囲を撮影できます。MRI検査は強い磁場と電磁波を使うため放射線被ばくがなく、脳・脊髄や軟部組織の描出に優れます。撮像法によりT1強調像・T2強調像などがあり、血管を写すMRA、胆管・膵管を写すMRCPも撮れます。強磁場のため、ペースメーカーなどの体内金属や閉所恐怖症には注意・禁忌となる場合があります。
核医学検査は、放射性同位元素(RI)を含む放射性医薬品を投与し、体内での分布をシンチカメラで撮影して臓器の機能や代謝をみる検査です(骨シンチグラフィ、心筋血流や脳血流のSPECTなど)。FDG-PETはブドウ糖に似たFDGの集積を撮影する検査で、がんの診断などに用いられ、CTと組み合わせたPET-CTもあります。超音波検査(エコー検査)は超音波の反射を画像化する検査で、被ばくがなくリアルタイムに観察でき、腹部・心臓などに広く使われます。内視鏡検査は消化管などの管腔臓器をカメラで直接観察する検査で、組織の採取(生検)や処置も行え、飲み込むタイプのカプセル内視鏡もあります。
治療法は、手術など体を切開して行う外科的治療と薬物療法を中心とする内科的治療、体への負担が大きい侵襲的治療と小さい非侵襲的治療、疾患の原因を取り除く根治的治療と症状の緩和を目的とする姑息的治療、といった軸で分類されます。手術は開腹手術のほか、内視鏡下手術や手術支援ロボット(ダヴィンチサージカルシステム)による手術があり、全身麻酔・局所麻酔・腰椎麻酔などの麻酔下で行われます。患者・術式の取り違えを防ぐため、執刀前に手を止めて確認するタイムアウトが行われます。
薬物療法には内服薬・外用薬(湿布・軟膏・吸入・坐剤)・注射薬があります。抗がん剤による化学療法は、薬剤の組合せ・投与量・スケジュールを定めたレジメンに沿って行われます。有効域と中毒域が近い薬剤では、血中濃度を測定して投与設計を行うTDM(治療薬物モニタリング)が行われます。放射線治療には体外から照射する外照射と、放射性物質を体内・腔内に留置して照射する小線源照射(腔内照射)があり、ガンマナイフなどの定位照射や陽子線・重粒子線による粒子線治療もあります。照射の記録は照射録に残され、晩期の有害事象として2次発がんが知られています。腎不全に対しては血液中の老廃物や水分を人工的に除去する透析が行われます。リハビリテーションは、運動機能の回復を図る理学療法(PT)、日常生活動作や応用的な作業能力の回復を図る作業療法(OT)、言葉や嚥下の機能の回復を図る言語聴覚療法(ST)からなり、回復期リハビリテーション病棟などで多職種により提供されます。
| 検査 | 放射線被ばく | 原理 | 得意な対象・特徴 |
|---|---|---|---|
| 単純X線撮影 | あり | X線の透過の差 | 胸部・骨など。簡便で広く普及 |
| CT検査 | あり | X線による断層撮影 | 全身の断層像。短時間で広範囲を撮影 |
| MRI検査 | なし | 強い磁場と電磁波 | 脳・脊髄・軟部組織。体内金属に注意 |
| 超音波検査 | なし | 超音波の反射 | 腹部・心臓など。リアルタイムで簡便 |
| 内視鏡検査 | なし | カメラで直接観察 | 消化管など管腔臓器。生検・処置も可能 |
| 核医学検査 | あり | 放射性医薬品の体内分布 | 臓器の機能・代謝の評価(シンチ・PET) |
- 造影検査
- 造影剤を用いて血管や消化管などを写し出すX線検査。造影剤にはアレルギーや腎毒性のリスクがあり、事前の確認が重要となる。
- MRI検査
- 強い磁場と電磁波で体内を画像化する検査。放射線被ばくがなく軟部組織の描出に優れるが、体内金属や閉所恐怖症に注意を要する。
- 核医学検査
- 放射性医薬品を投与し、その分布をシンチカメラ等で撮影して臓器の機能・代謝をみる検査。シンチグラフィやPET・SPECTが含まれる。
- FDG-PET
- ブドウ糖類似の放射性医薬品FDGの集積を画像化する核医学検査。糖代謝の盛んな悪性腫瘍の検出などに用いられる。
- 根治的治療と姑息的治療
- 根治的治療は疾患の原因を取り除いて治癒を目指す治療。姑息的治療は治癒よりも症状の緩和や進行の抑制を目的とする治療。
- レジメン
- 抗がん剤治療などで、使用する薬剤の組合せ・投与量・投与スケジュールをあらかじめ定めた治療計画。
- TDM
- 治療薬物モニタリング。薬物の血中濃度を測定し、有効かつ安全な範囲に収まるよう投与量や間隔を設計すること。
- タイムアウト
- 手術の執刀前などに全員が作業を止め、患者・術式・部位に間違いがないかを確認する安全確認の手順。
例題 放射線被ばくのない画像検査は?
MRI検査と超音波検査(と内視鏡検査)。X線撮影・CT・核医学検査は被ばくがあります。
例題 外照射と小線源照射の違いは?
外照射は体の外から放射線を当てる方法、小線源照射は放射性物質を体内・腔内に留置して照射する方法です。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第6章(SBO 6.2.1〜6.2.8)・第7章 治療・処置(SBO 7.1.1〜7.1.8)
診療記録と医学研究
診療録と医療記録
診療録(カルテ)をはじめとする医療記録は、診療の質と継続性を支え、法的な証拠にもなる医療の基盤です。記録の目的・種類・法定保存期間・POS/SOAPによる記載・監査までを整理します。
医療記録(診療記録)を作成・利用する目的は、(1)診療の内容を正確に残して診療の質と継続性を確保する、(2)多職種のチーム医療で情報を共有する、(3)診療報酬請求の根拠とする、(4)医療事故や訴訟の際の法的な証拠となる、(5)研究・教育・統計に活用する、といった点にあります。患者への説明と同意(インフォームドコンセント)の内容も記録に残されます。
記録には法令上の定めがあります。医師が診療をしたときに遅滞なく記載する診療録は、医師法第24条により5年間の保存が義務づけられています(保険診療の診療録は療養担当規則により完結の日から5年)。また医療法・医療法施行規則により、病院の診療に関する諸記録(処方箋・手術記録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真など)は2年間の保存が定められています。保険医療機関の療養の給付に関する帳簿・書類は完結の日から3年間、助産録は保健師助産師看護師法により5年間の保存です。診療の結果は転帰(治癒・軽快・寛解・不変・増悪・死亡・中止など)として記録されます。
記録の記載方法の代表が、問題志向型医療記録(POMR)です。POMRはPOS(問題志向型システム)の考え方に基づき、患者の医療上の問題ごとに記録を整理します。構成は、患者基本情報などの基礎データ(データベース)、問題点リスト、初期計画、経過記録です。経過記録はSOAP形式、すなわちS(Subjective:患者の訴えなど主観的情報)、O(Objective:診察所見・検査結果など客観的情報)、A(Assessment:評価・考察)、P(Plan:計画)で記載されます。
医療記録には多くの種類があります。患者基本情報を記載する一号用紙、日々の経過記録、入院時に交付される入院診療計画書や退院時の退院療養計画書などの説明と同意に関わる書類、医師の指示記録(指示簿・ワークシート)、手術記録・麻酔記録、検査記録(各種報告書とその未読・既読などのステータス管理)、看護記録(基礎情報・看護計画・経過記録・看護サマリー)、薬剤管理指導記録、リハビリテーション記録、栄養指導記録、クリニカルパス記録、カンファレンス記録などです。入院経過を要約した退院時サマリーは、記載後に指導医などが確認するカウンターサイン(承認)を経て完成します。患者本人に交付される健康記録として、母子手帳やお薬手帳、健康診断記録があります。
記録は書いて終わりではなく、監査(audit)により質が保たれます。必要な書類や署名がそろっているかをみる量的監査と、記載内容が診療の質の面で適切かをみる質的監査があります。また医療記録には真正性(誰がいつ書いたかが明確で、改ざんされていないこと)が求められます。紙の記録の訂正は、元の記載が判読できるように二重線などで行い、訂正者と日時を明らかにします。診療情報の患者への提供・開示については「診療情報の提供等に関する指針」が示されています。
| 記録 | 根拠 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 診療録 | 医師法第24条 | 5年間 |
| 診療録(保険診療) | 保険医療機関及び保険医療養担当規則 | 完結の日から5年間 |
| 診療に関する諸記録(処方箋・手術記録・看護記録・エックス線写真など) | 医療法・医療法施行規則 | 2年間 |
| 療養の給付に関する帳簿・書類 | 保険医療機関及び保険医療養担当規則 | 完結の日から3年間 |
| 助産録 | 保健師助産師看護師法 | 5年間 |
- 診療録
- 医師が診療に関する事項を遅滞なく記載する記録。医師法第24条により5年間の保存が義務づけられている、医療記録の中心となる文書。
- 診療に関する諸記録
- 医療法・医療法施行規則が病院に備えることを定める記録。処方箋・手術記録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真などで、保存期間は2年間。
- POMR
- 問題志向型医療記録。POSの考え方に基づき、基礎データ・問題点リスト・初期計画・経過記録という構成で、患者の問題ごとに記録を整理する方式。
- SOAP
- 経過記録の記載形式。S(主観的情報)・O(客観的情報)・A(評価)・P(計画)の4要素で、POMRの経過記録に用いられる。
- 退院時サマリー
- 入院中の経過・治療・転帰を要約した記録。診療の継続や紹介、監査・統計に使われ、カウンターサイン(承認)を経て完成する。
- 転帰
- 診療の結果を表す区分。治癒・軽快・寛解・不変・増悪・死亡・中止などがあり、診療録や退院時サマリーに記載される。
- 量的監査・質的監査
- 医療記録の監査の2区分。量的監査は必要な記録・署名の有無など形式面を、質的監査は記載内容の適切さを評価する。
- 真正性
- 記録について、作成の責任の所在が明確で、故意または過失による虚偽入力・書換え・消去・混同が防止されていること。
例題 SOAPのOに書くのはどんな情報?
Objective=客観的情報。診察所見や検査結果など、医療者が観察・測定した事実を書きます。患者の訴えはS(Subjective)です。
例題 診療録と「診療に関する諸記録」で保存期間が違うのはなぜ覚えにくい?
根拠法が違うからです。診療録は医師法で5年、看護記録やX線写真などの諸記録は医療法(施行規則)で2年と覚えます。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第8章 診療録およびその他の医療記録(SBO 8.1.1〜8.3.1)
病名と医療の標準コード
病名・手術・検査・医薬品を共通のコードで表すことで、施設を越えた情報共有や統計・請求が可能になります。ICD、標準病名マスター、DPC、Kコードなど代表的な標準コードを整理します。
医療情報をシステム間・施設間でやり取りし、統計や研究に活用するには、病名や処置を共通のコードで表す標準化が欠かせません。同じ疾患を施設ごとに別の名前で記録していては、集計も共有もできないからです。日本では医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が各種の標準マスターを整備しています。
病名の国際的な分類がWHOの国際疾病分類ICDです。現在日本の死因・疾病統計はICD-10に準拠した統計分類で行われています。WHOは2019年にICD-11を採択し(2022年発効)、日本でも国内適用に向けた作業が進められています。日常診療の病名記載には、ICD-10に対応づけられた「ICD10対応標準病名マスター」(MEDIS-DCが維持管理)が電子カルテやレセプト電算処理で広く使われています。関連する分類として、腫瘍の分類ICD-O-3、生活機能の分類ICF(国際生活機能分類)があり、これらはWHOの国際分類ファミリー(WHO-FIC)を構成します。
急性期入院医療の支払いには診断群分類DPCが使われます。DPCコードは14桁で、先頭の6桁が傷病名(最初の2桁が主要診断群MDC、続く4桁が細分類)を表し、以降で手術・処置や重症度などを表します。DPCに基づく1日当たり包括支払い制度がDPC/PDPSです。
手術・処置のコードには、診療報酬点数表の手術コードであるKコード、処置コードであるJコードのほか、国際的な手術・処置分類のICD-9-CM、外科系学会社会保険委員会連合による外保連コード、WHOが開発を進める医療行為分類ICHIがあります。
その他の主な標準コードとして、臨床検査項目のJLAC10、画像検査(放射線分野)の実施内容を表すJJ1017、医薬品のHOTコード(標準医薬品マスター)やレセプト電算処理用コード・薬価基準収載医薬品コード、医療材料などの物流で使われるGS1コード(GS1-128シンボルなどのバーコード)、看護実践用語標準マスタ(NANDA・NIC・NOCと並ぶ看護の標準用語)、国際的な検査コードLOINCなどがあります。用途(病名・手術・検査・医薬品・物流)ごとに対応するコードを整理して覚えることが重要です。
| 対象 | 主な標準コード・分類 | メモ |
|---|---|---|
| 病名 | ICD-10/ICD-11・ICD10対応標準病名マスター | 統計はICD準拠。マスターはMEDIS-DCが管理 |
| 診断群分類 | DPC(14桁) | 先頭6桁が傷病名。DPC/PDPSで包括支払い |
| 手術・処置 | Kコード(手術)・Jコード(処置)・ICD-9-CM・外保連コード | Kコードは診療報酬点数表の手術コード |
| 臨床検査 | JLAC10・LOINC | JLAC10は日本の臨床検査項目コード |
| 画像検査 | JJ1017 | 放射線分野の手技・部位などを表す |
| 医薬品 | HOTコード・薬価基準収載医薬品コード・レセプト電算コード | HOTは各コードの橋渡し役 |
| 物流・材料 | GS1コード(GS1-128など) | バーコードでトレーサビリティを確保 |
| 看護 | 看護実践用語標準マスタ・NANDA・NIC・NOC | 看護行為・観察の標準用語 |
- ICD
- WHOが定める国際疾病分類。死因・疾病統計の国際比較の基盤で、日本の統計は現在ICD-10準拠。2019年にICD-11が採択された。
- 標準病名マスター
- ICD-10に対応づけられた病名の標準マスター(ICD10対応標準病名マスター)。MEDIS-DCが維持管理し、電子カルテやレセプト電算処理で使われる。
- DPC
- 急性期入院医療の診断群分類。14桁のコードで先頭6桁が傷病名(MDC2桁+細分類4桁)を表し、DPC/PDPSによる1日当たり包括支払いに使われる。
- Kコード・Jコード
- 診療報酬点数表のコード。Kコードは手術、Jコードは処置を表し、診療報酬請求に用いられる。
- JLAC10
- 臨床検査項目の標準コード。検査の分析物・材料・測定法などを体系的に表し、検査結果の施設間共有や集計に使われる。
- HOTコード
- MEDIS-DCの標準医薬品マスターのコード。同じ医薬品を指す各種コード(薬価基準収載コード・レセプト電算コードなど)を橋渡しする。
- GS1-128
- 医薬品・医療材料のバーコード表示に使われるGS1標準のシンボル。商品識別コードや有効期限・ロットを表現し、トレーサビリティを支える。
- ICF
- WHOの国際生活機能分類。疾病の分類であるICDに対し、心身機能・活動・参加という生活機能と背景因子の視点で人の状態を分類する。
例題 DPCコードの先頭6桁は何を表す?
傷病名です。最初の2桁が主要診断群(MDC)、続く4桁がその細分類を表します。
例題 手術のKコードと処置のJコード、どちらも何のコード?
診療報酬点数表のコードです。保険請求で手術はK、処置はJの区分番号で表されます。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第8章(SBO 8.4.1〜8.4.4)
医学研究の進め方と倫理
エビデンスをつくる研究デザイン(RCT・コホート・症例対照・横断)と、その信頼性の序列(エビデンスレベル)、研究倫理(倫理審査・利益相反・オプトアウト)、治験の流れを学びます。
医学研究は大きく、研究者が治療などを割り付ける介入研究と、割り付けをせずに観察する観察研究に分かれます。介入研究の代表が無作為化比較試験(RCT)で、対象者をランダムに介入群と対照群に割り付けて比較します。無作為割付により、群間の背景の偏りを減らせるのが強みです。
観察研究には主に3つの型があります。コホート研究は、要因に曝露した群(曝露群)と曝露していない群(非曝露群)を将来に向かって追跡し、疾患の発生(罹患率)を比較する前向きの研究で、相対危険度を直接計算できます。症例対照研究は、疾患のある群(症例)とない群(対照)を先に選び、過去の曝露を遡って比較する後ろ向きの研究で、オッズ比を指標とし、まれな疾患の研究に適し、比較的短期間・低コストで行えます。横断研究は一時点で曝露と疾患の有無を同時に調べる研究で、有病率の把握に適しますが、時間的な前後関係はわかりません。ほかに集団単位のデータで関連をみる生態学的研究、疾病の分布を記述する記述疫学があります。
研究結果の信頼性の序列がエビデンスレベルです。一般に、複数のRCTを系統的に統合したシステマティックレビュー/メタアナリシスが最も高く、個々のRCT、コホート研究、症例対照研究、症例報告、専門家の意見の順に低くなります。臨床上の疑問(Clinical Question)は、PICO/PECO(対象・介入または曝露・比較・アウトカム)の形で定式化します。観察研究では、選択バイアスや測定バイアスといった系統誤差、および曝露と結果の両方に関連して見かけの関連をつくる交絡因子に注意が必要です。
人を対象とする医学研究の国際的な倫理原則が、世界医師会のヘルシンキ宣言です。日本では「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」等に基づき、研究計画は倫理審査委員会(IRB)の審査・承認を受け、対象者からインフォームドコンセントを得るのが原則です。観察研究などでは、研究の情報を公開し、対象者が拒否できる機会を保障するオプトアウトの方式が認められる場合があります。研究者の利益相反(COI)は申告・開示して適切に管理し、改ざん・捏造などの研究不正は許されません。
医薬品の製造販売承認を目指して行われる臨床試験が治験です。治験はGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に従って実施され、少数の健康成人で安全性や薬物動態を調べる第I相試験、少数の患者で有効性・安全性や用量を探索する第II相試験、多数の患者で有効性を検証する第III相試験と進み、承認後の調査は第IV相と呼ばれます。治験を支援する専門職がCRC(治験コーディネータ)で、データは症例報告書(CRF)に記録され、電子的に収集する仕組みがEDCです。臨床試験はUMIN-CTRなどの臨床試験登録システムに事前登録されます。
| デザイン | 介入の有無 | 時間の向き | 主な指標・特徴 |
|---|---|---|---|
| 無作為化比較試験(RCT) | あり(無作為割付) | 前向き | 偏りを最小化。個別研究で最も高いエビデンス |
| コホート研究 | なし(観察) | 前向き | 罹患率・相対危険度。追跡に時間と費用がかかる |
| 症例対照研究 | なし(観察) | 後ろ向き | オッズ比。まれな疾患向き。バイアスに注意 |
| 横断研究 | なし(観察) | 一時点 | 有病率の把握。前後関係は不明 |
| 生態学的研究 | なし(観察) | 集団単位 | 地域・集団のデータで関連をみる |
| システマティックレビュー | 既存研究の統合 | — | 複数研究を系統的に統合。最上位のエビデンス |
- RCT
- 無作為化比較試験。対象者をランダムに介入群と対照群へ割り付けて効果を比較する介入研究。群間の背景の偏りを減らせ、個別研究では最も信頼性が高い。
- コホート研究
- 曝露群と非曝露群を将来に向けて追跡し、疾患の発生を比較する前向きの観察研究。罹患率や相対危険度を直接求められる。
- 症例対照研究
- 疾患のある群とない群を選び、過去の曝露を遡って比較する後ろ向きの観察研究。オッズ比を指標とし、まれな疾患の研究に適する。
- エビデンスレベル
- 研究結果の信頼性の序列。システマティックレビュー/メタアナリシスが最上位で、RCT、コホート、症例対照、症例報告、専門家意見の順に低くなる。
- 交絡因子
- 調べたい曝露と結果の両方に関連し、見かけ上の関連をつくってしまう第三の因子。無作為割付や層別解析などで影響を抑える。
- ヘルシンキ宣言
- 世界医師会が採択した、人を対象とする医学研究の倫理的原則。インフォームドコンセントや倫理審査の考え方の国際的な基盤。
- オプトアウト
- 研究の情報を公開し、対象者が参加を拒否できる機会を保障したうえで、拒否がなければ既存情報等を研究に利用する方式。
- GCP
- 医薬品の臨床試験の実施の基準。治験の科学的な質と被験者の人権・安全を守るための省令で、治験はこれに従って行われる。
例題 まれな疾患の要因を調べたい。向いている研究デザインは?
症例対照研究。疾患のある人を先に集めて過去の曝露を遡るので、まれな疾患でも成立します。
例題 オプトインとオプトアウトの違いは?
オプトインは同意した人だけを対象にする方式、オプトアウトは情報公開のうえ拒否がなければ利用できる方式です。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第9章 医学研究(SBO 9.1.1〜9.2.3)
医学統計と臨床データベース
平均・中央値・標準偏差などの記述統計、p値と信頼区間、感度・特異度・的中率・ROC曲線という診断の統計、そしてNDB・DPCデータ・がん登録などの臨床データベースを学びます。
データのまとめ方の基本が記述統計です。分布の中心を表す代表値には、すべての値の合計を個数で割った平均値、値を並べたときの真ん中の中央値、最も多く現れる最頻値があります。平均値は外れ値(極端な値)に引っ張られやすく、中央値は外れ値に対して頑健です。ばらつきは分散・標準偏差や四分位範囲で表し、分布の形は箱ひげ図やヒストグラムで可視化します。変量には、血圧のような量的変量と、血液型のような質的(カテゴリ)変量があり、適するまとめ方・グラフ(棒グラフ・円グラフ・折れ線グラフ・箱ひげ図など)が異なります。
2つの量的変量の関連の強さは相関係数(−1から+1)で表します。+1に近いほど正の相関、−1に近いほど負の相関が強いことを示しますが、相関があることは因果関係を意味しません。一方の変量から他方を予測する式を求めるのが回帰分析(単回帰)です。
検定は、まず「差がない」という帰無仮説を立て、得られたデータがその仮説の下でどれくらい起こりにくいかを評価する手続きです。p値は、帰無仮説が正しいとした場合に、観察された結果かそれ以上に極端な結果が得られる確率で、あらかじめ定めた有意水準(慣例的に0.05)を下回れば帰無仮説を棄却し「統計学的に有意」と判断します。データが正規分布に従うことを仮定する検定(t検定など)に対し、分布の形を仮定しないノンパラメトリックな方法もあります。推定値の不確かさは信頼区間で表し、95%信頼区間が広いほど推定の精度が低いことを意味します。
診断・スクリーニングの統計では2×2表(疾患の有無×検査の陽性陰性)を使います。感度は疾患のある人のうち検査陽性となる割合、特異度は疾患のない人のうち検査陰性となる割合です。陽性反応的中率(陽性者のうち疾患ありの割合)と陰性反応的中率は、感度・特異度だけでなく対象集団の有病率に強く影響され、有病率が低い集団では陽性反応的中率は低くなります。検査の判定基準(カットオフ値)を動かしながら、縦軸に感度・横軸に偽陽性率(1−特異度)をとって描いた曲線がROC曲線で、曲線下面積(AUC)が大きいほど判別能の高い検査です。感度と特異度はトレードオフの関係にあります。
診療で生まれたデータを集めた臨床データベースは、医療の質評価や政策・研究に活用(二次利用)されます。NDB(ナショナルデータベース)は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づきレセプト情報と特定健診等情報を集めた国のデータベースです。DPC対象病院から収集されるDPCデータ(DPC調査)は急性期入院医療の分析に使われます。NCD(National Clinical Database)は外科系の学会が中心となり手術症例などを登録する臨床データベースで、専門医制度とも連携しています。がん登録には、法律(がん登録等の推進に関する法律)に基づき病院に届出義務がある全国がん登録と、施設内の診療情報を登録する院内がん登録があります。特定の疾患や治療の症例を継続的に登録する仕組みは疾患レジストリと呼ばれます。また、次世代医療基盤法では、国の認定を受けた事業者(認定匿名加工医療情報作成事業者等)が、あらかじめ通知を受けた本人が停止を求めない限り(オプトアウト方式)医療機関等から医療情報の提供を受け、匿名加工等をして研究開発に提供する仕組みが設けられています。
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 感度 | a ÷(a+c) | 疾患のある人のうち検査陽性となる割合 |
| 特異度 | d ÷(b+d) | 疾患のない人のうち検査陰性となる割合 |
| 陽性反応的中率 | a ÷(a+b) | 陽性者のうち実際に疾患がある割合。有病率に影響される |
| 陰性反応的中率 | d ÷(c+d) | 陰性者のうち実際に疾患がない割合 |
| 偽陽性率 | b ÷(b+d)=1−特異度 | 疾患のない人が誤って陽性となる割合。ROC曲線の横軸 |
- 中央値
- データを小さい順に並べたときの真ん中の値。平均値と異なり外れ値の影響を受けにくく、分布が偏ったデータの代表値に適する。
- 標準偏差
- データのばらつきの大きさを表す指標。分散の平方根で、平均値の周りにデータがどの程度散らばっているかを示す。
- p値
- 帰無仮説が正しいとしたときに、観察された結果かそれ以上に極端な結果が得られる確率。有意水準(慣例0.05)未満で帰無仮説を棄却する。
- 信頼区間
- 推定値の不確かさを幅で表したもの。95%信頼区間が代表的で、区間が狭いほど推定の精度が高い。
- 感度・特異度
- 感度は疾患のある人のうち検査陽性となる割合、特異度は疾患のない人のうち検査陰性となる割合。両者はカットオフ値に対しトレードオフの関係。
- ROC曲線
- カットオフ値を変えながら縦軸に感度、横軸に偽陽性率(1−特異度)をとって描く曲線。曲線下面積(AUC)が大きいほど判別能が高い。
- NDB
- レセプト情報・特定健診等情報データベース。高齢者の医療の確保に関する法律に基づき国が構築・運用し、医療費分析や研究に活用される。
- 全国がん登録
- がん登録等の推進に関する法律に基づき、病院等に届出義務があるがん罹患情報の登録制度。院内がん登録・疾患レジストリと区別する。
- 認定匿名加工医療情報作成事業者
- 次世代医療基盤法に基づき国の認定を受け、医療機関等から提供された医療情報を匿名加工等して研究開発に提供する事業者。提供はオプトアウト方式による。
例題 年収のように一部の極端な値があるデータの代表値は?
中央値が適しています。平均値は外れ値に引っ張られて実感とずれやすくなります。
例題 有病率が低い集団で検査をすると的中率はどうなる?
陽性反応的中率は低くなります。疾患のない人が多い分、偽陽性が相対的に増えるためです。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医学・医療系)v7(2025年7月26日更新)第9章(SBO 9.1.3)・第10章 医学・医療統計(SBO 10.1.1〜10.3.2)・第11章 臨床データベース(SBO 11.1.1〜11.1.5)
情報の表現とコンピュータ
情報の単位と基数変換
コンピュータの中では、あらゆる情報が0と1の列で表される。情報量の単位と、2進数・10進数・16進数を相互に変換する基数変換は、情報処理技術系すべての土台になる。
情報の最小単位はビット(bit)で、0か1のどちらか一方を表す。8ビットをまとめた単位がバイト(Byte)で、1バイトでは2の8乗=256通りのビットパターンを表せる。大きなデータ量は、K(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)、T(テラ)、P(ペタ)、E(エクサ)の接頭辞を付けて、KB・MB・GB・TB・PBのように表す。接頭辞には1,000倍ごとに上がる10進の使い方と、1,024(2の10乗)倍ごとに上がる2進の使い方がある。
私たちが日常使うのは10進数だが、コンピュータ内部は2進数で動き、メモリアドレスや色コードの表記には16進数もよく使われる。ある基数(基底数)で表した数を別の基数で表し直すことを基数変換という。2進数から10進数へは、1が立っている桁の重み(…16、8、4、2、1)を足し合わせる。10進数から2進数へは2で割った余りを下の桁から並べる。2進数と16進数は4ビットが16進1桁に対応するので、4ビットずつ区切って変換できる。
小数の基数変換では、2進数の小数点以下の桁の重みが0.5(2の-1乗)、0.25(2の-2乗)、0.125(2の-3乗)…となる。たとえば10進数の0.625は0.5+0.125なので2進数では0.101になる。
負の数は補数で表すのが一般的である。8ビットの2の補数表現では、絶対値のビットをすべて反転して1を加えると符号を反転した数になる。補数を使うと、減算を加算回路だけで実現できる。
| 接頭辞 | 読み | 10進での大きさ | 2進での大きさ |
|---|---|---|---|
| K | キロ | 10の3乗 | 2の10乗(1,024) |
| M | メガ | 10の6乗 | 2の20乗 |
| G | ギガ | 10の9乗 | 2の30乗 |
| T | テラ | 10の12乗 | 2の40乗 |
| P | ペタ | 10の15乗 | 2の50乗 |
| E | エクサ | 10の18乗 | 2の60乗 |
- ビット(bit)
- 情報の最小単位。0か1のどちらか一方の状態を表す。nビットでは2のn乗通りの状態を区別でき、8ビットをまとめたものが1バイトである。
- 基数変換
- 2進数・8進数・10進数・16進数など、ある基底数で表した数値を別の基底数の表現に変換すること。2進数と16進数は4ビット単位で桁が対応する。
- 補数
- 負の数を表すための表現。2の補数はビットを反転して1を加えて得られ、これを使うと加算回路だけで減算を処理できるため広く使われる。
- 接頭辞(K/M/G/T/P/E)
- 大きなデータ量を表す単位の接頭辞。キロ・メガ・ギガ・テラ・ペタ・エクサの順に大きくなり、10進では1,000倍ごと、2進では1,024倍ごとに上がる。
例題 2進数1010を10進数で表すと?
1が立っている桁の重みは8と2なので、8+2=10。
例題 16進数FFを10進数で表すと?
F=15なので、15×16+15=255。8ビットすべてが1のときの値にあたる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第1章 情報の表現 GIO 1.1(SBO 1.1.1・1.1.2)
データの表現と論理演算
数値・文字・画像・音声・動画は、それぞれ決められた形式のビット列として表現される。数値と文字の表現方法、代表的なデータ形式、そして論理演算の基本を押さえる。
数値には整数型と実数型がある。整数型はビット長によって表現できる範囲が決まる。実数型では、数値を仮数部と指数部の組で表す浮動小数点表示が使われ、限られたビット長で非常に広い範囲の実数を扱える(ただし誤差が生じうる)。
文字は文字コードで数値に対応付けて表す。ASCIIは7ビットで英数字と記号を表す基本的なコードである。日本語のように1バイトで表しきれない文字は、JIS漢字・Shift-JIS・EUC-JPなどのマルチバイトコードで表す。多言語対応のために世界の文字を統一的に扱うUnicodeが作られ、その符号化方式のUTF-8は1文字を1〜4バイトの可変長で表し、ASCIIと互換性があるため広く使われている。
データの形式には、カンマ区切りの表形式テキストであるCSV、タグで構造を記述するXMLやhtml、名前と値の組でデータを表す軽量なテキスト形式のJSON、文書のPDFなどがある。静止画ではJPEG(非可逆圧縮)、PNG・GIF(可逆圧縮)、BMP、TIFF、HEIF、動画ではMPEG、H.264、HEVC(H.265)、音声ではPCM、WAV、MP3、MIDIが代表的である。圧縮には、元に戻せる可逆圧縮と、元に完全には戻せない代わりに高い圧縮率が得られる非可逆圧縮(不可逆圧縮)がある。ZIPはアーカイブと可逆圧縮の代表例である。
論理演算は真理値表で整理する。否定(NOT)は入力を反転し、論理積(AND)は両方が1のときだけ1、論理和(OR)はどちらかが1なら1、排他的論理和(XOR)は2つの入力が異なるときだけ1になる。NAND・NORはAND・ORの結果を否定したものである。
| A | B | AND | OR | XOR | NAND | NOR |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 |
| 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 |
- 浮動小数点表示
- 実数を仮数部と指数部の組で表す方式。限られたビット長で広い範囲の数値を表現できるが、2進数で表しきれない値では丸め誤差が生じることがある。
- UTF-8
- Unicodeの符号化方式の一つ。1文字を1〜4バイトの可変長で表し、ASCIIの範囲は1バイトでそのまま表せるため互換性が高く、Webで広く使われる。
- JSON
- 名前と値の組や配列を使ってデータ構造を表す軽量なテキスト形式。システム間のデータ交換に広く使われ、XMLに比べて記述が簡潔である。
- 非可逆圧縮
- 圧縮したデータを完全には元に戻せない圧縮方式。人が気づきにくい情報を削って高い圧縮率を得る。JPEGやMP3、H.264などで使われる。
- 排他的論理和(XOR)
- 2つの入力が異なるとき(0と1、1と0)に1、同じとき(0と0、1と1)に0を出力する論理演算。真理値表で他の演算と区別して覚える。
例題 検査結果の一覧を他システムに渡す、カンマ区切りのテキスト形式は?
CSV。1行が1レコード、カンマで区切られた各値がフィールドに対応する。
例題 X線画像を高圧縮で保存したら画質が少し劣化した。使われた圧縮の種類は?
非可逆圧縮(JPEGなど)。元のデータには完全には戻せない。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第1章 情報の表現 GIO 1.2(SBO 1.2.1〜1.2.5)
デジタル化とハードウェア
音声や画像などのアナログ情報をデジタル化する仕組みと、コンピュータを構成するハードウェア・処理形態・インターフェースを学ぶ。
アナログ信号のデジタル化(A/D変換)は、標本化(サンプリング)→量子化→符号化の順に行う。標本化は一定間隔で信号の値を取り出すこと、量子化は取り出した値を有限個の段階に丸めること、符号化はそれを2進数の符号にすることである。標本化定理(サンプリング定理)によれば、信号に含まれる最高周波数の2倍以上の周波数で標本化すれば元の信号を再現できる。画像のきめ細かさは解像度で表し、単位にはdpi(dot per inch)やピクセル数を使う。
コンピュータは、入力装置・出力装置・記憶装置・制御装置・演算装置の5大装置で構成される。制御装置と演算装置を合わせたものがCPU(中央処理装置)である。記憶装置には、CPUが直接読み書きする主記憶装置と、電源を切ってもデータが消えない補助記憶装置がある。補助記憶にはハードディスク、フラッシュメモリを使ったSSDやUSBメモリ、CD・DVD・Blu-rayなどの光ディスク、磁気テープがある。複数のディスクを組み合わせて信頼性や性能を高める技術がRAIDで、RAID0はストライピング(冗長性なし)、RAID1はミラーリング、RAID5はパリティの分散記録である。このほか、停電時に電源を供給するUPS、ストレージをネットワーク接続するSANやNASも重要である。
コンピュータの種類にはサーバー、パーソナルコンピュータ、シンクライアント、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末がある。処理形態には、処理を依頼するクライアントとサービスを提供するサーバに分けるサーバ/クライアント方式、要求に即座に応答するリアルタイム処理、一定期間のデータをまとめて一括処理するバッチ処理、オンライン処理とオフライン処理、複数のコンピュータで処理を分担する分散処理、1台の物理マシン上で複数の仮想マシンを動かす仮想化技術がある。
機器の接続にはインターフェースの知識が必要である。USBは周辺機器の接続に広く使われ、映像出力にはHDMI・DisplayPort・DVI・アナログRGBが、シリアル通信にはRS-232Cが使われる。有線LANのコネクタはRJ-45である。
| インターフェース | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|
| USB | 周辺機器全般の接続 | キーボード・マウス・USBメモリなど |
| HDMI | 映像・音声のデジタル出力 | 1本で映像と音声を伝送 |
| DisplayPort | 映像のデジタル出力 | PCとディスプレイの接続 |
| DVI-D | 映像のデジタル出力 | デジタル専用 |
| アナログRGB | 映像のアナログ出力 | 従来型ディスプレイ接続 |
| RS-232C | シリアル通信 | 計測機器などとの接続 |
| LANコネクタ(RJ-45) | 有線LAN(イーサネット) | UTPケーブルの端子 |
- 標本化定理
- アナログ信号に含まれる最高周波数の2倍以上の周波数で標本化すれば、元の信号を再現できるという定理。サンプリング定理ともいう。
- 5大装置
- コンピュータを構成する入力装置・出力装置・記憶装置・制御装置・演算装置の総称。制御装置と演算装置を合わせたものがCPUである。
- RAID
- 複数のディスクを組み合わせて信頼性や性能を高める技術。RAID0はストライピング、RAID1はミラーリング、RAID5はパリティを分散して記録する。
- バッチ処理
- 一定期間ためたデータをまとめて一括処理する処理形態。夜間のレセプト集計処理などに向く。即時に応答するリアルタイム処理と対比される。
- UPS(無停電電源装置)
- 停電や瞬断の際に、内蔵バッテリから一定時間電力を供給する装置。サーバを安全に停止させる時間を確保し、データ消失を防ぐ。
例題 心電図の波形(最高周波数100Hz程度と仮定)をデジタル化するのに最低限必要な標本化周波数は?
標本化定理より最高周波数の2倍以上、つまり200Hz以上で標本化する。
例題 2台のディスクに同じ内容を書き込み、1台故障してもデータを失わない構成は?
RAID1(ミラーリング)。冗長性を確保する代表的な構成である。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第1章 SBO 1.2.4・第2章 ハードウェア GIO 2.1・2.2(SBO 2.1.1〜2.2.2)
ソフトウェアとプログラム
ソフトウェアはOS・ミドルウェア・アプリケーションソフトウェアに分類される。それぞれの役割と、プログラミング言語、データ構造・アルゴリズムの基礎を学ぶ。
オペレーティングシステム(OS)は、ハードウェアを直接管理する基本ソフトウェアである。主な機能に、メモリ管理、タスク管理・プロセス管理、周辺装置の制御、ネットワークのサポート、階層ファイルシステム(ファイルとディレクトリ)の管理、ユーザ管理、電源管理がある。代表的なOSにWindows、Mac OS、UNIX、Linux、Android、iOSがある。
ミドルウェアはOSとアプリケーションソフトウェアの中間に位置し、共通機能を提供するソフトウェアである。データベース管理システム(DBMS)、トランザクション処理モニタ(TPモニタ)、ネットワーク管理システム、運用管理ツールが代表例である。アプリケーションソフトウェアは利用者の業務に直接使うソフトウェアで、文書処理・表計算・プレゼンテーション・画像処理・メールソフトウェア・Webブラウザ・統計ソフトウェア・BIツールなどがあり、近年はクラウドサービス上で動くものも多い。
プログラミング言語には、C・C++・C#・Java・JavaScript・Python・PHP・Ruby・Perl・Visual BASIC・Swiftなど多くの種類がある。JavaScriptは主にWebブラウザ上で動作してWebページに動きを付ける言語で、名前は似ているがJavaとは別の言語である。SQLはデータベースを操作するための言語である。
データ構造には、配列、リスト(線形リスト)、後入れ先出し(LIFO)のスタック、先入れ先出し(FIFO)のキュー、木構造(二分木・二分探索木)、グラフがある。処理手順(アルゴリズム)はフローチャートで表現でき、整列のアルゴリズムには、隣り合う要素の比較・交換を繰り返すバブルソートや、基準値より大きい組と小さい組に分割を繰り返すクイックソートがある。
| 分類 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| オペレーティングシステム | ハードウェアの管理と実行環境の提供 | Windows、Linux、iOS |
| ミドルウェア | OSとアプリの中間で共通機能を提供 | DBMS、TPモニタ、運用管理ツール |
| アプリケーションソフトウェア | 利用者の業務処理 | 表計算、Webブラウザ、BIツール |
- オペレーティングシステム(OS)
- メモリ管理・タスク管理・ファイルシステムの管理など、ハードウェアを管理してアプリケーションに実行環境を提供する基本ソフトウェア。WindowsやLinuxが代表例。
- ミドルウェア
- OSとアプリケーションの中間に位置し、多くのアプリケーションが共通に使う機能を提供するソフトウェア。DBMSやTPモニタが代表例である。
- スタックとキュー
- スタックは後に入れたデータを先に取り出すLIFO、キューは先に入れたデータを先に取り出すFIFOのデータ構造。処理待ち行列にはキューが使われる。
- フローチャート
- 処理の手順(アルゴリズム)を、判断や繰り返しなどの記号を使って図で表したもの。プログラムの設計や手順の説明に使われる。
例題 電子カルテシステムの裏でデータを一元管理しているミドルウェアは?
データベース管理システム(DBMS)。アプリケーションとOSの間でデータ管理機能を提供する。
例題 印刷待ちのジョブを受け付けた順に処理するのに適したデータ構造は?
キュー。先に入れたものを先に取り出すFIFOの構造だからである。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第3章 ソフトウェア GIO 3.1・3.2(SBO 3.1.1〜3.2.2)
データベースとネットワーク
関係データベースの基礎
データベースは医療情報システムに欠かせない基盤技術である。DBMSの役割、データモデルの概念、関係データベースの構造、キー制約と正規化を学ぶ。
データベース管理システム(DBMS)は、データを一元管理し、複数の利用者やプログラムからの同時利用の制御、整合性の維持、認証やアクセス権限の管理などを担うソフトウェアである。データベースには、木構造でデータを持つ階層型データベース(HDB)、網の目状の網型データベース(NDB)、表で表す関係データベース(RDB)、オブジェクト指向データベース(OODB)、XMLデータベース、そして関係モデルによらないNoSQLデータベースなどの種類がある。
データベースの設計では、利用者から見えるビューを定義する外部スキーマ、データベース全体の論理構造を定義する概念スキーマ、記憶装置上の物理的な格納方法を定義する内部スキーマの三層スキーマアーキテクチャが使われる。三層に分けることで、物理的な変更が応用プログラムに影響しにくくなる(データの独立性)。概念設計にはE-R図が使われ、実体(エンティティ)とその属性、実体間のリレーションシップ、1対多などの対応関係(カーディナリティ)を表す。
関係データベースでは、データを表(テーブル)で管理する。表の行がレコード、列がフィールド(属性・項目)である。行を一意に識別する列が主キーで、重複やNULL(空値)は許されない。他の表の主キーを参照する列が外部キーで、参照先に存在しない値を持てないという参照整合性制約を保つ。このほか、列の値の重複を禁止する一意制約などの整合性制約がある。実表から必要な部分を取り出して見せる仮想的な表をビューという。
正規化は、データの重複を排除して更新時の矛盾(不整合)を防ぐための表の分割手順である。繰り返し項目を排除して1つのフィールドに1つの値だけを持たせると第1正規形、主キーの一部にだけ従属する列(部分関数従属)を分離すると第2正規形、主キー以外の列を介して従属する列(推移的関数従属)を分離すると第3正規形になる。
| 正規形 | 満たす条件 |
|---|---|
| 非正規形 | 繰り返し項目を含む表 |
| 第1正規形 | 繰り返し項目を排除し、1つのフィールドに1つの値だけを持つ |
| 第2正規形 | 第1正規形で、主キーの一部にだけ従属する列(部分関数従属)を分離した形 |
| 第3正規形 | 第2正規形で、主キー以外の列を介した従属(推移的関数従属)を分離した形 |
- DBMS
- データベース管理システム。データの一元管理、同時利用の制御、整合性の維持、認証・アクセス権限の管理などを担うミドルウェアである。
- 三層スキーマアーキテクチャ
- データベースを外部スキーマ・概念スキーマ・内部スキーマの三層で定義する考え方。物理的な変更の影響を応用プログラムに及ぼしにくくし、データの独立性を高める。
- 主キー
- 表の中の行(レコード)を一意に識別するための列または列の組。値の重複やNULLは許されない。患者テーブルの患者IDなどが典型例である。
- 外部キー
- 他の表の主キーを参照する列。参照先の表に存在しない値を持てないという参照整合性制約により、表と表の間の整合性を保つ。
- 正規化
- データの重複を排除し、更新時の不整合を防ぐために表を分割していく手順。第1〜第3正規形が基本で、繰り返し項目や関数従属を段階的に取り除く。
例題 患者テーブルで行を一意に識別する患者IDのような列を何と呼ぶか。
主キー。値の重複もNULLも許されない。
例題 処方テーブルの患者ID列が患者テーブルの患者IDを参照しているとき、この列を何と呼ぶか。
外部キー。参照整合性制約により、患者テーブルに存在しない患者IDは登録できない。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第4章 データベース技術 GIO 4.1・4.2(SBO 4.1.1・4.1.2・4.2.1)
SQLとデータベース運用管理
関係データベースはSQLで操作する。SELECT文の基本構文と関係演算、トランザクションのACID特性、排他制御、バックアップとリカバリ、データ活用技術を学ぶ。
SQL(Structured Query Language)には、表の作成・削除を行うデータ定義、検索・抽出・追加・更新・削除を行うデータ操作、アクセス権の付与などを行うデータ制御の機能がある。検索の基本はSELECT文で、SELECT句で取り出す列を指定し(関係演算の射影)、FROM句で対象の表を、WHERE句で行の条件を指定する(選択)。複数の表はJOIN(結合)で主キーと外部キーを突き合わせて結び付ける。GROUP BY句でグループごとの集計(COUNT・SUM・AVGなど)を行い、ORDER BY句で結果を並べ替える。関係演算には射影・選択・結合が、集合演算には和・積・差がある。
一連の処理をひとまとまりとして扱う単位をトランザクションという。トランザクションにはACID特性が求められる。原子性(不可分性)は処理がすべて実行されるかまったく実行されないかのどちらかになること、一貫性はデータの整合性が保たれること、隔離性(独立性)は複数のトランザクションが互いに干渉しないこと、耐久性(持続性)は完了した結果が失われないことである。
同じデータへの同時更新を防ぐには、ロックによる排他制御を行う。ロックには共有ロックと排他ロックがあり、ロックする範囲をロックレベルという。2相ロックで一貫性を保つが、2つのトランザクションが互いに相手のロック解除を待って止まるデッドロックが起こりうる。処理が正常に完了したら更新を確定するコミットを行い、異常時には更新前の状態に戻すロールバックを行う。媒体障害の際は、バックアップファイルを復元したうえで、ログファイル(ジャーナルファイル)の更新後情報を使って障害直前の状態まで更新をやり直すロールフォワードで回復する。回復の起点にはチェックポイントが使われる。
データ活用の基盤として、業務システムから抽出(Extract)・変換(Transform)・格納(Load)するETL処理により、分析用のデータウェアハウス(DWH)やデータマートにデータを蓄積する。データの誤りや表記ゆれを整えるデータクレンジング、多次元的に集計・分析するOLAP、結果をダッシュボードで可視化するBIツールなども、医療データの二次利用で重要である。
SELECT文の基本構文(射影・選択・整列)
-- 65歳以上の患者を氏名順に取り出す例 1: SELECT 氏名, 年齢 2: FROM 患者 3: WHERE 年齢 >= 65 4: ORDER BY 氏名;
| 特性 | 別名 | 内容 |
|---|---|---|
| 原子性(Atomicity) | 不可分性 | 処理がすべて実行されるか、まったく実行されないかのいずれかになる |
| 一貫性(Consistency) | 整合性 | トランザクションの前後でデータの整合性が保たれる |
| 隔離性(Isolation) | 独立性 | 同時に実行される他のトランザクションの影響を受けない |
| 耐久性(Durability) | 持続性 | 完了したトランザクションの結果は障害が起きても失われない |
- ACID特性
- トランザクションに求められる原子性・一貫性・隔離性・耐久性の4つの性質。信頼できるデータベース処理の基本条件とされる。
- デッドロック
- 2つ以上のトランザクションが、互いに相手が確保しているロックの解放を待ち合ってどちらも進めなくなる状態。一方を強制的にロールバックして解消する。
- ロールバックとロールフォワード
- ロールバックは異常終了時に更新前の状態へ戻す処理。ロールフォワードは媒体障害時にバックアップを復元し、ログの更新後情報で障害直前まで更新をやり直す処理である。
- ETL
- 業務システムなどからデータを抽出(Extract)し、形式を変換(Transform)して、DWHなどに格納(Load)する一連の処理。データ分析基盤の構築に使われる。
例題 会計処理の途中でエラーが発生し、途中までの更新を取り消した。この処理は?
ロールバック。トランザクションの原子性を保つため、更新前の状態に戻す。
例題 電子カルテのデータを分析用に抽出・変換してDWHへ格納する処理は?
ETL(Extract/Transform/Load)。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第4章 データベース技術 GIO 4.2〜4.4(SBO 4.2.2・4.3.1・4.3.2・4.4.1〜4.4.3)
ネットワークの基礎
通信の約束事であるプロトコルは階層モデルで整理される。OSI参照モデルとTCP/IP4層モデル、IPアドレスとサブネット、DNS・DHCPなどの基本プロトコルを学ぶ。
ネットワークの機能は階層(Layer)に分けて整理される。OSI参照モデルは物理層・データリンク層・ネットワーク層・トランスポート層・セッション層・プレゼンテーション層・アプリケーション層の7階層、TCP/IP4層モデルはネットワークインタフェース層・インターネット層・トランスポート層・アプリケーション層の4階層で通信機能を整理する。トランスポート層のTCPはコネクション型で、到達確認や再送制御により信頼性の高い通信を行う。UDPはコネクションレス型で、確認を省く代わりに軽く、音声・映像配信などに向く。
LANの主流はイーサネットで、機器のネットワークインターフェースには48ビットのMACアドレス(物理アドレス)が割り当てられている。イーサネットのアクセス制御方式にはCSMA/CDがある。インターネット層のIP(インターネットプロトコル)では、データをパケットに分割し、IPアドレスを使って宛先に届ける。IPv4アドレスは32ビットで、サブネットマスク(またはCIDRのプレフィックス表記)によってネットワークアドレス部とホスト部に分けられる。ホスト部がすべて0のアドレスはネットワークアドレス、すべて1のアドレスはブロードキャストアドレスとして予約されるため、ホストに割り当てられる数は「2のホスト部ビット数乗−2」である。IPv6は128ビットのアドレスを使う。
組織内では自由に使えるプライベートアドレス(10.0.0.0〜、172.16.0.0〜172.31.255.255、192.168.0.0〜の各範囲)を使い、インターネット上ではグローバルアドレスを使う。異なるネットワーク間の転送(ルーティング)はルータがルーティングテーブルに基づいて行い、宛先が自ネットワーク外のパケットはデフォルトゲートウェイ(デフォルトルート)に送られる。宛先の指定には、1対1のユニキャスト、全体へのブロードキャスト、特定グループへのマルチキャストがある。
その他の基本プロトコルとして、IPアドレスからMACアドレスを求めるARP、エラー通知や疎通確認(pingが利用)を行うICMP、端末にIPアドレスなどの設定を自動的に割り当てるDHCP、ドメインネームとIPアドレスの対応付け(名前解決)を行うDNSがある。ルーティングプロトコルにはRIP・OSPF・BGPがある。
| OSI参照モデル | TCP/IP4層モデル | 代表的なプロトコル・技術 |
|---|---|---|
| 第7層 アプリケーション層 | アプリケーション層 | HTTP、SMTP、POP、DNS、DHCP、NTP |
| 第6層 プレゼンテーション層 | アプリケーション層 | データ表現形式の変換 |
| 第5層 セッション層 | アプリケーション層 | 対話(セッション)の管理 |
| 第4層 トランスポート層 | トランスポート層 | TCP、UDP、ポート番号 |
| 第3層 ネットワーク層 | インターネット層 | IP、ICMP、ルータ、L3スイッチ |
| 第2層 データリンク層 | ネットワークインタフェース層 | イーサネット、MACアドレス、L2スイッチ |
| 第1層 物理層 | ネットワークインタフェース層 | UTPケーブル、光ファイバー、リピータハブ |
- OSI参照モデル
- 通信機能を物理層からアプリケーション層まで7つの階層に分けて整理した参照モデル。各層の役割と代表的な機器・プロトコルの対応を押さえることが重要である。
- TCPとUDP
- どちらもトランスポート層のプロトコル。TCPはコネクション型で到達確認により信頼性が高い。UDPはコネクションレス型で軽く、リアルタイム性を重視する通信に向く。
- MACアドレス
- ネットワークインターフェースに割り当てられた48ビットの物理アドレス。イーサネットやWi-Fiで機器を識別する。Ethernetアドレスとも呼ばれる。
- サブネットマスク
- IPv4アドレス32ビットのうち、どこまでがネットワークアドレス部かを示す値。CIDRでは/26のようにプレフィックス長で表記する。
- DNSとDHCP
- DNSはドメインネームとIPアドレスの対応付け(名前解決)を行う仕組み。DHCPは端末にIPアドレスなどのネットワーク設定を自動的に割り当てるプロトコルである。
例題 192.168.1.0/24 のネットワークでホストに割り当てられるアドレス数は?
ホスト部が8ビットなので2の8乗−2=254個。ネットワークアドレスとブロードキャストアドレスは割り当てられない。
例題 端末をつなぐだけでIPアドレスが自動設定される仕組みは?
DHCP。サーバがアドレスやデフォルトゲートウェイなどの設定を払い出す。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第5章 ネットワーク技術 GIO 5.1(SBO 5.1.1〜5.1.3)
ネットワークサービスとLAN
WWWや電子メールなどのネットワークサービスとポート番号、LANを構成する機器、無線LAN、VLAN・VPNによる対外接続を、医療機関での使われ方とあわせて学ぶ。
代表的なネットワークサービスに、HTTPで転送されるWWW、SMTP(送信・転送)とPOP(受信)を使う電子メール、機器の時刻を合わせるNTPがある。アプリケーションはポート番号で区別され、HTTPの80番、SMTPの25番、POP3の110番、DNSの53番、NTPの123番などのよく知られたポート番号をWell Known Portという。医療情報システムでは、各サーバや医療機器の時刻をNTPで同期させることが、診療記録の時刻の信頼性の面で重要である。
LANを構成する機器には、受信した信号をすべてのポートに中継するHUB(リピータハブ)、MACアドレスを見て宛先のポートだけに転送するL2スイッチ、IPアドレスに基づいて異なるネットワーク間のルーティングを行うルータやL3スイッチがある。伝送媒体にはUTPケーブルや光ファイバーケーブルが使われ、トポロジーにはスター型などがある。VLANは、スイッチの設定によって物理的な配線とは独立に論理的なネットワークを分割する技術で、医療機関では電子カルテなどの基幹系と事務系・来訪者用のネットワークを分離する目的などに使われる。
無線LAN(Wi-Fi)はIEEE802.11a/b/g/n/acなどの規格で標準化されており、アクセスポイントをSSIDで識別する。暗号化にはWEP・WPA・WPA2があり、WEPは解読が容易なため、より強固なWPA2などを使う。電波は同じチャンネルで干渉が起こること、端末が移動するとアクセスポイント間をローミングすることも押さえる。近距離無線にはBluetoothがあり、低消費電力のBluetooth Low Energy(LE)はセンサ機器などに使われる。
拠点間の接続やリモートアクセスには、専用線のほか、暗号化などにより公衆回線上に仮想的な専用ネットワークを作るVPNが使われる。医療機関が地域連携や遠隔保守のために外部と接続する場合も、VPNなどで通信を保護する。プライベートアドレスのネットワークからインターネットへ出る際は、NAT(NAPT)がプライベートアドレスとグローバルアドレスを変換する。対外接続回線にはFTTHやCATV、5Gなどがあり、通信品質を保証しないベストエフォート型の回線では、SLA(サービス品質の合意)の内容にも注意が必要である。
| サービス | プロトコル | ポート番号 |
|---|---|---|
| Webページの転送 | HTTP | 80 |
| メールの送信・転送 | SMTP | 25 |
| メールの受信 | POP3 | 110 |
| 名前解決 | DNS | 53 |
| 時刻同期 | NTP | 123 |
- Well Known Port
- 主要なサービスにあらかじめ割り当てられた、よく知られたポート番号。HTTPの80番、SMTPの25番、POP3の110番、DNSの53番、NTPの123番などがある。
- L2スイッチとルータ
- L2スイッチはMACアドレスに基づいて同一LAN内でフレームを転送する機器。ルータ(L3スイッチ)はIPアドレスに基づいて異なるネットワーク間のルーティングを行う。
- VLAN
- スイッチの設定により、物理的な配線とは独立に論理的にネットワークを分割する技術。医療機関では基幹系と事務系の分離などに使われる。
- VPN
- 暗号化などの技術により、インターネットなどの公衆回線上に仮想的な専用ネットワークを構築する技術。拠点間接続やリモートアクセス、遠隔保守の通信保護に使われる。
- NAT(NAPT)
- プライベートアドレスとグローバルアドレスを相互に変換する技術。NAPTはポート番号も併用し、1つのグローバルアドレスを複数の端末で共有できる。
例題 院内の電子カルテ系ネットワークと来訪者用Wi-Fiを、同じスイッチ上で論理的に分けたい。使う技術は?
VLAN。物理配線を変えずにネットワークを論理的に分割できる。
例題 医療機器メーカーがインターネット経由で院内サーバを安全に遠隔保守するために使う代表的技術は?
VPN。暗号化により公衆回線上に仮想的な専用ネットワークを作る。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第5章 ネットワーク技術 GIO 5.2(SBO 5.2.1〜5.2.4)
情報セキュリティ
情報セキュリティの基礎と脅威
患者情報を扱う医療情報システムでは、情報資産を脅威から守る情報セキュリティの考え方が土台になる。3要素+αとリスクマネジメント、代表的な攻撃手法を押さえる。
情報セキュリティは、情報資産を脅威から守り、安全に利用し続けるための取り組みである。中核となるのが機密性(Confidentiality:許可された者だけが情報にアクセスできること)、完全性(Integrity:情報が改ざん・破壊されず正確であること)、可用性(Availability:必要なときに情報やシステムを使えること)の3要素で、頭文字からCIAと呼ばれる。これに真正性(利用者や情報が本物であること)、責任追跡性(誰が何をしたか追跡できること)、否認防止(行為を後から否定できないこと)、信頼性(システムが意図どおり動くこと)を加えた要素で語られる。
リスクマネジメントでは、リスクアセスメント(リスク分析・リスク評価)で情報資産・脅威・脆弱性を洗い出し、リスク対応として回避・低減(最適化)・移転・保有(受容)のいずれかを選ぶ。対策は技術的セキュリティ・物理的セキュリティ・人的組織的セキュリティに分けて考え、組織全体では情報セキュリティポリシーを定めISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)として運用する。
脅威の代表がマルウェア(不正プログラムの総称)である。ウイルスは自己伝染機能・潜伏機能・発病機能をもち、ワームは単独で自己増殖する。ボットは攻撃者の指令で動き踏み台にされ、キーロガーは入力を盗み、バックドアは侵入用の裏口を作る。ランサムウェアはデータを暗号化して身代金を要求するマルウェアで、病院が標的となり電子カルテが長期間停止した事例が国内外で報告されている。対策の基本はワクチンソフトとウイルス定義ファイルの更新、セキュリティパッチの適用、そしてバックアップである。バックアップは「コピーを3つ、2種類の媒体で、1つはオフサイト(ネットワークから切り離した場所)に」という3-2-1ルールが広く知られ、オフラインの世代を残すことがランサムウェア対策として重要とされる。
攻撃手法としては、特定組織を狙い業務を装ったメールなどで侵入する標的型攻撃、金融機関などをかたる偽サイトへ誘導して情報を盗むフィッシング、大量の通信でサービスを妨害するDoS攻撃・DDoS攻撃(多数の踏み台から一斉に行う)、人の心理の隙を突くソーシャルエンジニアリング、パスワードクラック、セキュリティホールを突く不正アクセスなどがある。
| 脅威 | 概要 | 基本的な対策 |
|---|---|---|
| ランサムウェア | データを暗号化し身代金を要求 | オフラインを含むバックアップ(3-2-1)、パッチ適用 |
| 標的型攻撃 | 特定組織を狙い業務を装うメール等で侵入 | 不審メールの教育、ワクチンソフト、多層防御 |
| フィッシング | 偽サイトへ誘導しID・パスワード等を詐取 | URL確認の教育、ワンタイムパスワード等の認証強化 |
| DoS/DDoS攻撃 | 大量通信でサービスを妨害 | ファイアウォール等でのフィルタリング、負荷分散 |
| ソーシャルエンジニアリング | 人の心理の隙を突き情報を詐取 | 利用規程の整備と利用者教育 |
- 機密性・完全性・可用性
- 情報セキュリティの3要素。許可された者だけがアクセスできること、情報が改ざんされず正確であること、必要なときに利用できることを指し、CIAと総称される。
- リスク対応
- リスクアセスメントの結果に基づき、リスクの回避・低減(最適化)・移転・保有(受容)から対応を選ぶこと。保険による移転や対策強化による低減などがある。
- ランサムウェア
- 感染した端末やサーバのデータを暗号化し、復号と引き換えに身代金を要求するマルウェア。医療機関が被害を受け診療停止に至った事例があり、オフラインのバックアップ確保が重要とされる。
- 標的型攻撃
- 不特定多数ではなく特定の組織を狙い、業務連絡を装ったメールの添付ファイルなどでマルウェアに感染させて侵入する攻撃。
- DDoS攻撃
- 多数の踏み台(ボットに感染した機器など)から一斉に大量の通信を送り付け、サーバやネットワークを過負荷にしてサービスを妨害する攻撃。
- ソーシャルエンジニアリング
- 技術ではなく人の心理や行動の隙を突いてパスワードなどの情報を盗む手口。なりすましの電話や肩越しの盗み見などが典型。
例題 電子カルテのデータが暗号化され身代金を要求された。損なわれた要素は?
必要なときに利用できない状態なので、まず可用性が損なわれている(内容が書き換えられれば完全性も損なわれる)。
例題 リスクに保険をかけるのはリスク対応のどれ?
損失負担を第三者に移すので「リスクの移転」に当たる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第6章 情報セキュリティ(GIO 6.1)
暗号技術と電子署名・PKI
暗号は機密性を、ハッシュと電子署名は完全性・真正性・否認防止を支える。共通鍵と公開鍵の違い、鍵の使い分け、PKIとTLSの仕組みを整理する。
暗号化技術は、平文を暗号化アルゴリズムと鍵(キー)で暗号文に変換し、盗聴されても内容を読めなくする技術である。復号には対応する鍵が必要になる。共通鍵暗号方式は暗号化と復号に同じ鍵を使う方式で、処理が高速な一方、通信相手ごとに鍵を安全に渡す必要がある(鍵配送問題)。n人が相互に通信するにはn(n-1)/2個の鍵が必要になる。代表的なアルゴリズムはDES・3DES・AESである。
公開鍵暗号方式は、対になる公開鍵と秘密鍵(私有鍵)を使う方式で、代表がRSAである。機密性の確保が目的の場合、送信者は「受信者の公開鍵」で暗号化し、受信者だけが持つ「受信者の秘密鍵」で復号する。公開鍵は公開してよいので鍵配送問題が解決するが、処理は共通鍵暗号より遅い。そこで実際の通信では、データ本体は高速な共通鍵暗号で暗号化し、その共通鍵の受け渡しにだけ公開鍵暗号を使うハイブリッド方式が用いられる。WebのHTTPSを支えるSSL/TLSがその代表である。
ハッシュ関数は、任意の長さのデータから固定長のメッセージダイジェスト(ハッシュ値)を作る一方向性の関数で、元のデータに戻すことは実質的にできず、同じハッシュ値を持つ別データを作ることも困難である。MD5やSHA-1などが知られる。送受信でハッシュ値を比べれば改ざんを検出できる。
デジタル署名(電子署名)は、文書のハッシュ値を「送信者の秘密鍵」で処理して署名を作り、受信者が「送信者の公開鍵」で検証する仕組みである。署名が検証できれば、文書が改ざんされていないこと(完全性)と、秘密鍵を持つ本人が作成したこと(真正性・否認防止)が確認できる。暗号化とは鍵の使う向きが逆になる点に注意する。電子署名法により一定の電子署名は手書き署名や押印と同等に扱われ、作成時刻の証明にはタイムスタンプを併用する。
公開鍵が本当に本人のものかを保証する仕組みが公開鍵基盤(PKI)である。認証局(CA)が本人確認のうえ公開鍵証明書を発行し、証明書の信頼の連鎖(認証パス)はルート証明書にさかのぼって検証される。政府認証基盤(GPKI)のほか、保健医療福祉分野には医師などの国家資格を確認できるHPKI(保健医療福祉分野の公開鍵基盤)がある。WebサーバにはSSLサーバ用証明書が使われる。
| 項目 | 共通鍵暗号方式 | 公開鍵暗号方式 |
|---|---|---|
| 使う鍵 | 暗号化と復号に同じ鍵(秘密に共有) | 対になる公開鍵と秘密鍵 |
| 鍵の配送 | 相手に安全に渡す必要がある(鍵配送問題) | 公開鍵は公開してよく配送問題がない |
| 処理速度 | 高速 | 低速 |
| n人相互通信の鍵数 | n(n-1)/2個 | 鍵ペアn組(2n個) |
| 代表アルゴリズム | AES、DES、3DES | RSA |
| 主な用途 | データ本体の暗号化 | 共通鍵の受け渡し、デジタル署名 |
- 共通鍵暗号方式
- 暗号化と復号に同じ鍵を使う方式。高速だが、鍵を通信相手と安全に共有する鍵配送問題があり、n人の相互通信にはn(n-1)/2個の鍵が必要。代表はAES・DES・3DES。
- 公開鍵暗号方式
- 対になる公開鍵と秘密鍵を使う方式。機密性の確保では受信者の公開鍵で暗号化し受信者の秘密鍵で復号する。鍵配送問題を解決するが処理は遅い。代表はRSA。
- ハッシュ関数
- 任意長のデータから固定長のハッシュ値(メッセージダイジェスト)を生成する一方向性の関数。元データへの復元は実質不可能で、改ざん検出に用いる。MD5、SHA-1など。
- デジタル署名
- 文書のハッシュ値を送信者の秘密鍵で処理して作る署名。送信者の公開鍵で検証でき、改ざんの検出と作成者の確認(否認防止)ができる。機密性は保証しない。
- 認証局(CA)
- 公開鍵基盤(PKI)で、申請者の本人確認を行い公開鍵証明書を発行・失効管理する機関。証明書の信頼はルート証明書までの認証パスで検証される。
- HPKI
- 保健医療福祉分野の公開鍵基盤。医師・薬剤師などの国家資格や管理者資格を電子証明書で証明でき、電子処方箋の署名などに用いられる。
- SSL/TLS
- Web通信などを保護するセキュアプロトコル。サーバ証明書で通信相手を確認し、公開鍵暗号で共通鍵を共有して以後の通信を共通鍵暗号で保護する。HTTPSで利用される。
例題 AさんがBさんにだけ読める文書を公開鍵暗号で送るとき使う鍵は?
Bさん(受信者)の公開鍵で暗号化する。復号できるのはBさんの秘密鍵を持つBさんだけ。
例題 デジタル署名の検証に使う鍵は?
送信者の公開鍵。署名の作成は送信者の秘密鍵で行うため、向きが暗号化と逆になる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第6章 情報セキュリティ(GIO 6.2 暗号化技術・完全性・真正性・PKI)
認証・アクセス制御・ネットワークセキュリティ
利用者が本人であることの確認(認証)、権限の管理(アクセス制御)、境界と通信路の防御(ファイアウォール・IDS/IPS・VPN)までを一続きで理解する。
ユーザ認証の基本はユーザIDとパスワードによるパスワード認証だが、盗聴や漏えいに弱い。ワンタイムパスワード認証は一度しか使えないパスワードを用い、チャレンジ/レスポンス認証はサーバから送られたチャレンジ(乱数)にパスワードを組み合わせた応答を返すことで、パスワードそのものを送らずに認証し、盗聴された値の再利用を防ぐ。ほかにICカード認証、ネットワーク認証方式のケルベロス認証、指紋・静脈・虹彩など身体的特徴を使う生体認証がある。生体認証は忘失や紛失の心配がない一方、本人を誤って拒否したり他人を誤って受け入れたりする誤りが避けられない。
認証の要素は、知識(パスワード)・所持(ICカード等)・生体(指紋等)に大別され、異なる要素を2つ以上組み合わせる認証を多要素認証と呼ぶ。同じ要素の二重化(パスワード2つ)は多要素にならない。また、1回の認証で連携する複数のシステムを利用できる仕組みがシングルサインオン(SSO)で、利便性が高まる一方、認証情報が破られたときの影響範囲は広がるため認証基盤の保護が重要になる。
アクセス制御では、ユーザ登録・権限付与のルールを定め、職務上必要な範囲に限ってアクセス権を与える(最小権限)。誰がいつ何にアクセスしたかは監査ログ(アクセスログ)として記録し、不正の抑止と事後の追跡に使う。
ネットワークの境界防御の中心がファイアウォールで、あらかじめ定めたルールに基づき通過するパケットをフィルタリングする。外部に公開するWebサーバやメールサーバは、内部ネットワークと分離した緩衝地帯であるDMZに置く。侵入検知システム(IDS)は不正な通信を検知して管理者に通知し、侵入防止システム(IPS)は検知に加えて通信の遮断まで自動で行う。リモートアクセスの認証にはRADIUSサーバなどの認証サーバが使われる。
拠点間や外出先からの通信路の保護にはVPNを使う。インターネットなどの公衆網上に暗号化と認証によって仮想的な専用線を作る技術で、IPsec-VPNやSSL-VPNがある。無線LANではWPA2などの暗号化規格やIEEE802.1Xによる認証を用いる。エンドポイント(端末・サーバ)側では、ワクチンソフトとウイルス定義ファイルの更新に加え、OSやアプリケーションのセキュリティホールを修正するセキュリティパッチを速やかに適用する運用が基本となる。
| 技術 | 役割 |
|---|---|
| ファイアウォール | ルールに基づき通過するパケットをフィルタリングし境界を防御 |
| DMZ | 外部公開サーバを置く緩衝地帯。内部ネットワークと分離 |
| IDS(侵入検知システム) | 不正な通信・侵入の兆候を検知して通知 |
| IPS(侵入防止システム) | 検知に加えて通信の遮断など防御まで自動実行 |
| VPN | 公衆網上に暗号化で仮想的な専用線を構築し通信路を保護 |
| RADIUSサーバ | リモートアクセスなどの認証を一元的に行う認証サーバ |
- 多要素認証
- 知識(パスワード)・所持(ICカード)・生体(指紋など)のうち異なる要素を2つ以上組み合わせて行う認証。1つの要素が破られても不正ログインを防ぎやすい。
- 生体認証
- 指紋・静脈・虹彩・顔など身体的特徴で本人確認する認証。忘失・紛失の心配がないが、本人拒否や他人受入の誤りをゼロにはできない。
- シングルサインオン
- 1回の認証で連携する複数のシステムやサービスを利用できる仕組み。利便性が高い一方、認証基盤が破られたときの影響が大きく、その保護が重要。
- DMZ
- ファイアウォールで外部・内部の両ネットワークから分離した緩衝地帯。Webサーバなど外部公開サーバを置き、侵入されても内部に直接届かないようにする。
- IDS/IPS
- ネットワークやホストへの不正侵入を検知するのがIDS、検知に加えて通信遮断などの防御まで自動で行うのがIPS。ファイアウォールを補完する。
- VPN
- 公衆網上に暗号化と認証で仮想的な専用線を構築する技術。IPsec-VPNやSSL-VPNがあり、拠点間接続やリモートアクセスの通信路を保護する。
- セキュリティパッチ
- ソフトウェアのセキュリティホール(脆弱性)を修正するための更新プログラム。攻撃はパッチ未適用の脆弱性を突くことが多く、速やかな適用が基本対策となる。
例題 ICカードとパスワードの併用は多要素認証か?
所持と知識という異なる要素の組み合わせなので多要素認証に当たる。
例題 外部公開のWebサーバはどこに置く?
内部ネットワークではなく、ファイアウォールで分離されたDMZに置く。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第6章 情報セキュリティ(GIO 6.2)・第8章 GIO 8.2(アクセス管理・認証手法)
システム開発と新技術
システム開発のプロセスモデル
情報システムには要求分析から廃棄までのライフサイクルがある。ウォータフォール・プロトタイピング・アジャイルという代表的な開発モデルの特徴と使いどころを整理する。
情報システムのライフサイクルは、要求分析(要件定義)→外部設計→内部設計→プログラム設計→プログラミング→テスト→運用・保守→廃棄という流れで捉えられる。要求分析では利用者のニーズを整理して要件定義書にまとめ、外部設計では画面・帳票など利用者から見える部分を、内部設計ではシステム内部の処理方式やデータ構造を設計する。分析・設計にはデータフロー図(DFD)やER図などが用いられる。
ウォータフォールモデルは、これらの工程を上流から下流へ滝のように順に進め、原則として前の工程に戻らないことを前提とする開発モデルである。各工程の成果物(仕様書・設計書)を確定させてから次に進むため、進捗管理がしやすく大規模開発に向く。一方、テスト段階など後工程で要件の誤りが見つかると、手戻りのコストが非常に大きいという欠点がある。
プロトタイピングモデルは、開発の早い段階で試作品(プロトタイプ)を作って利用者に確認してもらい、要求のあいまいさや認識のずれを早期に解消する開発モデルである。利用者が要件を具体的にイメージしやすくなる。インクリメンタルモデルや反復型開発モデルは、システムを機能単位に分割し、段階的に開発・リリースを繰り返す方法である。
アジャイル開発は、短い期間の反復で動くソフトウェアを少しずつ作り上げ、仕様変更に柔軟に対応することを重視する開発の考え方である。代表的な手法にスクラムとXP(eXtreme Programming)がある。スクラムでは、スプリントと呼ばれる短い固定期間(一般に1〜4週間程度)を単位に計画・開発・振り返りを繰り返す。既存のサービスや部品を組み合わせて新しいサービスを作るマッシュアップという手法もある。
| 項目 | ウォータフォール | プロトタイピング | アジャイル(スクラム等) |
|---|---|---|---|
| 進め方 | 工程を上流から順に進め後戻りしない前提 | 早期に試作品を作り利用者の確認を得て進める | 短い反復(スプリント)で動くソフトを積み上げる |
| 仕様変更への対応 | 後工程での変更はコスト大 | 要求のあいまいさを早期に解消 | 変更を前提とし柔軟に対応 |
| 利用者の関与 | 主に上流工程と受入時 | 試作品の評価で早期から関与 | 反復のたびに継続的に関与 |
| 向く開発 | 要件が明確な大規模開発 | 要件が固まりにくいシステム | 要件の変化が速い開発 |
| 関連キーワード | 仕様書、工程管理 | 試作品(プロトタイプ) | スクラム、スプリント、XP |
- ウォータフォールモデル
- 要求分析から運用・保守までの工程を上流から順に進め、原則後戻りしない前提の開発モデル。進捗管理がしやすく大規模開発に向くが、後工程での仕様変更のコストが大きい。
- プロトタイピングモデル
- 開発の早期に試作品を作って利用者に確認してもらい、要求のあいまいさや認識のずれを解消してから開発を進めるモデル。要件が固まりにくいシステムに有効。
- アジャイル開発
- 短い反復で動くソフトウェアを少しずつ作り、仕様変更に柔軟に対応することを重視する開発の考え方。スクラムやXP(eXtreme Programming)が代表的手法。
- スプリント
- スクラムにおける開発の単位となる短い固定期間。スプリントごとに計画を立てて開発し、動くソフトウェアを作って振り返りを行うサイクルを繰り返す。
- インクリメンタルモデル
- システムを機能単位に分割し、段階的に開発・リリースを重ねていく開発モデル。早い段階から一部の機能を利用でき、反復型開発モデルと並び段階的な進め方の代表。
- データフロー図(DFD)
- 業務やシステムにおけるデータの流れを、処理・データストア・外部実体などの記号で表す図。構造化分析の代表的な手法として要求分析や設計で使われる。
例題 要件がなかなか固まらない部門システムに向く開発モデルは?
試作品で認識合わせをするプロトタイピングモデルや、変更を前提とするアジャイル開発が向く。
例題 ウォータフォールの最大の弱点は?
後工程(テスト段階など)で要件の誤りが見つかると、上流に戻る手戻りコストが非常に大きいこと。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第7章 情報システムの開発(GIO 7.1 開発のプロセス)
要件定義・設計とテスト
開発の品質は、要求を正しく文書化し、設計と対応づけてテストで確かめることで確保される。工程ごとのドキュメントとテストの種類・技法を対応づけて覚える。
要求分析(要件定義)では、利用者・発注者の要求を整理し、システムが実現すべき機能や性能を要件定義書にまとめる。続く外部設計では画面仕様・帳票仕様・インターフェース仕様など利用者やほかのシステムから見える部分を、内部設計ではプログラムの構造・データベースのテーブル定義などシステム内部の実現方式を設計する。開発では要求仕様書・設計書(基本設計書・詳細設計書)・テスト仕様書/成績書・操作マニュアルなど多くのドキュメントが作成され、後の保守や監査の根拠となる。
テストは段階的に行う。単体テストはモジュール(プログラム部品)ごとに、詳細な設計どおり動くかを確認する。統合テスト(結合テスト)は複数のモジュールを組み合わせ、モジュール間のインターフェースを確認する。システムテストはシステム全体が要件を満たすかを確認する段階で、多数の同時利用を想定した負荷テストや応答時間などを確かめる性能テストも含まれる。受け入れテストは発注者・利用者側が、実際の業務で使えるかを確認して検収する最終段階のテストである。
テスト技法には、プログラムの内部構造を意識せず入力と出力の関係だけで確認するブラックボックステストと、内部のロジックや分岐の網羅を意識して確認するホワイトボックステストがあり、両者の中間的なグレーボックステストもある。プログラムを実行して確認する動的テストに対し、ソースコードや設計書をレビューなどで確認する方法は静的テストと呼ばれる。
| テスト | 確認する内容 | 主な対応工程 |
|---|---|---|
| 単体テスト | モジュール単位で詳細設計どおり動くか | プログラム設計・内部設計 |
| 統合テスト(結合テスト) | モジュール間のインターフェースが正しいか | 内部設計・外部設計 |
| システムテスト | システム全体が要件を満たすか(性能・負荷を含む) | 要件定義・外部設計 |
| 受け入れテスト | 発注者・利用者が業務で使えるか(検収) | 要求分析(要件定義) |
- 要件定義書
- 要求分析の成果として、システムが実現すべき機能・性能・制約を発注者と開発者が合意した形でまとめた文書。以後の設計・テスト・検収の基準となる。
- 外部設計と内部設計
- 外部設計は画面・帳票・インターフェースなど利用者から見える部分の設計、内部設計はプログラム構造やデータ構造などシステム内部の実現方式の設計を指す。
- 単体テスト
- モジュール(プログラム部品)単位で、詳細設計どおりに動作するかを確認するテスト。テスト工程の最初の段階で、主に開発者が実施する。
- 受け入れテスト
- 発注者・利用者側が、納品されたシステムを実際の業務の観点で確認し、検収の可否を判断するテスト。テスト工程の最終段階に位置づけられる。
- ブラックボックステスト
- プログラムの内部構造を考慮せず、入力に対する出力が仕様どおりかだけで確認するテスト技法。内部の分岐網羅を意識するホワイトボックステストと対になる。
- 負荷テスト
- 多数の同時アクセスや大量データなど高い負荷をかけ、システムが耐えられるか、性能が保たれるかを確認するテスト。システムテストの段階で行われることが多い。
例題 モジュールを組み合わせたときの不具合を見つけるテストは?
統合テスト(結合テスト)。モジュール間のインターフェースの誤りを確認する。
例題 入力と出力の関係だけで仕様どおりかを確認する技法は?
ブラックボックステスト。内部のロジックは考慮しない。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第7章 情報システムの開発(SBO 7.1.3 テストの種類と手法・SBO 7.3.4 開発関連ドキュメント)
プロジェクト管理
開発を納期・コスト・品質の面から成功させるのがプロジェクト管理である。WBS・ガントチャート・クリティカルパスなどの手法と、リスク管理・変更管理の枠組みを学ぶ。
プロジェクト管理は、期限と目的をもつ一回限りの活動(プロジェクト)を、スコープ・タイム・コスト・品質・リスク・調達・コミュニケーションなどの観点から計画・実行・監視する活動である。知識体系としてPMBOKが広く使われ、国際規格としてISO21500「プロジェクト管理に関するガイダンス」がある。プロジェクトの目的や体制はプロジェクト憲章で定め、プロジェクトに利害関係をもつ人・組織をステークホルダと呼ぶ。
計画では、まずWBS(Work Breakdown Structure)で成果物と作業を階層的に分解し、作業の抜け漏れを防ぐ。スケジュールは、作業ごとの開始・終了を横棒で表すガントチャートで見える化する。作業の依存関係をネットワーク図で表したとき、開始から完了までの経路のうち所要日数が最長の経路をクリティカルパスと呼ぶ。クリティカルパス上の作業には余裕(フロート)がなく、その遅れがそのままプロジェクト全体の遅れになるため、重点的に管理する。
見積もりには、過去の類似プロジェクトから見積もる類推見積もり(概算法)、作業を積み上げる積算法、プログラム行数によるLOC、システムの機能量から規模を見積もるファンクションポイント法、係数モデルのCOCOMOIIなどがある。進捗とコストを出来高で統合的に管理する手法がEVM(Earned Value Management)である。
リスクマネジメントは、リスク識別→リスク分析(定性的・定量的)→リスク対応計画→リスクの監視・コントロールという流れで行う。要件や仕様の変更は変更管理の手続きに載せ、影響を評価したうえで変更管理委員会(CCB:Change Control Board)が承認の可否を判断する。無秩序な変更の受け入れは、納期遅延や品質低下を招く。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| WBS | 成果物・作業を階層的に分解し、作業の抜け漏れを防ぐ |
| ガントチャート | 作業ごとの日程を横棒で表しスケジュールを見える化する |
| クリティカルパス | 依存関係の中で最長の経路。遅延が全体の遅延に直結する |
| ファンクションポイント法 | 機能の数と複雑さからソフトウェア規模を見積もる |
| EVM | 出来高を基準に進捗とコストを統合的に管理する |
| リスクマネジメント | リスクの識別→分析→対応計画→監視・コントロール |
- WBS
- プロジェクトの成果物と作業を階層的に分解して構造化する手法(Work Breakdown Structure)。作業の抜け漏れを防ぎ、見積もりや担当割当ての単位を明確にする。
- ガントチャート
- 縦に作業項目、横に時間をとり、各作業の開始・終了予定を横棒で表すスケジュール管理図。進捗の見える化に適するが、作業間の依存関係の表現は苦手。
- クリティカルパス
- 作業の依存関係のネットワークで、開始から完了までの所要日数が最長となる経路。この経路上の作業に余裕はなく、遅れは直ちにプロジェクト全体の遅れとなる。
- ファンクションポイント法
- 入出力や内部ファイルなどシステムの機能の数と複雑さからソフトウェアの規模を見積もる手法。プログラム行数(LOC)によらず早い段階で見積もれる。
- EVM
- 出来高(アーンドバリュー)を基準に、進捗とコストを統合して定量的に管理する手法(Earned Value Management)。計画値・出来高・実コストを比較して差異を把握する。
- 変更管理委員会(CCB)
- 要件や仕様の変更要求について、影響を評価し承認・却下を判断する組織(Change Control Board)。無秩序な変更によるスケジュール・品質への悪影響を防ぐ。
例題 クリティカルパス上の作業が1日遅れたら?
経路に余裕(フロート)がないため、プロジェクト全体の完了も1日遅れる。
例題 仕様変更の要望はどう扱う?
変更管理の手続きに載せ、影響を評価したうえで変更管理委員会(CCB)が承認可否を判断する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第7章 情報システムの開発(GIO 7.2 プロジェクト管理)
運用管理と仮想化・最近の情報技術
稼働後のシステムはITILなどの枠組みでサービスとして管理する。SLA・稼働率などの指標に加え、仮想化・クラウド、Society5.0・IoT・AIといった新しい技術の概念を押さえる。
稼働後の情報システムは、サービスマネジメントの考え方で運用管理する。ITシステム運用のベストプラクティス集がITIL(Information Technology Infrastructure Library)であり、障害管理・性能管理・資源管理・セキュリティ管理などの管理活動や、利用者窓口となるサービスデスクの運営が整理されている。提供者と利用者の間では、サービスの品質水準(稼働率や復旧時間など)をSLA(Service Level Agreement)として合意する。障害の発生時は、障害の種類の切り分けと障害回復手順に従った復旧、障害報告書による記録・再発防止を行い、要件や構成の変更は変更管理の手続きで統制する。
性能管理・信頼性の指標として、MTBF(平均故障間隔:故障から次の故障までの平均稼働時間)、MTTR(平均修理時間)、稼働率=MTBF÷(MTBF+MTTR)がある。将来の利用量増加を見込んでサーバやネットワークの容量を計画的に確保する活動がキャパシティ管理である。事業継続の観点では、バックアップ計画・復旧計画を含むBCP(事業継続計画)を整備する。
仮想化技術は、1台の物理サーバ上で複数の仮想サーバ(仮想マシン)を動かすなど、ハードウェアを論理的に分割・統合する技術である。サーバの集約により資源の利用効率が上がり、構成変更や復旧も柔軟になる。クラウドサービスは、ネットワーク経由で計算資源やソフトウェアを利用する形態で、提供範囲により、サーバ・ストレージなどの基盤を提供するIaaS、アプリケーションの実行環境まで提供するPaaS、アプリケーションそのものを提供するSaaSに大別される。アプリケーションを軽量な実行環境ごとまとめて動かすコンテナ技術も仮想化の一種として使われる。
最近の情報技術として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会を目指す構想がSociety5.0である。IoT(Internet of Things)は、センサーなどを備えた多様なモノがネットワークにつながり、データを収集・活用する仕組みで、機器同士が直接通信するM2Mとともに医療機器やバイタル計測にも応用が広がる。VR(仮想現実)は仮想空間への没入体験を、AR(拡張現実)は現実の風景に情報を重ねる表現を提供する。AI(人工知能)の中核技術である機械学習には、正解ラベル付きデータから学ぶ教師あり学習と、正解を与えずデータの構造を見いだす教師なし学習があり、医療分野でも画像診断支援などへの応用が進んでいる。
| 形態 | 提供される範囲 | 利用者が用意・管理するもの |
|---|---|---|
| IaaS | サーバ・ストレージ・ネットワークなどの基盤 | OS・ミドルウェア・アプリケーション |
| PaaS | 基盤に加えてアプリケーションの実行環境 | アプリケーションとデータ |
| SaaS | アプリケーション(ソフトウェア)そのもの | 利用するデータと設定 |
- SLA
- サービス提供者と利用者が、稼働率・障害復旧時間などサービス品質の水準を合意した契約・文書(Service Level Agreement)。運用管理の評価基準となる。
- ITIL
- ITサービスの運用管理のベストプラクティスを体系化した文書群。障害管理・変更管理・サービスデスクなど、サービスマネジメントの枠組みとして広く参照される。
- 稼働率
- システムが正常に使えた時間の割合。MTBF(平均故障間隔)とMTTR(平均修理時間)から、稼働率=MTBF÷(MTBF+MTTR)で求められる信頼性の指標。
- キャパシティ管理
- 将来の利用量・データ量の増加を予測し、サーバやネットワークなどの資源の容量を計画的に確保・増強していく管理活動。性能低下や容量不足を未然に防ぐ。
- IaaS/PaaS/SaaS
- クラウドサービスの提供形態の分類。IaaSはサーバなどの基盤、PaaSはアプリケーションの実行環境、SaaSはアプリケーションそのものをネットワーク経由で提供する。
- Society5.0
- サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指す、日本が提唱する構想。
- IoT
- センサーなどを備えた多様なモノがインターネットにつながり、データを収集・活用する仕組み(Internet of Things)。機器同士が直接通信するM2Mと併せて語られる。
- 機械学習
- データからルールやパターンをコンピュータ自身に学習させるAIの中核技術。正解付きデータで学ぶ教師あり学習と、正解を与えない教師なし学習に大別される。
例題 MTBF=570時間、MTTR=30時間のシステムの稼働率は?
570÷(570+30)=0.95。稼働率はMTBF÷(MTBF+MTTR)で求める。
例題 電子メールサービスをそのままネット経由で使う形態は?
アプリケーションそのものの提供なのでSaaSに当たる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(情報処理技術系)v7(2025年7月26日更新)第8章 情報システムの運用と管理(GIO 8.1)・第9章 最近の情報技術と情報サービス
医療情報の特性と情報化
医療分野の情報化と行政の施策
医療の情報化の意義・目的・変遷・課題と、データヘルス改革や医療DXなど行政の施策を学ぶ。
医療分野の情報化は、医療安全の向上、医療の質の向上、患者サービスの向上、日常業務の効果・効率の向上、医療機関における収益の向上や業務の継続を目的として進められてきた。さらに、医療・福祉・健康・介護等の機関の連携、個人の健康管理、全国規模の医療データベースの構築とその利活用へと目的が広がっている。
わが国では1970年代に診療報酬請求を担う医事会計システムが導入され、1980年代に医師の指示を各部門に伝達するオーダエントリシステムが普及し始めた。1999年に旧厚生省の通知「診療録等の電子媒体による保存について」により、真正性・見読性・保存性の3条件(電子保存の三原則)を満たせば診療録の電子保存が認められ、電子カルテシステムが普及していった。
情報化の課題には、システム間の相互運用性や標準化の不足といった技術的課題、システム障害時の代替運用や入力負担などの運用の課題、医療情報に詳しい人材の不足・育成といった人的課題がある。
行政の施策として、厚生労働省はデータヘルス改革を進め、健康・医療・介護のデータ利活用基盤の整備やPHRの推進を図ってきた。政府は医療DX推進本部を設け、「医療DX令和ビジョン2030」では全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DXが3本柱とされた。マイナンバーカードによるオンライン資格確認は2023年4月から保険医療機関・薬局に原則義務化され、電子処方箋の運用も2023年に始まった。レセプト情報等を集めたNDBのような全国規模のデータベースも医療政策の立案・検証に利活用されている。
| 年代 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1970年代 | 医事会計システムの導入が始まる |
| 1980年代 | オーダエントリシステムの普及が始まる |
| 1999年 | 通知により診療録等の電子保存が認められる(真正性・見読性・保存性) |
| 2000年代以降 | 電子カルテの普及、地域医療連携、データヘルス改革 |
| 2020年代 | オンライン資格確認の原則義務化(2023年4月)、電子処方箋、医療DXの推進 |
- 医事会計システム
- 診療報酬の計算や請求書・レセプトの作成を担うシステム。わが国の病院情報システムの中で最も早く、1970年代から導入が進んだ。
- 電子保存の三原則
- 診療録等を電子的に保存する際に求められる真正性・見読性・保存性の3条件。1999年の通知で、この条件を満たせば診療録の電子保存が認められた。
- データヘルス改革
- 厚生労働省が推進する、健康・医療・介護分野のデータ利活用に関する改革。データ利活用基盤の整備、PHRの推進、医療情報の標準化などに取り組む。
- 医療DX
- 医療分野のデジタルトランスフォーメーション。「医療DX令和ビジョン2030」では全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DXが3本柱とされている。
- オンライン資格確認
- マイナンバーカード等を用いて、患者の医療保険の資格情報をオンラインで確認する仕組み。2023年4月から保険医療機関・薬局に導入が原則義務化された。
- 電子処方箋
- 処方箋を電子的に発行・運用する仕組み。複数の医療機関・薬局の処方・調剤情報をふまえた重複投薬や併用禁忌のチェックに活用できる。2023年1月に運用が開始された。
- NDB
- レセプト情報・特定健診等情報データベース。全国のレセプト情報や特定健診等の情報を国が収集したもので、医療政策の立案・検証や研究に利活用される。
例題 わが国の病院情報システムはどのような順で発展してきたか。
医事会計システム(1970年代)→オーダエントリシステム(1980年代)→電子カルテシステム(1999年の電子保存容認以降)の順に発展した。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 1.1.1〜1.1.5(医療分野の情報化の意義・目的・変遷・課題・行政の施策)
医療情報の種類と特性・利用
医療情報の種類、診療情報の特徴(多層性・連続性・機微性・保存の法的条件)、一次利用と二次利用、EHRとPHRを学ぶ。
医療情報には、機能的情報・形態的情報・病因的情報・症候的情報などの生体情報、患者の訴えなどの主観的情報と検査値などの客観的情報、診断・治療・予後の判断のための情報がある。また、医療施設に関する情報、地域レベル・国レベルの情報、体系化された知識まで多様なレベルの情報が含まれる。
診療情報は、コード情報・数値情報・音情報・テキスト情報・概念情報・図形情報・波形情報・画像情報など多様な形態をとる。その特徴として、事実の記録に所見や診断などの解釈が積み重なる内容の多層性、時間を追って蓄積される内容の連続性、他人に知られたくない度合いが高い高い機微性がある。また保存には法的条件があり、診療録は医師法により5年間、診療に関する諸記録は医療法(施行規則)により2年間の保存が求められる。
医療情報の利用は、診療目的の利用や診断書など医療行為の公的書類作成のための利用である一次利用と、病院経営管理のための利用、医療政策の立案・検証、医学研究、医学教育などへの社会的利用である二次利用に分けられる。
電子的な健康記録として、医療機関等の枠を越えて個人の診療・健康情報を共有・活用するEHR(電子健康記録)と、個人が自らの健康・医療情報を管理・活用するPHR(個人健康記録)がある。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 一次利用 | 診療目的の利用 | 診察時の検査結果参照、処方監査のための薬歴参照 |
| 一次利用 | 医療行為の公的書類作成 | 診断書・処方箋などの作成 |
| 二次利用 | 病院経営管理のための利用 | 経営分析、業務分析 |
| 二次利用 | 社会的利用 | 医療政策の立案・検証、医学研究、医学教育 |
- 主観的情報
- 痛みや倦怠感の訴えなど、患者本人の感じ方に基づく情報。検査値や画像など測定により得られる客観的情報と対比される。
- 内容の多層性
- 診療情報が、検査値などの事実の記録の上に、所見・診断などの解釈が層をなして構成されるという特徴。
- 内容の連続性
- 診療情報が一時点で完結せず、経過とともに時間を追って継続的に記録・蓄積されるという特徴。
- 高い機微性
- 診療情報は病歴など他人に知られたくない度合いが高く、漏えいした場合に本人が受ける不利益が大きいという特徴。取り扱いには特に慎重さが求められる。
- 一次利用
- 医療情報を本来の目的である診療のために利用すること。診療のための参照のほか、診断書など医療行為の公的書類作成のための利用も含まれる。
- 二次利用
- 医療情報を診療以外の目的に利用すること。病院経営管理、医療政策の立案・検証、医学研究、医学教育などへの利用が該当する。
- EHR
- Electronic Health Record(電子健康記録)。医療機関等の枠を越えて、個人の診療情報・健康情報を共有・活用する仕組みや記録を指す。
- PHR
- Personal Health Record(個人健康記録)。個人が自らの健康・医療情報を収集・管理し、健康管理などに活用する仕組みや記録を指す。
例題 診療録の保存期間は法律で何年と定められているか。
医師法により5年間の保存が義務づけられている。なお診療に関する諸記録は医療法(施行規則)により2年間とされる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 1.2.1〜1.2.3(医療情報の種類・診療情報の特徴・一次利用と二次利用), SBO 1.3.1〜1.3.2(EHR・PHR)
医療情報の倫理と診療記録の電子化
個人情報とプライバシー、医療情報を扱う者の倫理と責務、診療記録を電子化する意義と課題を学ぶ。
個人情報は、氏名や生年月日など特定の個人を識別できる情報を指す。プライバシーは、私生活をみだりに公開されない権利であり、今日では自己の情報の流れを自らコントロールする権利(自己情報コントロール権)としても捉えられる。両者は重なるが同じ概念ではない。
医療情報倫理の基礎には、自律尊重・善行・無危害・正義という倫理の基本原則がある。医療情報の利用者には、業務上必要な範囲に限って患者情報にアクセスし、知り得た情報を漏らさない守秘義務がある。診療で得た情報を研究などに二次利用する際は、原則として本人の同意を得るか、匿名化などの適切な措置を講じる必要がある。
医療情報担当者(システムの運用・管理にあたる者)は、管理者権限により多くの情報に触れうる立場にあるため、特に高い倫理が求められる。権限を業務目的以外に使わないこと、知り得た情報の守秘義務を退職後も含めて守ることなどが責務とされ、倫理綱領も定められている。
診療記録の電子化には、検索・集計が容易になる、複数の部署から同時に参照できる、保管スペースを削減できる、診療支援やデータの利活用につながるといった意義がある。一方で、導入・更新の費用負担、なりすましや改ざんへの対策、システム障害時の診療継続手順の整備、記載のコピー&ペーストによる記録の質の低下といった課題もある。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 意義 | 記録の検索・集計が容易になる |
| 意義 | 複数の部署・職種から同時に参照できる |
| 意義 | 保管スペースの削減、診療支援・データ利活用につながる |
| 課題 | 導入・更新の費用負担が大きい |
| 課題 | なりすまし・改ざんへの対策、障害時の診療継続手順が必要 |
| 課題 | コピー&ペーストなどによる記録の質の低下が起こりうる |
- 個人情報
- 生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別できるもの。医療分野では診療情報の多くが該当し、慎重な取り扱いが求められる。
- プライバシー
- 私生活をみだりに公開されない権利。今日では、自己に関する情報の流れを自らコントロールする権利(自己情報コントロール権)として捉える考え方が広まっている。
- 倫理の基本原則
- 自律尊重・善行・無危害・正義の4原則。医療倫理の基礎であり、医療情報の取り扱いにおいても患者の自己決定の尊重や不利益の防止などの指針となる。
- 守秘義務
- 業務上知り得た秘密を漏らしてはならない義務。医療情報を扱う者すべてに求められ、職を離れた後も継続する。
- 二次利用の同意
- 診療目的で得た医療情報を研究・教育などに利用する場合、原則として本人の同意を得るか、匿名化などの適切な措置を講じるという倫理的な取り扱いの原則。
- 医療情報担当者の倫理綱領
- 医療情報システムの運用・管理にあたる担当者に求められる倫理を示した綱領。権限の目的外利用の禁止や守秘義務など、担当者の責務を定めている。
例題 システム管理者が管理者権限で興味本位に知人の診療記録を閲覧することは許されるか。
許されない。権限は業務目的の範囲でのみ用い、業務上必要のない診療情報の閲覧は医療情報担当者の倫理・責務に反する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 1.4.1〜1.4.4(個人情報・プライバシー、医療情報倫理、利用者・担当者の倫理と責務), SBO 1.1.3・1.2.2(診療記録の電子化の変遷・特性)
病院情報システムの機能
病院情報システムの全体構成と基盤
基幹システムと部門システムからなる病院情報システムの全体像、蓄積されるデータの特徴、基盤機能と求められる要件を学ぶ。
病院情報システム(HIS)は医療情報システムの中核をなすもので、診療の指示を伝達するオーダエントリシステム、診療記録を扱う電子カルテシステム、診療報酬請求を担う医事会計システムの基幹システムと、検体検査・放射線・薬剤・輸血・給食・リハビリテーション・物流など各部門の業務を支える部門システムから構成される。
蓄積されるデータの持ち方には、データ本体を部門システム側に置き基幹システムからは参照リンクで表示するリンク参照型と、部門システムのデータを基幹システム側に取り込んで保持するデータ取り込み型がある。データの形式には、項目が定義された構造化データと、自由記載文などの非構造化データ、画像系のデータがある。
システム間の情報連携には、コミュニケーション、情報活用、コスト請求、モノを動かす、記録という目的がある。これらを支える基盤機能として、ユーザ情報管理・ユーザ認証・権限管理、いつ誰がどの情報にアクセスしたかを記録する監査証跡、システム間で記録時刻を揃える時刻同期、蓄積データを分析用に統合するデータウェアハウス(DWH)などがある。
病院情報システムには、確実な処理と安定性、電源やデータの冗長化、データの継続性・機密性、医療安全への寄与、操作性とレスポンスへの配慮といった要件が求められる。診療は24時間続くため、長時間の停止を前提とした運用は許されない。
| 区分 | システム・機能の例 |
|---|---|
| 基幹システム | オーダエントリシステム、電子カルテシステム、医事会計システム |
| 部門システム | 検体検査(LIS)、放射線(RIS・PACS)、薬剤、輸血、給食、リハビリ、看護支援、物流(SPD) |
| 基盤機能 | ユーザ認証・権限管理、監査証跡、時刻同期、DWH |
- 基幹システム
- 病院情報システムの中核となるシステム群。オーダエントリシステム・電子カルテシステム・医事会計システムを指し、部門システムと連携して診療業務全体を支える。
- 部門システム
- 検体検査・放射線・薬剤・輸血・給食・リハビリテーション・物流など、各部門固有の業務を支援するシステム。基幹システムとオーダや実施情報をやり取りする。
- リンク参照型
- データ本体は部門システム側に置いたまま、基幹システムからは参照用のリンクを通じて表示するデータの持ち方。データを基幹側に複製して保持するデータ取り込み型と対比される。
- 監査証跡
- 誰が・いつ・どの情報にアクセスし操作したかを記録したログ。不正アクセスの抑止や事後の検証を可能にする、病院情報システムの重要な基盤機能である。
- 時刻同期
- システム間で時計を揃えること。診療記録やログの時刻の信頼性を保つために不可欠で、記録の前後関係を正しく検証できるようにする。
- DWH
- Data Warehouse(データウェアハウス)。業務システムに蓄積されたデータを、分析や二次利用のために統合・再構成して蓄積するデータベース。経営分析や臨床研究などに活用される。
例題 病院情報システムの基幹システムとは何か。
オーダエントリシステム・電子カルテシステム・医事会計システムを指し、各部門システムと連携して診療業務全体を支える。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.1.1(医療情報システムの全体像), SBO 2.2.1・2.2.3〜2.2.5(病院情報システムの概要・データの特徴・情報連携・要件), SBO 2.3.1(病院情報システムの基盤)
オーダエントリシステム
医師の指示を各部門に伝えるオーダエントリシステムの仕組みと、オーダの流れ・実施入力・代行入力と承認を学ぶ。
オーダエントリシステムは、処方・注射・検体検査・生理検査・放射線検査・処置・手術・輸血・給食(食事)・リハビリテーション・予約など、医師の指示(オーダ)を関係部門に電子的に伝達するシステムである。指示を出す医師自身がその場で入力する発生源入力を原則とすることで、転記による誤りを減らし、指示の伝達を速く正確にする。
オーダは関係部門の部門システムに伝わり、業務が進む。例えば入院患者の処方オーダは薬剤部門に伝達され、薬剤師が処方監査・調剤・調剤監査を行って病棟に払い出す。検体検査オーダでは、オーダ情報に基づき採血管とラベルが準備され、検体は検体検査部門システム(LIS)で管理・分析されて結果が返され、医師は端末から結果照会できる。
指示された行為が実際に行われたことを記録するのが実施入力である。実施情報は診療の記録であると同時に医事会計システムへ連携され、診療報酬請求の基礎データとなる。注射の実施時には、患者・薬剤・実施者を照合する3点認証により誤投与を防ぐ運用が行われる。
医師事務作業補助者などによる代行入力では、入力された内容を医師本人が確認して承認(確定)する必要がある。研修医の記載に指導医が確認の署名をするカウンターサインも同様の考え方である。オーダ入力はマスターに登録された医薬品・検査項目等に基づいて行われるため、マスター管理が重要である。システム障害時は紙の伝票で運用し、復旧後に記録を遡及入力して診療記録と会計情報を補完する。
| オーダ | 主な連携先 | 業務の流れの例 |
|---|---|---|
| 処方オーダ | 薬剤部門 | 処方監査 → 調剤 → 調剤監査 → 払い出し |
| 注射オーダ | 薬剤部門・病棟 | 調剤(混注)→ 実施時に3点認証 → 実施入力 |
| 検体検査オーダ | 検体検査部門(LIS) | 採血管・ラベル準備 → 採血 → 分析 → 結果報告・結果照会 |
| 放射線検査オーダ | 放射線部門(RIS) | 予約・受付 → 撮影 → 実施入力 → 画像保存(PACS)・読影 |
| 給食(食事)オーダ | 栄養・給食部門 | 食種・食数管理 → 配膳、入退院・食止めとの連携 |
- 発生源入力
- 情報が発生したその場で、指示を出した医師など発生源となる本人が直接入力すること。転記や伝票の受け渡しによる誤りと遅れを減らすオーダエントリシステムの基本的な考え方。
- オーダ
- 処方・注射・検査・処置・給食など、医師が診療上の行為を関係部門に指示すること、またはその指示情報。オーダエントリシステムにより関係部門に電子的に伝達される。
- 実施入力
- オーダで指示された行為が実際に行われたことを記録する入力。診療記録となるとともに医事会計システムに連携され、診療報酬請求の基礎データとなる。
- 代行入力と承認
- 医師事務作業補助者などが医師に代わって記録やオーダを入力すること。代行入力された内容は、指示した医師本人が確認して承認(確定)しなければならない。
- 3点認証
- 注射などの実施時に、患者(リストバンド)・薬剤・実施者のバーコード等を照合して、患者・薬剤・実施者の組合せが正しいことを確認する仕組み。誤投与の防止に用いられる。
- カウンターサイン
- 研修医などが記載した記録やオーダに対し、指導医が内容を確認したうえで行う確認の署名(承認)。記録の質と責任の所在を担保する仕組み。
例題 入院患者の処方オーダはどのように薬剤部門に届き、処理されるか。
医師がオーダエントリシステムに入力した処方情報が薬剤部門システムに伝達され、薬剤師が処方監査・調剤・調剤監査を行って病棟に払い出す。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.4.2(オーダエントリシステム・オーダの種類・部門システムとの連携・実施入力・代行入力と承認)
電子カルテシステムと医事会計システム
電子カルテの記載・テンプレート・クリニカルパス・スキャン取込みと、受付から会計・レセプトまでの医事会計システムを学ぶ。
電子カルテシステムは、患者プロファイルや経過記録などの診療記録を電子的に作成・保存・参照するシステムである。電子化により、複数の職種・部署からの同時参照、検索・集計、診療支援が可能になる。記載にはSOAP形式などが用いられ、定型的な項目をあらかじめ用意したテンプレートを使うと、選択式で構造化された記録を効率よく作成でき、後の集計・分析にも役立つ。
クリニカルパスは、疾患や治療ごとに検査・処置・ケアなどの標準的な診療計画を時系列にまとめたもので、電子カルテ・オーダエントリシステムと連携して運用される。計画からの逸脱はバリアンスとして記録・分析し、パスの改善につなげる。紙の同意書や紹介状などはスキャンシステムで電子化して取り込む。読み取れる品質で遅滞なく取り込み、元の文書との同一性を確保することが求められる。診断書や診療情報提供書(紹介状)の作成は、患者基本情報や診療記録を引用できる医療文書作成支援システムが支援する。
医事会計システムは、患者登録・受付、会計、診療報酬請求(レセプト)を担う。初診時に患者基本情報を登録して患者IDを発行し、再来時は再来受付機などで受付する。会計では実施情報などの診療行為データを収集して診療報酬を計算し、自己負担額の請求書・領収書を発行する。自動精算機との連携も行われる。
診療報酬明細書(レセプト)は患者ごとに月単位で作成し、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)に請求する。審査で請求点数が減点されることを査定、不備などによりレセプトが医療機関に差し戻されることを返戻といい、システムはこれらの進捗管理や病名登録、点数改定への対応も支援する。急性期入院医療では、診断群分類に基づく1日当たり包括評価の支払い方式であるDPC/PDPSによる医事会計処理が行われる。
| 業務 | 主な機能 |
|---|---|
| 患者登録・受付 | 患者基本情報の登録と患者IDの発行、初診・再来受付、再来受付機との連携 |
| 会計 | 診療行為データの収集、診療報酬の計算、請求書・領収書の発行、自動精算機との連携 |
| 診療報酬請求 | レセプトの作成・電子請求、病名登録、査定・返戻の進捗管理、点数改定への対応 |
| DPC/PDPS | DPC登録、診断群分類に基づく包括評価の会計処理 |
- テンプレート
- 電子カルテで定型的な記載項目をあらかじめ用意しておき、選択・入力により構造化された記録を効率よく作成する機能。記録の標準化と後の集計・分析に役立つ。
- クリニカルパス
- 疾患や治療ごとに検査・処置・ケアなどの標準的な診療計画を時系列にまとめたもの。医療の標準化と質の向上を目的とし、計画からの逸脱はバリアンスとして管理する。
- バリアンス
- クリニカルパスで定めた標準的な診療計画からの逸脱。発生した理由を記録・分析することで、パスの改善や医療の質の向上につなげる。
- スキャンシステム
- 紙の同意書・紹介状などをスキャナで電子化して診療記録に取り込むシステム。読み取れる品質で遅滞なく取り込み、元の文書との同一性を確保する運用が求められる。
- レセプト
- 診療報酬明細書。保険診療の費用を請求するため患者ごとに月単位で作成し、審査支払機関(支払基金・国保連合会)に提出する。レセプト電算処理システムにより電子的に請求される。
- 査定・返戻
- 査定は審査支払機関の審査により請求点数が減点されること。返戻は記載不備などの理由でレセプトが医療機関に差し戻されること。医事会計システムはこれらの進捗管理を支援する。
- DPC/PDPS
- 診断群分類(DPC)に基づく1日当たり包括評価の入院医療費支払い方式(PDPS)。急性期入院医療に適用され、診断群分類の決定のためDPC登録の情報入力が行われる。
例題 レセプトはどの機関に、どの単位で請求するか。
患者ごとに月単位で作成し、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)に請求する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.4.1(電子カルテシステム), SBO 2.4.3〜2.4.4(医療文書作成支援・スキャンシステム), SBO 2.6.3(クリニカルパス), SBO 2.8.1〜2.8.4(医事会計システム・受付・会計・診療報酬請求)
部門システムと診療所等のシステム
検体検査・放射線・薬剤・輸血・給食・リハビリ・看護・物流などの部門システムと、診療所・歯科・調剤薬局のシステムを学ぶ。
検体検査部門ではLIS(検体検査部門システム)が検査の受付・進捗・結果を管理し、分析装置を連ねた検査自動化システム(LAS)や採血支援システムと連携する。診療現場でその場で行う検査はPOCTと呼ばれる。放射線部門ではRIS(放射線部門システム)が検査の予約・受付・実施情報や撮影装置(モダリティ)との連携を管理し、撮影された医用画像はPACS(医用画像管理システム)が保存・管理・配信する。読影レポートシステムが画像診断報告書の作成を支援する。
薬剤部門システムは処方監査や内服薬・外用薬・注射剤の調剤支援、持参薬管理、抗がん剤プロトコル管理などを担う。輸血部門システムは血液型・不規則抗体などの検査データ、血液製剤のロット・在庫、患者の輸血歴や副作用を管理し、コンピュータクロスマッチ(交差適合試験の電子的照合)を支援する。栄養・給食部門システムは食事オーダに基づき、アレルギーや治療食に対応した献立・食数管理を行い、入退院・外泊の情報と連携して食止めなどに対応する。リハビリテーション部門システムはリハ処方の登録、療法士のスケジュール管理、実施記録などを支援する。
看護業務支援システムは、看護計画の作成、経過記録、バイタルサインを時系列で表示する経過表(温度板)、勤務管理などを支援する。物流部門ではSPD(物品の供給・在庫・搬送の一元管理)の仕組みにより、医療材料などの物品管理が行われる。
診療所では、レセプトコンピュータと電子カルテを一体型で導入する形態が多く、日医標準レセプトソフト(日レセ)などが使われている。歯科では歯の部位(歯式)の概念を扱える点が医科と大きく異なり、標準歯科病名マスターや技工指示書の管理などが特徴である。調剤薬局(保険薬局)では、レセプトコンピュータのほか、自動錠剤分包機や調剤監査システム、服薬歴・指導内容を記録する電子薬歴システム、電子版お薬手帳が用いられる。
| 略称 | 正式名称 | 役割 |
|---|---|---|
| LIS | Laboratory Information System | 検体検査の受付・進捗・結果の管理 |
| LAS | Laboratory Automation System | 分析装置を連ねた検体検査の自動化 |
| RIS | Radiology Information System | 放射線検査の予約・受付・実施情報の管理、モダリティ連携 |
| PACS | Picture Archiving and Communication System | 医用画像の保存・管理・配信 |
| SPD | Supply Processing and Distribution | 医療材料などの物品の供給・在庫・搬送の一元管理 |
| POCT | Point of Care Testing | 診療現場でその場で行う検査 |
- LIS
- Laboratory Information System(検体検査部門システム)。検体検査の受付・進捗・結果を管理し、分析装置や検査自動化システム(LAS)と連携する。
- RIS
- Radiology Information System(放射線部門システム)。放射線検査の予約・受付・実施情報の管理や、撮影装置(モダリティ)との連携を担う。
- PACS
- Picture Archiving and Communication System(医用画像管理システム)。CT・MRIなどの医用画像を保存・管理し、院内に配信するシステム。RISや読影レポートシステムと連携する。
- SPD
- Supply Processing and Distribution。医療材料などの物品の供給・在庫・搬送を一元管理する物流管理の仕組み。物品コードによる管理は病院経営にも寄与する。
- POCT
- Point of Care Testing。中央検査室ではなく、診療の現場(ベッドサイドや外来)でその場で行う検査。迅速に結果が得られる。
- コンピュータクロスマッチ
- 輸血の適合性を、血液型や不規則抗体などの検査データに基づいてコンピュータ上で照合する方法。輸血部門システムの機能の一つ。
- 電子薬歴システム
- 調剤薬局で患者の服薬歴や指導内容を電子的に記録するシステム。処方監査や服薬指導に活用される。
- 日レセ
- 日医標準レセプトソフト。日本医師会が提供するレセプトコンピュータ用ソフトウェアで、診療所を中心に広く使われている。
例題 RISとPACSの役割の違いは何か。
RISは放射線検査の予約・受付・実施情報の管理を担い、PACSは撮影された医用画像の保存・管理・配信を担う。両者は連携して放射線部門の業務を支える。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 2.9.3(看護業務支援), SBO 2.10.1〜2.10.2・2.10.7・2.10.10・2.10.11・2.10.14〜2.10.15(薬剤・検体検査・放射線・輸血・リハビリ・給食・物流), SBO 2.7.1(歯科), SBO 5.2.1〜5.2.3(診療所), SBO 5.5.1(薬局)
システムの導入と運用
情報化戦略とシステム調達
病院の経営戦略に基づく情報化、調達の手順(RFI・RFP・ベンダ選定)、契約の種類、要求仕様書の書き方を学ぶ。
病院情報システムの導入は、病院の経営戦略に基づく情報化戦略の一環として計画する。導入目的は業務の効率化だけでなく、医療の質・安全の向上、経営管理、地域連携など多様化している。経営層が導入の意思決定に関与し、医療における最高情報責任者(医療CIO)が情報化戦略の立案・推進の中心的役割を担う。情報システムには企画・調達から導入、運用、評価、次期更新へと続くライフサイクルがあり、運用中の評価を次期システムに反映させる。
調達は、調達要件の明確化から始まり、調達実施方法の検討、ベンダ評価基準の作成、RFP(提案依頼書)の作成、ベンダ選定リストの作成、RFPの発行、提案の評価、調達先の選定・契約という順で進む。RFI(情報提供依頼書)は、要件を固める前にベンダから製品・技術情報の提供を受けるための文書であり、提案を依頼するRFPとは役割が異なる。ベンダ評価基準はRFP発行前に作成しておくことで、提案を公平・客観的に比較できる。
契約には購入・リース・レンタルがある。リースはリース会社が購入した機器を長期間借りる形態で原則中途解約できない。レンタルは短期利用向けで中途解約が可能だが割高になりやすい。稼働後に備えてハードウェア保守契約・ソフトウェア保守契約を結ぶ。また、業務委託は受託者が自らの指揮命令で業務を遂行するのに対し、人材派遣は派遣先(医療機関)が労働者に指揮命令する点が異なる。
要求仕様書は、医療機関側が実現したい要求要件を明確にしてベンダに伝える文書であり、システム全般の基本的要求要件、ハードウェア・ソフトウェアの技術的要件のほか、部門システムなど複数システムを接続するための接続要件(接続対象、交換する情報、標準規格の利用など)を記載する。
| 順序 | 作業 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 調達要件の明確化 | 現状分析を踏まえ実現したい要求を整理する |
| 2 | 調達実施方法の検討 | 購入・リース等の形態や調達方式を検討する |
| 3 | ベンダ評価基準の作成 | RFP発行前に作成し公平・客観的に評価する |
| 4 | RFPの作成・発行 | 要求要件を示し提案書の提出を依頼する |
| 5 | 提案評価・調達先の選定 | 評価基準に基づき比較しベンダを決める |
| 6 | 契約 | 契約形態・保守条件などを取り決める |
- 医療CIO
- 医療機関における最高情報責任者。経営戦略と整合した情報化戦略の立案・推進、システム導入の意思決定への関与など、病院の情報化を統括する役割を担う。
- RFI
- Request for Information(情報提供依頼書)。調達要件を固める前の段階で、ベンダに製品・技術・実績などの情報提供を依頼する文書。提案書の提出を求めるRFPとは区別される。
- RFP
- Request for Proposal(提案依頼書)。医療機関が要求要件や調達条件を示し、ベンダに提案書の提出を依頼する文書。提案内容をあらかじめ作成した評価基準で比較してベンダを選定する。
- リース契約
- リース会社が購入した機器を医療機関が長期間借りて使用する契約。原則として中途解約ができない。短期利用で中途解約可能なレンタル、資産として保有する購入と区別される。
- 保守契約
- システム稼働後の維持管理に関する契約。ハードウェアの点検・修理を対象とするハードウェア保守と、不具合修正やプログラム修正への対応などを対象とするソフトウェア保守がある。
- 要求仕様書
- 医療機関がシステムに求める要求要件を明確にし、ベンダに伝えるために作成する文書。基本的要求要件、ハードウェア・ソフトウェアの技術的要件、システム間の接続要件などを記載する。
- 業務委託と人材派遣
- 業務委託では受託者側が自らの指揮命令で業務を遂行する。人材派遣では派遣先である医療機関側が派遣労働者に指揮命令を行う。指揮命令権の所在が両者を区別する重要な違いである。
例題 ベンダに提案書の提出を依頼する文書はどれか。
RFP(提案依頼書)。情報提供を依頼するRFIと区別する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 3.1.1〜3.1.3(情報化戦略・ライフサイクル), SBO 3.2.1(システム調達), SBO 3.2.2(契約), SBO 3.4.1〜3.4.5(要求仕様書)
導入プロジェクトと稼働準備
院内の合意形成と組織体制、マスター作成・データ移行・リハーサルから検収・サービスインまでの流れを学ぶ。
システム導入は病院全体のプロジェクトであり、病院の意思決定プロセスに沿った体制を組む。経営層を含む委員会が意思決定を行い、現場の医師・看護師・技師・事務職員などが参加するワーキンググループで運用と仕様を詳細化し、院内の合意形成を図る。ベンダ側にもプロジェクトマネージャを中心とした体制が組まれ、医療機関内の組織間、医療機関とベンダ間、複数ベンダが関与する場合のベンダ間の調整を計画的に行う。
導入フェーズでは、運用・仕様の詳細化、開発・設定・システム構築、マスター作成、システムテスト、データ移行、ユーザ教育(操作研修)、運用テスト(リハーサル)、端末展開を経て、検収の後にサービスイン(本稼働)を迎える。稼働直後はベンダや情報部門が現場に立ち会い、問い合わせや不具合に即応する(運用後立ち合い)。
マスター作成は、薬剤・病名・検査項目・利用者など院内の運用に依存する内容が多く、医療機関側の関与が不可欠である。データ移行は旧システムから新システムへ患者基本情報や診療データを移す作業で、移行範囲の決定と移行後の検証が重要になる。運用テスト(リハーサル)は、実際の業務の流れに沿って外来受付から会計までを通しで確認し、運用上の問題を稼働前に洗い出す。検収は、納品されたシステムが仕様どおりに動作することを医療機関側が確認して受け入れる行為である。
| 段階 | 作業 | 内容 |
|---|---|---|
| 詳細化 | 運用・仕様の詳細化 | ワーキンググループで運用と仕様を詰める |
| 構築 | 開発・設定・システム構築 | ベンダが設計・開発・環境設定を行う |
| 準備 | マスター作成 | 薬剤・病名等の基本データを医療機関側も関与して整備 |
| 検証 | システムテスト・データ移行 | 動作確認と旧システムからのデータ移行・検証 |
| 習熟 | ユーザ教育・運用テスト | 操作研修と業務の流れに沿ったリハーサル |
| 稼働 | 端末展開・検収・サービスイン | 端末設置、仕様どおりの動作確認を経て本稼働 |
- ワーキンググループ
- システム導入にあたり、医師・看護師・技師・事務職員など現場の代表者が参加して運用と仕様を検討する会議体。部門ごとの要望を調整し、院内の合意形成を進める役割を持つ。
- マスター作成
- 薬剤・病名・検査項目・利用者情報など、システムの動作の前提となる基本データを整備する作業。院内の運用に依存する内容が多く、医療機関側の関与が不可欠である。
- データ移行
- 旧システムに蓄積された患者基本情報や診療データを新システムへ移す作業。移行対象範囲の決定、移行方式の検討、移行後のデータ検証が重要となる。
- 運用テスト(リハーサル)
- 稼働前に実際の業務の流れに沿ってシステムを通しで使い、運用上の問題を洗い出すテスト。受付から診察・検査・会計までを本番同様の手順で確認する。
- 検収
- 納品されたシステムが要求仕様どおりに動作することを、発注者である医療機関側が確認して受け入れる行為。検収をもって納品が完了し、以後は保守契約等に基づく運用に移る。
- サービスイン
- システムの本稼働開始。稼働直後はベンダや情報部門の担当者が現場に立ち会い、操作の問い合わせや不具合への対応を行う(運用後立ち合い)。
例題 納品されたシステムが仕様どおり動作することを医療機関側が確認して受け入れる行為は何か。
検収。検収の後にサービスイン(本稼働)を迎える。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 3.2.3(導入フェーズからサービスイン), SBO 3.3.1〜3.3.4(導入に関わる組織体制)
運用管理と障害対応・評価
運用管理規程の3層構造、ユーザ管理・マスター管理、障害時対応とIT-BCP、システムの評価と改善を学ぶ。
病院情報システムの運用には、責任者・管理者と運用管理に関わるスタッフからなる運用管理体制を整える。運用のルールは、組織の基本方針を示すポリシー、それを具体化した運用管理規程であるスタンダード、日々の作業手順を定めるプロシージャ(実施手順)の3層で整備する。運用管理規程には、管理対象・管理体制、管理者と利用者の責務、サーバ・端末・ネットワークの利用、データの取り扱い・保管、教育・訓練、業務委託に関する安全措置、罰則規程などの項目を盛り込む。
日常の運用管理には、問い合わせ対応、ネットワーク・端末の管理、資産管理、性能管理、システム/ネットワーク監視などがある。ユーザ管理では、アカウントの登録と使用停止を人事情報と連動させ、退職者のアカウントは速やかに停止する。パスワードの運用、業務に応じたアクセス権の設定、データのダウンロード権限の管理、利用者教育も欠かせない。権限や職務を分離して相互チェックを働かせる考え方をセグリゲーションの原則という。マスター管理では、マスターとトランザクションデータの整合性を保つことが重要で、過去データが参照できなくなるためマスター項目は安易に削除せず、無効化などで対応する。標準マスターの利用はシステム間のデータ共有を容易にする。
システム障害時は、影響範囲の把握、利用部門への連絡、紙運用など代替運用への切り替え、復旧、復旧後のデータ遡及入力という流れで対応する。医療施設における事業継続マネジメントの一環としてIT-BCPを策定し、被災したシステムを復旧させるディザスターリカバリーの手順を定め、災害時・障害時に備えた訓練を平時から行う。
運用フェーズでは診療報酬改定への対応や医療安全のための改修が代表的なシステム改修となる。システムは導入して終わりではなく、測定対象の定義、データ収集、データ分析、情報のとりまとめと活用、是正活動という流れで継続的に評価・改善する。情報化には部分的なコミュニケーションの減少、ワークフローの変更による混乱、診療の不適切な類型化といった副作用もあり、評価の結果は次期システムへのフィードバックにつなげる。
| 階層 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1層 | ポリシー(基本方針) | 組織としての情報システム運用の基本方針 |
| 第2層 | スタンダード(運用管理規程) | 基本方針を具体化した規程・ルール |
| 第3層 | プロシージャ(実施手順) | 日々の作業レベルの具体的な手順書 |
- 運用管理規程
- 病院情報システムを安全に運用するためのルールを定めた規程。管理体制、管理者・利用者の責務、端末・ネットワークの利用、データの取り扱い、教育・訓練、罰則規程などの項目を含む。
- ポリシー・スタンダード・プロシージャ
- 運用ルールの3層構造。ポリシーは組織の基本方針、スタンダードは基本方針を具体化した運用管理規程、プロシージャは日々の作業レベルの実施手順を指す。
- セグリゲーションの原則
- 権限や職務を1人に集中させず分離し、相互チェックが働くようにする考え方。不正やミスを防ぐため、登録と承認の分離など業務に応じた権限設定を行う。
- マスター管理
- 薬剤・病名などのマスターを最新かつ正確に保つ管理。マスターとトランザクションデータの整合性を保つため、項目の削除ではなく無効化で対応し、標準マスターの利用で共有性を高める。
- IT-BCP
- 情報システムに関する事業継続計画。災害や障害の発生時にも重要な業務を継続・早期再開できるよう、代替手段や復旧手順、体制をあらかじめ定めておく。
- ディザスターリカバリー
- 災害などで被災した情報システムを復旧・復元すること、またはそのための体制・手順。遠隔地バックアップの活用などを含め、IT-BCPと併せて整備する。
- 代替運用(紙運用)
- システム障害時に、あらかじめ用意した紙の伝票・カルテなどで業務を継続する運用。復旧後には代替運用中の記録をシステムへ遡及入力し、データの連続性を確保する。
例題 システム障害の復旧後に、代替運用中の記録に対して行うべきことは何か。
システムへの遡及入力。データの連続性を確保する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 4.1.1〜4.2.3(運用体制・運用管理規程), SBO 4.3.1〜4.3.7(運用管理・障害対応・IT-BCP), SBO 4.4.1〜4.4.7(評価・改善)
地域連携と標準規格
地域医療連携とEHR・PHR
診療所の情報システム、地域医療連携情報システムの機能とアーキテクチャ、EHR・PHRの考え方を学ぶ。
保健・医療・介護を支える情報システムは、病院情報システムだけでなく、診療所・薬局・訪問看護ステーション・介護事業者・健診機関・検査センターなどのシステムと、それらをつなぐ地域医療情報連携ネットワークから構成される。
診療所の情報システムは、病院と異なり部門システムが少なく、レセプトコンピュータと電子カルテが一体または密接に連携した構成が多い。日本医師会が開発・提供する日医標準レセプトソフト(日レセ)はその代表例である。診療所では専任の情報担当者を置きにくいため運用管理の負担を小さくする工夫が求められ、地域医療連携ネットワークに参加するうえで標準化への対応が重要になる。
地域医療連携情報システム(地域医療情報連携ネットワーク)は、地域の医療機関が患者の診療情報を相互に参照・共有し、紹介状(診療情報提供書)の作成や診療予約、地域連携パスの運用などを支援する仕組みである。アーキテクチャには、各施設がデータを保持し必要時に相互参照する分散型と、データセンターに情報を集約するクラウド型(集中型)がある。運用面では、システム利用者の運用の徹底、在宅医療での利用、補助金終了後の事業継続の問題などが課題とされる。
EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)は、施設の枠を越えて生涯にわたる個人の医療・健康情報を共有・活用する記録の考え方であり、地域医療連携情報システムはその基盤となる。PHR(Personal Health Record:個人健康記録)は、個人が自らの健康・医療情報を管理・活用する仕組みで、電子版お薬手帳や健診結果の管理アプリなどが該当する。
| 方式 | データの持ち方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 分散型 | 各施設が自施設のデータを保持 | 必要時に施設間で相互参照する。既存システムを活かしやすい |
| クラウド型(集中型) | データセンターに集約 | 参加施設は共通基盤を参照する。一元管理しやすい |
- 地域医療連携情報システム
- 地域の病院・診療所などが患者の診療情報を相互に参照・共有するためのシステム。紹介状作成・診療予約機能や地域連携パス機能を持ち、地域完結型医療を支える基盤となる。
- 分散型とクラウド型
- 地域医療連携のアーキテクチャの分類。分散型は各施設がデータを保持し必要時に相互参照する方式、クラウド型(集中型)はデータセンターに情報を集約して共有する方式である。
- 地域連携パス
- 急性期病院から回復期病院、かかりつけ医までの診療計画を地域の複数施設で共有し、切れ目のない医療を提供するための計画表。地域医療連携情報システムの主要機能の一つ。
- EHR
- Electronic Health Record(電子健康記録)。施設の枠を越えて生涯にわたる個人の医療・健康情報を共有・活用する記録の考え方。地域医療連携情報システムがその基盤となる。
- PHR
- Personal Health Record(個人健康記録)。個人が自らの健康・医療情報を収集・管理し、健康管理や受診に活用する仕組み。電子版お薬手帳や健診結果管理アプリが例である。
- 日医標準レセプトソフト
- 日本医師会が開発・提供するレセプトコンピュータ用ソフトウェア(日レセ、ORCA)。診療所を中心に広く利用され、診療報酬請求事務を支援する。
例題 個人が自らの健康・医療情報を管理・活用する仕組みを何と呼ぶか。
PHR(Personal Health Record)。施設を越えた共有の仕組みであるEHRと区別する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 5.1.1(全体概要), SBO 5.2.1〜5.2.3(診療所のIT化), SBO 5.4.1〜5.4.3(地域医療連携情報システム), SBO 1.3.1・1.3.2(EHR・PHR)
オンライン資格確認・電子処方箋と遠隔医療
マイナ保険証によるオンライン資格確認、電子処方箋の仕組み、遠隔医療の分類(D to D・D to P)を学ぶ。
オンライン資格確認は、患者の医療保険の資格情報をその場でオンライン照会する仕組みで、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が運営するオンライン資格確認等システムを基盤とする。患者はマイナンバーカード(マイナ保険証)を顔認証付きカードリーダーにかざし、ICチップの電子証明書で本人確認と資格確認を行う。12桁のマイナンバー自体を医療機関が扱うわけではない。保険医療機関・薬局には2023年4月からオンライン資格確認の導入が原則義務化されている。患者本人の同意のもと、医療機関・薬局は薬剤情報や特定健診情報等を閲覧でき、診療に活用できる。従来の健康保険証は2024年12月に新規発行が終了し、マイナ保険証を保有しない人には資格確認書が交付される。
電子処方箋は、紙の処方箋を電子化し、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が運営する電子処方箋管理サービスを通じて医療機関と薬局の間で処方・調剤情報をやり取りする仕組みで、2023年1月に運用が開始された。オンライン資格確認等システムを基盤とし、複数の医療機関・薬局にまたがる直近の処方・調剤情報を確認して重複投薬や併用禁忌のチェックに活用できる。処方箋の発行には医師・歯科医師の電子署名(HPKIカード等による)が必要で、患者は電子処方箋か紙の処方箋かを選択できる。
遠隔医療は、接続対象によりD to D(医師—医師間)とD to P(医師—患者間)などに分類される。D to Dの代表が、放射線画像を遠隔地の専門医が読影するテレラジオロジー(遠隔読影)と、病理標本の画像を病理医が遠隔で診断するテレパソロジー(遠隔病理)であり、テレパソロジーは術中迅速診断にも活用される。D to Pの代表が、情報通信機器を通じて診察・処方などを行うオンライン診療(遠隔診療)や、在宅患者の状態を継続的に把握する遠隔モニタリングである。看護師等が患者側にいて医師とつなぐD to N to Pという形態もある。通信の形態では、テレビ会議のようにリアルタイムで行う同期型と、画像等を送っておき後から診断する非同期型に分けられる。
| 分類 | 接続対象 | 代表例 |
|---|---|---|
| D to D | 医師 — 医師 | テレラジオロジー(遠隔読影)、テレパソロジー(遠隔病理)、遠隔医療コンサルテーション |
| D to P | 医師 — 患者 | オンライン診療(遠隔診療)、遠隔モニタリング |
| D to N to P | 医師 — 看護師等 — 患者 | 看護師等が患者側で支援する遠隔診療・遠隔保健指導 |
| 通信形態 | 同期型/非同期型 | 同期型:テレビ電話等のリアルタイム通信/非同期型:画像等を送り後から診断 |
- オンライン資格確認
- 医療保険の資格情報をオンラインで照会する仕組み。マイナンバーカードのICチップの電子証明書または資格確認書等で確認し、支払基金・国保中央会のオンライン資格確認等システムが基盤となる。
- マイナ保険証
- 健康保険証として利用登録したマイナンバーカード。顔認証付きカードリーダーで本人確認と資格確認を行い、本人の同意のもとで薬剤情報や特定健診情報等を医療機関が閲覧できる。
- 資格確認書
- マイナ保険証を保有しない人に保険者が交付する、医療保険の資格を確認するための書面。従来の健康保険証の新規発行終了(2024年12月)後の受診手段として用いられる。
- 電子処方箋
- 処方箋を電子的に運用する仕組み。電子処方箋管理サービスを介して医療機関と薬局が処方・調剤情報を共有し、重複投薬・併用禁忌のチェックに活用できる。2023年1月運用開始。
- HPKI
- 保健医療福祉分野の公開鍵基盤(Healthcare PKI)。医師などの国家資格を電子的に証明でき、電子処方箋の処方箋発行時の電子署名などに用いられる。
- テレラジオロジー
- 遠隔読影。放射線画像を通信回線で送り、遠隔地の専門医が読影・診断するD to D型の遠隔医療。読影医が不足する施設の画像診断を支援する。
- テレパソロジー
- 遠隔病理診断。病理標本の画像を送り、遠隔地の病理医が診断するD to D型の遠隔医療。手術中の術中迅速診断への活用が代表的である。
- オンライン診療
- 情報通信機器を用いて医師が患者をリアルタイムに診察するD to P型の遠隔医療。関連する指針・法規に沿って実施され、テレビ電話等の同期型通信を用いる。
例題 オンライン資格確認で患者の本人確認と資格確認に用いられるのはマイナンバーカードの何か。
ICチップの電子証明書。12桁のマイナンバー自体を医療機関が扱うのではない。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 5.1.1(保健・医療・介護を支える情報システムの全体概要), SBO 5.3.1〜5.3.3(遠隔医療)/オンライン資格確認・電子処方箋は2026年8月時点の現行制度(支払基金・厚生労働省公表資料で確認)
薬局・健診・介護の情報システム
薬局の調剤支援システムと電子版お薬手帳、健診システム、介護・訪問看護のシステム、検査センターの仕組みを学ぶ。
薬局の情報システムには、処方内容の入力と調剤報酬請求を行うレセプトコンピュータのほか、調剤を支援する各種システムがある。自動錠剤分包機は服用時点ごとに錠剤を一包化し、散薬監査システムは散薬の秤量を監査し、調剤監査システムは調剤結果の照合を支援する。電子薬歴システムは患者ごとの服薬指導記録を管理する。電子版お薬手帳は、患者がスマートフォンアプリなどで自らの調剤情報・服薬歴を管理する仕組みで、PHRの一例である。
健診システムは、健診の予約受付から実施、検査結果の管理、判定、報告書作成までを支援する。健診は同じ検査項目を多数の受診者に短時間で実施する点が診療と異なり、結果の経年管理や事後指導への活用が重要である。
介護分野では、保険者(市区町村)側の介護情報システムが資格管理・要介護認定・給付管理などを担い、事業者側のシステムがケアプランの作成や介護報酬請求(国民健康保険団体連合会への請求)を支援する。訪問看護ステーションでは、訪問先で記録・情報共有ができる訪問看護業務支援システムが用いられ、医療・介護の多職種をつなぐ地域医療・介護情報連携システムへの期待が高まっている。
検査センター(衛生検査所)は医療機関から検体検査を受託する施設で、検体の受領から結果報告までの業務をシステムで管理する。医療機関との間では依頼情報と結果情報をオンラインなどでやり取りし、バーコード等を用いて検体と依頼情報を正しく対応付ける「検体と情報のマッチング」が業務の要となる。
| 領域 | 主なシステム | 主な機能 |
|---|---|---|
| 薬局 | レセコン・調剤支援・電子薬歴 | 処方入力、調剤報酬請求、分包・監査、服薬指導記録 |
| 個人 | 電子版お薬手帳(PHR) | 調剤情報・服薬歴を個人が管理 |
| 健診 | 健診システム | 予約〜実施〜判定〜報告書、結果の経年管理 |
| 介護 | 保険者・事業者の介護情報システム | 要介護認定・給付管理、ケアプラン、国保連への請求 |
| 訪問看護 | 訪問看護業務支援システム | 訪問先での記録と多職種の情報共有 |
| 検査受託 | 検査センターのシステム | 依頼・結果のデータ交換、検体と情報のマッチング |
- 電子版お薬手帳
- 患者がスマートフォンアプリなどで自らの調剤情報・服薬歴を電子的に管理する仕組み。複数の薬局・医療機関の情報をまとめて管理でき、PHRの代表例とされる。
- 自動錠剤分包機
- 処方に基づき服用時点ごとに錠剤を自動で一包化する装置。調剤の効率化と取り違え防止に寄与し、薬局や病院薬剤部門の調剤支援システムと連携して動作する。
- 散薬監査システム
- 散薬(粉薬)の調剤時に、秤量した薬品と分量が処方と一致しているかを監査するシステム。秤の計量値と処方データを照合し、調剤過誤を防止する。
- 健診システム
- 健康診断の予約受付、実施管理、検査結果の管理・判定、報告書作成までを支援するシステム。多数の受診者を対象とし、結果の経年管理や事後指導への活用が特徴である。
- 介護情報システム
- 介護分野の情報システム。保険者(市区町村)側では資格管理・要介護認定・給付管理を、事業者側ではケアプラン作成や国保連合会への介護報酬請求を支援する。
- 検体と情報のマッチング
- 検査センターの業務で、受領した検体と検査依頼情報をバーコード等で正しく対応付けること。取り違えは誤った結果報告に直結するため、業務フローの要とされる。
例題 検査センターの業務で、検体と検査依頼情報をバーコード等で正しく対応付けることを何と呼ぶか。
検体と情報のマッチング。取り違え防止の要となる。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 5.5.1(薬局の情報システム), SBO 5.5.2(訪問看護), SBO 5.5.3(介護), SBO 5.5.4(検査センター), SBO 5.5.5(健診システム)
医療情報の標準規格
DICOM・HL7(v2/CDA/FHIR)・SS-MIX2・IHEと、病名・検査・医薬品の標準コード、厚生労働省標準規格を学ぶ。
多施設間で医療情報を交換・蓄積するには標準規格と標準マスターが不可欠である。DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)は医用画像とその通信の標準規格で、CT・MRIなどの撮影装置(モダリティ)とPACSの接続、可搬型媒体、画像表示の一貫性を保つグレースケール標準表示関数(GSDF)などを定める。
HL7(Health Level 7)は医療情報交換の標準規格群である。HL7 V2は患者基本情報・オーダ・検査結果などをメッセージとして交換する規格で、病院情報システムと部門システムの連携に広く使われる。CDA(Clinical Document Architecture)は診療情報提供書などの文書を構造化して交換するための規格である。HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)は、情報を「リソース」の単位で定義し、REST APIやJSONなどのWeb技術で交換する新しい標準で、実装のしやすさから国内外で採用が進んでいる。
SS-MIX2は、処方・検査結果・病名などの診療情報をHL7メッセージ等の標準形式で蓄積する「標準化ストレージ」の仕様であり、標準対象外のデータを格納する拡張ストレージも定義されている。施設間の情報連携や災害に備えた診療情報のバックアップに活用される。IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)は、新しい規格を作るのではなく、DICOMやHL7などの既存標準の使い方を業務シナリオごとに統合プロファイルとして定義し、テクニカルフレームワークとして公開する国際的な取り組みである。
標準マスター・コードには、WHOの国際疾病分類ICD-10に対応したICD10対応標準病名マスター、臨床検査項目の分類コードJLAC10、医薬品を識別する標準医薬品マスター(HOTコード)、診療報酬請求に用いるレセプト電算処理システム用コードなどがある。保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)はデータ交換規約などのJAHIS標準を策定している。国は、医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会)で採択された標準などから「厚生労働省標準規格」を定めており、SS-MIX2、DICOM、ICD10対応標準病名マスター、JLAC10、HOTコードのほか、HL7 FHIRに基づく記述仕様(診療情報提供書・退院時サマリー・健康診断結果報告書)も採択されている。
| 名称 | 対象 | 主な用途 |
|---|---|---|
| DICOM | 医用画像・画像通信 | モダリティとPACSの接続、画像の保存・表示(GSDF) |
| HL7 V2 | 診療情報のメッセージ交換 | 患者基本情報・オーダ・検査結果のシステム間連携 |
| HL7 CDA | 診療文書の構造化 | 診療情報提供書などの文書交換 |
| HL7 FHIR | リソース単位の情報交換 | REST API・JSON等のWeb技術による連携 |
| SS-MIX2 | 診療情報の標準化ストレージ | 標準形式での蓄積、施設間連携・災害時バックアップ |
| IHE | 既存標準の運用方法 | 統合プロファイルによる相互接続性の確保 |
| ICD-10(標準病名マスター) | 疾病分類・病名 | 病名の標準コード化、統計・DPC |
| JLAC10 | 臨床検査項目 | 検査項目コードの標準化 |
| HOTコード | 医薬品 | 医薬品の識別・システム間連携 |
| レセプト電算処理システム用コード | 診療行為・医薬品・特定器材 | 診療報酬請求(レセプト電算処理) |
| JAHIS標準 | データ交換規約等 | 業界団体JAHISが策定する実装規約類 |
- DICOM
- 医用画像とその通信の標準規格。撮影装置(モダリティ)とPACSの接続、画像の保存・可搬型媒体、グレースケール標準表示関数(GSDF)などを定め、画像診断分野で世界的に用いられる。
- HL7 V2
- 患者基本情報・オーダ・検査結果などをメッセージ形式で交換する医療情報交換の標準規格。病院情報システムと部門システムの連携に広く使われている。
- HL7 FHIR
- 情報をリソース単位で定義し、REST APIやJSONなどのWeb技術で交換するHL7の標準規格。実装が容易で、診療情報提供書などのFHIR記述仕様が厚生労働省標準規格にも採択されている。
- SS-MIX2
- 処方・検査結果・病名などの診療情報を標準形式で蓄積する標準化ストレージの仕様。標準対象外データ用の拡張ストレージも持ち、施設間連携や災害時のバックアップに活用される。
- IHE
- Integrating the Healthcare Enterprise。DICOMやHL7などの既存標準の使い方を業務シナリオごとに統合プロファイルとして定義する国際的な取り組み。テクニカルフレームワークとして公開される。
- ICD-10
- WHOが定める国際疾病分類の第10版。疾病や死因を分類するコード体系で、国内では ICD10対応標準病名マスターとして病名の標準コード化に用いられる。
- JLAC10
- 日本臨床検査医学会が定めた臨床検査項目の分類コード。検査項目を体系的に識別し、施設間での検査結果の交換・比較を可能にする。
- HOTコード
- 医薬品を識別する標準医薬品マスターのコード。販売名や包装単位のレベルで医薬品を一意に識別でき、システム間での医薬品情報の連携に用いられる。
- 厚生労働省標準規格
- 医療情報の標準化のため厚生労働省が定める標準規格群。HELICS協議会で採択された標準などから選ばれ、SS-MIX2・DICOM・標準病名マスター・JLAC10・HOTコード・FHIR記述仕様などが含まれる。
例題 診療情報を標準形式で蓄積し、災害時のバックアップにも活用される標準化ストレージの仕様はどれか。
SS-MIX2。医用画像の標準規格DICOMと取り違えないこと。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)SBO 6.1.1〜6.1.3(標準規格・標準マスターの必要性、厚生労働省標準規格), SBO 6.2.1(DICOM), SBO 6.2.2(HL7), SBO 6.2.3(IHE), SBO 6.2.5(SS-MIX/SS-MIX2), SBO 6.2.7(その他の標準規格)
関連法規とデータ解析
診療録等の電子保存の3基準
真正性・見読性・保存性の定義と対策、e-文書法、外部保存の要件を学ぶ。
診療録等の法定保存文書は、平成11年の通知「診療録等の電子媒体による保存について」で電子保存が認められ、その条件として真正性・見読性・保存性の3基準(電子保存の三原則)が示された。平成17年施行のe-文書法(電子文書法)は、法令で書面保存が義務付けられた文書の電磁的保存を一般的に容認する法律で、厚生労働省の省令により診療録等もその対象となり、スキャナ等による電子化保存も認められた。具体的な要求事項は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(厚生労働省)が示している。なお電子帳簿保存法は国税関係帳簿書類の電子保存を定めた税法上の法律であり、診療録の保存根拠ではない。
3基準の定義は安全管理ガイドラインの表現で覚える。真正性とは、正当な権限において作成された記録に対し、虚偽入力、書換え、消去および混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であることをいう。見読性とは、電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできることをいう。保存性とは、記録された情報が、法令等で定められた期間にわたって、真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されることをいう。
対策は基準ごとに対応付けて整理する。真正性の対策は、利用者認証とアクセス権限管理、記録の確定操作、更新履歴(監査証跡)の保存、代行入力に対する確定者の承認、スキャン文書への電子署名・タイムスタンプなど、「誰が作成したかを明確にし、改ざんを防ぐ」ものである。見読性の対策は、画面表示や書面への印刷手段の確保、障害時にも参照できる代替の見読化手段(バックアップサーバや代替端末)の準備など、「必要なときに読める」ようにするものである。保存性の対策は、バックアップ、媒体の劣化や規格変更に備えた新媒体・新形式への移行(マイグレーション)、コンピュータウイルス等による破壊の防止など、「保存期間中、失われない」ようにするものである。
診療録等は一定の基準を満たせば医療機関等の外部に保存することもできる(外部保存)。電子データをネットワークを通じて外部保存する場合も、電子保存の3基準を満たすこと、個人情報保護に十分留意することが求められ、外部保存を委託しても診療録等の保存義務と責任は医療機関等が負う。また診療録等をスキャナ等で電子化して保存する場合は、情報量(解像度等)を確保し、作成責任者の電子署名・タイムスタンプ等により真正性を確保する運用が求められる。
| 基準 | 定義(安全管理ガイドラインの表現) | 主な対策 |
|---|---|---|
| 真正性 | 正当な権限で作成された記録に対し、虚偽入力・書換え・消去・混同が防止され、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること | 利用者認証・権限管理、確定操作、更新履歴(監査証跡)、代行入力の承認、電子署名・タイムスタンプ |
| 見読性 | 電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること | 画面表示・書面への印刷手段、障害時の代替の見読化手段(バックアップサーバ等) |
| 保存性 | 記録された情報が、法令等で定められた期間にわたって、真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること | バックアップ、媒体・形式のマイグレーション、ウイルス等による破壊の防止 |
- 真正性
- 正当な権限において作成された記録に対し、虚偽入力、書換え、消去および混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること。利用者認証、確定操作、監査証跡、電子署名などで確保する。
- 見読性
- 電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。画面表示や書面への出力手段、障害時の代替の見読化手段の確保が対策となる。
- 保存性
- 記録された情報が、法令等で定められた期間にわたって、真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること。バックアップ、媒体劣化前のマイグレーション、ウイルス等による破壊の防止で確保する。
- 電子保存の三原則
- 診療録等を電子媒体で保存する条件として示された真正性・見読性・保存性の3基準のこと。平成11年の通知で示され、現在は医療情報システムの安全管理に関するガイドラインが具体的な要求事項を定めている。
- e-文書法
- 法令で書面による保存等が義務付けられた文書について、電磁的方法による保存等を一般的に容認する法律(平成17年施行)。厚生労働省令により診療録等も対象となり、スキャナ等による電子化保存も認められた。
- 外部保存
- 診療録等を医療機関等の外部に保存すること。電子データの外部保存では電子保存の3基準の確保と個人情報保護が求められ、委託しても保存義務と責任は医療機関等が負う。
- タイムスタンプ
- 電子データがその時刻に存在し、以後改ざんされていないことを証明する時刻証明の仕組み。スキャンによる電子化保存などで、電子署名とあわせて真正性の確保に用いられる。
例題 電子カルテの記載を確定後に修正したら、修正前の記録が残らない仕組みだった。どの基準の問題か。
真正性の問題。書換えの防止と作成責任の明確化のため、修正履歴(更新前の内容と修正者・日時)が残る仕組みが必要になる。
例題 保存媒体の劣化で10年前の記録が読めなくなった。どの基準の問題か。
保存性の問題。法定保存期間にわたり読める状態を保つため、媒体劣化前の新媒体への移行やバックアップが必要だった。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)第7章 医療情報分野の関連法規とガイドライン(SBO 7.1.1、7.4.4〜7.4.6)
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
厚生労働省の安全管理ガイドラインの構成と責任のあり方、非常時対応、3省2ガイドラインを学ぶ。
「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、厚生労働省が医療機関等を対象に策定するガイドラインで、電子保存の3基準の要求事項や情報セキュリティ対策を示す。技術の進歩やサイバー攻撃の状況に応じて改定が続いており、第6.0版(令和5年5月)では読者の役割に応じた4編構成(概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編)に再編された。令和8年6月に発出された第7.0版では、医療機関からシステムの保守を受託する事業者を対象とする保守委託機関編が加わり、5編構成となった。
各編の対象は、概説編がガイドライン全体の目的と考え方、経営管理編が経営層(意思決定、資源の確保、説明責任)、企画管理編が安全管理の実務の企画・管理を担う担当者(規程の整備、リスク評価、委託先の管理)、システム運用編がシステムの実装・運用の担当者(技術的対策の実装)である。医療機関の全員が同じ文書を読むのではなく、役割に応じて読むべき編が分かれていることが特徴である。
責任のあり方について、ガイドラインは通常運用における責任(説明責任、管理責任、定期的な見直し)と、事故発生時の事後責任(原因の説明、影響の把握と善後策、再発防止)に整理している。システムの運用や保守を事業者に委託しても、患者に対する最終的な責任は医療機関が負う。このため委託契約では責任分界点を明確にし、委託先の管理を行う必要がある。
非常時への備えとして、サイバー攻撃(特にランサムウェア)や災害を想定したBCP(事業継続計画)の整備が求められる。ランサムウェア対策では、バックアップをオフラインまたは書換えできない領域に複数世代保管すること、ネットワーク分離だけに頼らず脆弱性対策や認証強化を行うこと、復旧手順や紙運用への切替手順を定めて訓練しておくことが重要である。
医療情報を取り扱う際のガイドラインは、医療機関等向けの厚生労働省のガイドラインと、システム・サービスを提供する事業者向けの「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(経済産業省・総務省、第2.0版・令和7年3月改定)の2本に整理されており、あわせて3省2ガイドラインと呼ばれる。かつては経済産業省の受託情報処理事業者向けガイドラインと総務省のクラウド事業者向け等のガイドラインが別々にあり(3省4ガイドライン)、これらが統合された。
| 編 | 主な読者 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 概説編 | 全員 | ガイドライン全体の目的・考え方・用語 |
| 経営管理編 | 経営層 | 意思決定、資源の確保、説明責任などの統治 |
| 企画管理編 | 企画管理の担当者 | 運用管理規程、リスク評価、委託先の管理 |
| システム運用編 | システム実装・運用の担当者 | 認証・アクセス管理・バックアップ等の技術的対策 |
| 保守委託機関編 | 保守を受託する事業者 | 第7.0版で新設。保守業務における安全管理 |
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
- 厚生労働省が医療機関等を対象に策定する、医療情報システムの安全管理と電子保存の要求事項を示すガイドライン。第6.0版で概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編の4編構成となり、第7.0版で保守委託機関編が加わった。
- 経営管理編
- 安全管理ガイドラインのうち医療機関の経営層を読者とする編。医療情報システムの安全管理に関する意思決定、人員・予算などの資源の確保、説明責任といった統治(ガバナンス)の観点を扱う。
- 企画管理編
- 安全管理ガイドラインのうち、安全管理の実務の企画・管理を担う担当者を読者とする編。運用管理規程の整備、リスク評価、委託先の管理などを扱う。
- システム運用編
- 安全管理ガイドラインのうち、システムの実装・運用を担う担当者を読者とする編。認証、アクセス管理、ネットワーク、バックアップなど技術的対策の実装・運用を扱う。
- 責任分界点
- 医療機関と委託事業者の間で、どこまでを誰が責任をもって管理するかの境界。委託しても患者への最終的な責任は医療機関が負うため、契約で分界を明確にし委託先を監督する必要がある。
- BCP
- Business Continuity Plan(事業継続計画)。サイバー攻撃や災害でシステムが停止しても診療を継続・早期復旧するための計画。紙運用への切替手順、復旧手順、連絡体制を定め、訓練で実効性を確認する。
- ランサムウェア
- データを暗号化するなどして使用不能にし、復旧と引き換えに金銭を要求する不正プログラム。医療機関の被害が相次いでおり、オフラインまたは書換え不可の領域への複数世代のバックアップが重要な対策となる。
- 3省2ガイドライン
- 医療機関等向けの厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」と、事業者向けの経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」の総称。
例題 電子カルテの運用を事業者に全面委託していれば、情報漏えい時の患者への説明は事業者の仕事か。
いいえ。委託しても患者に対する説明責任・最終的な責任は医療機関が負う。契約で責任分界を定め、委託先を監督する必要がある。
例題 ランサムウェア対策として、バックアップを本番サーバと同じネットワーク上に常時接続で置くのは適切か。
不適切。常時接続のバックアップは本体と一緒に暗号化されるおそれがある。オフラインまたは書換え不可の領域に複数世代を保管する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)第7章 医療情報分野の関連法規とガイドライン(SBO 7.4.1〜7.4.3、7.6.1〜7.6.2)
個人情報保護と次世代医療基盤法
要配慮個人情報としての医療情報の取扱い、仮名加工・匿名加工、次世代医療基盤法の仕組みを学ぶ。
個人情報保護法における個人情報とは、生存する個人に関する情報で、氏名・生年月日等により特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号が含まれるものをいう。個人識別符号には、DNAの塩基配列など身体の特徴をデータ化した符号や、公的医療保険の被保険者証の記号・番号、マイナンバー、旅券番号などが政令等で定められている。個人情報を事業に用いる者は、件数にかかわらず個人情報取扱事業者として法の義務を負い、医療機関も対象である。監督機関は個人情報保護委員会である。
病歴は要配慮個人情報の代表例である。要配慮個人情報は、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などのほか、政令で、障害があること、健康診断等の結果、その結果に基づく医師等による指導・診療・調剤が行われたことなどが加えられており、診療情報の多くが該当する。取得には原則としてあらかじめ本人の同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供は認められない。一方、電話番号、国籍、収入などは要配慮個人情報ではない。
加工した情報の類型として、仮名加工情報は他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した情報で、主に組織内部での分析利用を想定し、原則として第三者提供はできない。匿名加工情報は特定の個人を識別できず、かつ元の個人情報を復元できないように加工した情報で、公表等の義務を守れば本人の同意なく第三者提供できる。医療分野では「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」が具体的な取扱いを示しており、利用目的を院内掲示等で公表すれば、診療に通常必要な範囲の利用は黙示の同意が得られていると考えられるとしている。第三者提供は原則本人同意だが、法令に基づく場合などの例外がある。なお医師等には個人情報保護法とは別に刑法等の守秘義務があり、両方の観点での検討が必要である。
次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)は、医療情報を研究開発に利活用するための特別法である。国(主務大臣)の認定を受けた認定匿名加工医療情報作成事業者が、医療機関等から医療情報を収集して匿名加工し、研究機関や企業等に提供する。医療機関から認定事業者への提供は、あらかじめ本人に通知し、本人(または遺族)が停止を求めない限り提供できるオプトアウト方式が認められており、要配慮個人情報のオプトアウト提供を禁じる個人情報保護法の特例となっている。令和5年の改正では仮名加工医療情報と認定仮名加工医療情報作成事業者の仕組みが追加された。
| 類型 | 内容 | 取扱いの要点 |
|---|---|---|
| 要配慮個人情報 | 病歴、健康診断等の結果、診療・調剤の情報など | 取得に原則本人同意。オプトアウトによる第三者提供は不可 |
| 仮名加工情報 | 他の情報と照合しない限り個人を識別できないよう加工 | 組織内部の分析用。原則として第三者提供不可 |
| 匿名加工情報 | 個人を識別できず復元もできないよう加工 | 公表等の義務のもと、同意なく第三者提供が可能 |
| 匿名加工医療情報(次世代医療基盤法) | 認定事業者が医療情報を匿名加工したもの | 医療機関からの提供は通知+オプトアウト方式。研究開発に利活用 |
- 要配慮個人情報
- 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実など、不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮を要する個人情報。取得に原則本人同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供はできない。
- 個人識別符号
- その情報単体で特定の個人を識別できるものとして政令等で定められた符号。DNAの塩基配列など身体的特徴をデータ化した符号や、公的医療保険の被保険者証の記号・番号、マイナンバー、旅券番号などが該当する。
- 仮名加工情報
- 他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した個人に関する情報。組織内部での分析利用を想定し、委託・事業承継・共同利用を除いて第三者提供はできない。
- 匿名加工情報
- 特定の個人を識別できず、かつ元の個人情報を復元できないように加工した情報。本人の同意なく第三者提供できるが、情報の項目と提供方法の公表、相手方への明示、識別行為の禁止といった義務が伴う。
- 黙示の同意
- 医療・介護関係事業者のガイダンスの考え方で、利用目的を院内掲示等で公表し本人が留保しない場合、診療や診療報酬請求など通常必要な範囲の利用・提供には同意が得られているとみなせるとするもの。
- 次世代医療基盤法
- 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律。認定を受けた事業者が医療情報を匿名加工して研究開発に提供する仕組みを定め、医療機関からの提供にはオプトアウト方式を認める。
- 認定匿名加工医療情報作成事業者
- 次世代医療基盤法に基づき、高い安全管理能力等の基準を満たすとして国の認定を受け、医療機関等から収集した医療情報を匿名加工して研究開発の用に提供する事業者。
- オプトアウト
- 本人の求めがあれば提供を停止することを条件に、あらかじめ通知・公表等を行ったうえで同意なく提供する方式。個人情報保護法では要配慮個人情報に使えないが、次世代医療基盤法は認定事業者への提供に限り認める。
例題 患者の病歴を含む研究用データセットを、本人同意なしにオプトアウトで他社へ提供できるか。
できない。病歴は要配慮個人情報であり、個人情報保護法のオプトアウトによる第三者提供は認められない。匿名加工情報にするか、次世代医療基盤法の認定事業者への提供などの枠組みを使う。
例題 受付で氏名を呼び出すことや、外部の検査会社への検体検査委託は個人情報の目的外利用になるか。
利用目的を院内掲示等で公表していれば、診療に通常必要な範囲として黙示の同意が得られていると考えられる(本人の求めがあれば個別に配慮する)。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)第7章 医療情報分野の関連法規とガイドライン(SBO 7.2.1〜7.2.4、7.3.1〜7.3.4、7.5.1〜7.5.3)
医療情報のデータ解析
リアルワールドデータの特性をふまえたデータ抽出・前処理・質管理と、公的データベースの概要を学ぶ。
病院情報システムに蓄積されるデータは、診療や診療報酬請求という業務(一次利用)のために記録されたリアルワールドデータであり、経営分析・質評価・臨床研究といった解析(二次利用)を意図して設計されてはいない。このため、目的に応じたデータの抽出と前処理、データの質の確認が解析の前提となる。たとえばレセプトの病名には請求のために付与された病名が含まれ、確定診断と一致するとは限らない。
データの抽出では、業務系データベースから直接抽出すると診療業務のシステムに負荷をかけるため、データウェアハウス(DWH)に複製したデータから抽出するのが一般的である。DWHは分析のために時系列でデータを蓄積した基盤で、特定の目的・部門向けに切り出したものをデータマートと呼ぶ。抽出にあたっては、対象期間・対象患者・除外条件の定義を明確にし、診療報酬改定などに伴うマスターやコードの改定履歴に注意する必要がある。
前処理と質管理の代表的な課題が、欠損値・外れ値・名寄せである。欠損値は未入力や検査が行われなかったことなどにより生じ、欠損の生じ方はランダムとは限らないため、理由を確認して解析目的に応じた扱い(除外、補完など)を決める。外れ値は入力ミスのこともあれば実際の異常値のこともあり、機械的に削除せず原因を確認して扱いを決める。名寄せは、同一人物に複数の患者IDが発行されていたり表記ゆれがあったりする記録を突合して統合する作業である。単位やコードの不統一の是正も含め、こうした質管理を怠ると解析結果が誤ったものになる。
全国規模の公的データベースも解析に使われる。NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)は全国のレセプト情報と特定健診・特定保健指導の情報を国が収集したデータベースであり、DPCデータはDPC対象病院等から収集される退院患者調査のデータで、経営分析や医療の質の比較にも用いられる。解析と可視化では、指標の分母・分子の定義を明確にすること、制度改定をまたぐ経時比較に注意すること、グラフの軸や種類を適切に選び誤解を招かないことが重要である。またAIを含む解析結果の利用では、元データの偏りや個人情報保護・研究倫理の枠組みへの配慮が欠かせない。
| 課題 | 例 | 対処の要点 |
|---|---|---|
| 欠損値 | 検査値の未入力、実施されなかった検査 | 生じた理由を確認し、目的に応じて除外・補完等を決める(ランダムな欠損とは限らない) |
| 外れ値 | 身長170cmを1.7と入力、まれな実際の異常値 | 入力ミスか真の値かを確認してから扱いを決める(機械的に削除しない) |
| 名寄せ | 同一患者に複数の患者ID、氏名の表記ゆれ | 記録を突合して同一人物のデータとして統合する |
| コード・単位の不統一 | 改定で変わった診療行為コード、施設ごとの単位差 | 改定履歴を考慮しコード・単位を統一してから解析する |
- リアルワールドデータ
- 診療報酬請求データや電子カルテデータなど、日常の診療の中で生成・蓄積される実世界のデータ。研究用に設計されたデータではないため、二次利用には特性の理解と前処理が不可欠となる。
- DWH
- Data Warehouse(データウェアハウス)。分析のために業務系システムからデータを複製し、時系列で蓄積した基盤。業務系データベースに負荷をかけずにデータ抽出・分析ができる。
- データマート
- DWHのデータから、特定の目的や部門の分析に必要な範囲を切り出して整理したデータベース。利用部門が扱いやすい形にすることで分析を効率化する。
- 欠損値
- 記録されるべき値が存在しないデータ。未入力や検査未実施などで生じ、生じ方はランダムとは限らない。理由を確認し、除外や補完など解析目的に応じた扱いを決める。
- 外れ値
- 他の値から大きく離れた値。単位の取り違えなどの入力ミスの場合と、実際の異常値の場合があり、機械的に削除せず原因を確認して扱いを決める必要がある。
- 名寄せ
- 同一人物に複数の患者IDが発行されている場合や氏名の表記ゆれがある場合に、複数の記録を突合して同一人物のデータとして統合する作業。
- NDB
- レセプト情報・特定健診等情報データベース。全国のレセプト情報と特定健診・特定保健指導の情報を国(厚生労働省)が収集したデータベースで、医療費分析や研究に利活用される。
- DPCデータ
- DPC対象病院等から収集される退院患者調査のデータ。診断群分類や診療行為の情報を含み、病院間の比較など経営分析や医療の質評価にも用いられる。
例題 レセプトデータだけで「この病名の患者数」を数えると、何に注意が必要か。
レセプト病名には請求のために付与された病名が含まれ、確定診断と一致するとは限らない。目的に応じて診療記録や検査値と突き合わせるなどの確認が必要。
例題 月次の平均在院日数を過去10年分並べて比較するとき、何に注意するか。
指標の定義(分母・分子)の一貫性と、診療報酬改定や病床機能の変更など制度・運用の変化をまたいだ比較になっていないかに注意する。
出典:日本医療情報学会 医療情報技師育成部会「医療情報技師 到達目標」(医療情報システム系)v7(2025年7月26日更新)第8章 医療情報のデータ解析(SBO 8.1.1〜8.1.3、8.2.1〜8.4.5)